岩田
ところで増田さん、先ほど
「『ポケモンブラック・ホワイト』で入らなかった仕組みがあった」
とおっしゃいましたが、それはなんですか?
増田
ゲームをクリアーしたときに“カギ”が手に入って、
もう一方のソフトに対して“カギを開ける”という仕組みです。
それによって、2本目を遊ぶとき、
違う印象で遊べるようになります。
岩田
“カギ”を手に入れることで
遊ぶ動機と体験が変わるんですね。
増田
はい。“ちょっと強いポケモンが出るカギ”みたいに、
1本遊んだあと、もう1本を違う深さで遊べるような
仕組みをつくりたかったんです。
海野
たとえば、なかなかゲームをクリアーできないお子さんがいたら、
うまい人が「手伝ってあげるよ」と言って、
“カギ”でその世界を変えてあげることもできます。
それによって『ポケモン』の世界観が広がっていくところが、
“共鳴”という言葉と非常にマッチしていたんです。
その仕様自体は、“共鳴”という言葉が
出てくる前に聞いたんですけど。
岩田
つまり、共鳴をテーマにしようと思ったら、
増田さんからもらっていたお題は、
「“共鳴”そのものじゃないか」と思ったんですね。
海野
そうです。
ちょっと、できすぎていますけど(笑)。
岩田
はい、できすぎていますね(笑)。
海野
多分、『ポケモンブラック・ホワイト』のあと、
「さらに発展させた遊びができるはずだ」という思いが、
スタッフみんなにあったのではないかと思います。
というのも、企画を考えてもらうとき、
上がってくる速度が非常に早かったんです。
岩田
せっかく思いついても、
使うことができなかった仕組みがあったように、
『ポケモンブラック・ホワイト』で広げた土台で、
「使えていない要素やネタがいっぱい残っている」
とみんなが思っていて、もともとのエネルギーとして、
スタッフにたまっていたのかもしれませんね。
海野
はい。それでおそらく、“共鳴”という言葉に
マグネットのように吸いよせられたんじゃないかと思います。
石原
あとストーリー的にも、
『ポケモンブラック・ホワイト』が謎を残しつつおわったので、
「あいつはあのあと、どうしたんだ?」って、
つくっている側も答えを出したかったでしょうし。
岩田
でも『ポケモンブラック・ホワイト』をつくっていたときは、
「あとで続編に活かそう」なんて思っていませんよね?
増田
まぁ・・・あえて、放っておこうかな・・・と(笑)。
一同
(笑)
増田
でも、ありがたいことに
今回の続編で活かしてもらえました。
岩田
確かに、物語はあらゆる謎が
解決しておわることはないですが、
つくり手として、自然と放っておけなくなるのかもしれませんね。
海野さんの目から見て、フェスミッション以外で
チャレンジした部分はどこでしたか?
海野
“共鳴+世界を広げる”という意味では、
「ポケウッド」という『ポケモン』で映画が撮れる仕組みです。
これは企画スタッフ全体から出てきた案ですけど、
ポケモンを捕獲、対戦、通信、交換する以外にも、
「本編で『ポケモン』の世界観をもっと広げたい」という気持ちが、
グラフィックデザイナーとしてずっとあったんです。
岩田
いままでは、『ポケモンスナップ』(※15)のように、
本編以外で『ポケモン』の新たな魅力を表現してきました。
でも、そういう要素を本編で入れてみたかったんですね。
※15
『ポケモンスナップ』=1999年3月に、NINTENDO64用ソフトとして発売されたカメラアクションゲーム。岩田が制作にかかわっていた。
海野
はい。そこで“映画”なら、
わりと“何でもあり”な世界観だから、
広がりを持てるんじゃないかと思ったんです。
岩田
“何でもあり”とはどういうことですか?
海野
本来だったらイッシュ地方ではあり得ないような
スペースファンタジーだったり・・・。
岩田
え? 『ポケモン』でスペースファンタジーですか?(笑)
海野
恋愛だったり・・・。
岩田
ええっ? 『ポケモン』で恋愛ですか?!(笑)
海野
はい(笑)。
ただ、どこまでやっていいのか、不安もありました。
ポケモンさんがずっと守ってきた世界観が当然ありますし、
ゲームフリークが大事にしてきたものもありましたので、
企画書を出すときには、かなりドキドキしました。
増田
仕様書の最初のページに、
アダムスキー型UFOといっしょにポケモンがいるんですよ。
「なんだこれはっ!?」って(笑)。
岩田
ほおー・・・(笑)。
増田
でもよく見ると、
UFOが上から糸で吊るされていたんです。
そういう感じがすごく面白かったし、
確かに何でもできそうだったので、
自由にやってもらいました。
岩田
ただ、それを実際に遊べるものにするには
工夫が必要ですよね。
増田
はい。でも、どういう遊びにするかは
非常に練り込まれていたんです。
映画には選択式のシナリオがあって、
ポケモンのタイプがわからないと、
シナリオがうまく進まないようになっています。
岩田
それは『ポケモン』を遊び込んでいて
タイプに関する知識があれば、
それがちゃんとゲームに役立つようにできているんですね。
増田
はい。くわしい人ほど順調に撮影が進むので、
知識がそのまま役に立つうえ、
わからない人にとっては、勉強になるんです。
海野
じつは、対戦という面で、
「『ポケモン』はだんだんコアな方に特化してきている」
という問題が以前からありました。
ポケモンや技のタイプを覚えなきゃいけないから、
「バトルがわかりにくい」という意見もあります。
だから、はじめてプレイされる方に向けて、
「『ポケモン』の根幹部分をどう知ってもらうか?」
という議題が上がっていたんです。
岩田
時代とともにどうしてもバトルが複雑になってきたので、
覚えなきゃいけないことが増えていくんですよね。
海野
はい。そこで「ポケウッド」の企画を考えていたとき、
「映画をつくる中で、セリフや技の選択を間違えると、
エンディングや観客の評価が変わってしまう・・・」
という遊びにすれば、
「『ポケモン』の仕組みを自然と学べるんじゃないか?」
と思いついて、アイデアが合体したわけです。
だから「ポケウッド」を遊ぶだけで、いつの間にか
バトルの面白さや奥深さを学べてしまいます。
岩田
思いついた面白いことと、別の問題が
ポンッとくっついたとき、物事は化けるんですよね。
「複数の問題を一度に解決するものがアイデアである」(※16)。
まさに宮本さんの言葉そのものですね。
※16
「複数の問題を一度に解決するものがアイデアである」=この言葉は、「ほぼ日刊イトイ新聞」の糸井重里さんと岩田との対談、「アイデアというのはなにか?」で紹介されている。