社長が訊く
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社長が訊く『ニンテンドー3DS』

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社長が訊く『ニンテンドー3DS』

本体コンセプト 篇

目次

3. 3Dを自分の好きなように

岩田

梅津さんが「これはマズイ」と思ったのは、
立体視液晶を採用することを想定していなかったからですか?

梅津

そうです。もちろん立体視の液晶は知ってはいたのですが、
『ルイージマンション』でつくった試作は見ていませんでしたし、
そもそも3Dでゲームをつくるとどうなるのか、
まったくイメージがわかなかったんです。
だからいきなり言われたときは
「紺野さん、思いつきで言ってるのかなあ」と(笑)。

岩田

(笑)

梅津

正直言って、初めは「これは困ったな」と思いました。
とはいえ、DSのときに途中から2画面にして
とてもうまくいった経験もありまして・・・。

岩田

「試す価値はあるかもしれない」と?

梅津

はい。
それに「2画面よりはまだマシだ」と思いました(笑)。

一同

(笑)

梅津

あの土壇場でも2画面に対応させることができましたから。

岩田

土壇場でちゃぶ台返しに遭うとキモが据わるものなんですかね(笑)。
とはいえ、3D対応にするのは簡単なことではなかったんですよね。

梅津

はい。立体視にするということは、
ひとつの画面で、同時に2度表示することになるわけですから。

岩田

つまり、画面は物理的に1個でも、
左目用と右目用の絵をそれぞれつくらなければいけないので、
実は2画面描く必要があるということなんですね。

紺野

それに下画面を加えると、実質的には画面3個分になるんです。

梅津

ですから、上画面の3Dスクリーンに表示したい絵を
2倍のスピードで描画することが求められましたので、
それまで進んでいたSoCの設計を
新たに考え直す必要に迫られました。

岩田

ここで、梅津さんがもともと
「消費電力にちょっと余裕を持たせなきゃ」と考えて
最初にSoCを設計していたことが活きるんですね。

梅津

はい。立体視にすることで、結果的に電力が上がって、
その余裕を使い切ってしまったんですけども。

岩田

3Dグラフィックスで光の陰影を表現するには、
プログラマブルシェーダ(※19)という方式が
一般的に使われるようになりましたよね。
今回の3DSではその方式ではなく、
DMP(※20)さんの技術を採用することになりましたが、
それについて、ちょっと説明していただけますか?

※19
プログラマブルシェーダ=「シェーダ」とは主に光や影などの表現を行うグラフィックス処理回路やプログラムのこと。プログラマブルシェーダとは、このシェーダにおいてどのような計算をするかを自由に設定できるようにした方式で、自由度が高く、いろいろな陰影表現が可能になると言われている。
※20
DMP=株式会社デジタルメディアプロフェッショナル。主にグラフィックスプロセッサの開発・販売を行うメーカー。本社は東京・三鷹。

梅津

そもそも携帯ゲーム機のなかでいちばん電気を食うのは
液晶画面のバックライトなんです。

岩田

3DSでは、その画面が2個付いていますし、
上画面は立体視液晶ですからね。

梅津

はい、立体視液晶では、
左目と右目に異なる画像を届ける必要がありますから、
3D表示中は、それぞれの目に届く光の量が半分になってしまうんです。
それで同じ明るさに感じるようにするには、
バックライトをより明るくしなければならないので
消費電力がさらに大きくなってしまうんです。

岩田

3Dを選択したことで、
グラフィックスは2倍描かなければならないし、
バックライトもより明るくしなければならないし、
消費電力については、悩みが多かったでしょうね。

梅津

最初から、液晶画面で電力を多く消費することはわかっていたので、
グラフィックスにはそう多くはかけられないと思っていました。
そこで、プログラマブルシェーダ方式については
けっこう長いこと検討をしたのですが、
その方式を、携帯ゲーム機で使おうとすると
SoCの内部でソフトウェア的な計算処理をするということもあって、
画面上の1点を描画するための陰影計算にたくさんのステップが必要になって
より速い動作周波数(※21)で動かさないと処理が追いつかないんです。

岩田

つまりその方式だと、電力を食い過ぎるんですね。

梅津

そうです。一方、DMPさんの技術であれば
ハードウェアで計算しますので、
消費電力をおさえることができるというメリットが期待できました。

※21
動作周波数=「クロック」とも呼ばれ、コンピューターの回路間で、処理の同期をとるためのテンポのこと。

岩田

DMPさんの技術は、
プログラマブルシェーダでよく使われるほとんどの陰影計算処理を
ハードウェアとして実現することで、
より遅い動作周波数でも、同じ処理が実現できるそうですね。
いまの半導体技術では、周波数は消費電力に直接影響しますから
消費電力ではずいぶん有利になるんでしょうね。

梅津

はい。携帯ゲーム機の限られた電力をやりくりするなかで、
DMPさんの技術を採用するのがベストだと思いました。
さらに、少しでも消費電力を節約するために、
「省エネモード」という機能も用意しました。

岩田

「省エネモード」というのが、
どんなことをする機能か説明してもらえませんか。

梅津

先ほどもお話ししたように、
携帯型ゲーム機でいちばん電力を消費するのは
液晶のバックライトですし、画面を3Dにしたことで、
よりバックライトの消費電力が問題になるんですね。
「省エネモード」というのは、
実はバックライトを自動的に調整する機能なんです。
より詳しく説明すると、表示されている画面の明るさに応じて、
バックライトの明るさをきめ細かくコントロールして、
画面全体が暗くなったときは、
バックライトそのものを暗くすることで消費電力を節約します。

岩田

すると原理的には、ゲームが明るい画面ばかりなら、
あまり効き目はないかもしれませんが、
バックライトを明るい設定にしていて、
かつゲーム画面で暗いシーンの割合が多いほど、
「省エネモード」が効くということなんですね。

梅津

そうです。ただ「省エネモード」の効果については、
ゲームの処理でどの程度、SoCが休みなく動いているか、
カメラや無線を使っているか、音量はどのくらいか、など
さまざまな要素が消費電力に影響するので一概には言えないんです。

岩田

一概に言えないにしても、
目安をお伝えするとしたら、どんな感じでしょうか。

梅津

先日、3DS専用ソフトを遊ぶときのバッテリー持続時間を
約3~5時間とお伝えしましたけど、
任天堂のいくつかのソフトで実測しまして、
バックライトがいちばん明るい設定で、
「省エネモード」をオフにしたときのバッテリー持続時間は
約3時間でした。
一方、同じ条件で「省エネモード」を使った場合は、
これより10%~20%長くなりました。
また、バックライトをいちばん暗い設定にしたときは、
バッテリー持続時間が約5時間になるんですが、
「省エネモード」による差は小さくなります。

岩田

つまり、バッテリー持続時間にいちばん影響するのは、
バックライトの明るさ設定なんですね。

梅津

そうです。
それ以外に、バックライトがいちばん明るいときは、
3Dか2Dかで、バッテリー持続時間が約25%違うという結果が出ています。

岩田

やはり、3Dは消費電力との戦いなんですね。
ところで、無線を使うとどうなるんですか?
きっと心配しているお客さんがいらっしゃると思うんですけど。

梅津

「すれちがい通信」(※22)だけなら、ずっと通信をしているわけではないので
バッテリー持続時間にそれほど大きな影響はないんですけど、
やはりローカル対戦やWi-Fi対戦など、頻繁に通信をし続けるゲームでは、
バックライトがいちばん明るいときで、
バッテリー持続時間に10%強の影響が出ていました。

※21
「すれちがい通信」=電源を入れたまま本体を持ち歩くことで、すれちがった人とデータのやり取りができる通信機能。

岩田

やっぱり、いままでよりは頻繁に充電していただく必要があるんですね。
そういうこともあって、 専用充電台を本体に標準で同梱して、
家に帰ったら、そこに置いていただこうという提案を
今回はさせていただくことになりました。
 
さて、そうやって立体視液晶を採用することが決まっても、
今度は人によっては見え方が違うといった問題も出てきましたよね。
両目の幅が異なるなど、個人差がありますから。

紺野

はい。そこで、立体感の強さを調整できる
3Dボリューム」を付けることでその問題を解決しました。

岩田

でも「3Dボリュームを付けてください」とか、
ワイヤレスをオフにするスイッチが機械的にほしいだとか、
スイッチがどんどん増える方向にいって、まかり間違うと
ごてごてした商品になってしまうという心配が、
デザインを担当している杉野さんたちにはあったんじゃないですか?

杉野

はい、やはりありました。
3Dボリュームにしても、それを付けるんだったら、
+と-だけのスイッチにしたほうがスマートでいいだろうと、
最初に僕らは思いましたから。

岩田

機械的なボリュームにしてしまうと
場所をとるんですよね、部品として。
「小さく、薄く」が求められている立場では、
ボリュームは避けたかったのでしょうね。

杉野

はい。ですから「+と-のスイッチでいいですか?」
という話をしたら、スライド式にして
自分で好きなように動かせないと絶対にダメだと言うんです。
とくに宮本さんや紺野さんが強く主張されていたと思います。
そこで僕は「機能としては同じでしょう?」と言ったら、
実際に試作品をつくって見せてくれたんです。

紺野

やはりまずは触ってもらおうということになりまして、
Wiiリモコンにスライドボリュームを付けたものを、
わりと短期間に技術スタッフがつくってくれたんです。
それは、ボリュームを半分動かしたら、
立体加減も半分になるようなもので、実際に見てもらったら、
「自分で好きなように立体度が調整できる3Dは魅力的だぞ」
ということで・・・。

岩田

即採用?

紺野

はい、即採用でした(笑)。

杉野

僕も「この感覚は確かにいい」と。

岩田

ボリューム式だと、スイッチがどの位置にあるかがわかって、
しかも、目標の場所にキュッと持っていける感じがすごく大事なんですね。

杉野

そうなんです。
+と-のスイッチではそういうことはできませんし、
そのアナログ的なところがとてもいい感じで、
「やっぱりこれは要るね」ということになりました。
 
そもそも今回のプロジェクトでは
3Dの画面にしても、3Dボリュームにしてもそうなんですが、
紺野さんは実際に動くものを持ってきて、
「こういうのをつくってみたんだけど、どう?」と、
新しい提案をしてくれました。
ですから言葉だけで言われるよりも、実際に触ってみると
自分のなかではすごく腹に落ちやすいところがあって、
「よしやるか!」という気になったんです。

岩田

3D画面の採用そのものからそうでしたが、
とにかく試作品をつくって持っていって、
まず触ってもらってから説得なんですね(笑)。

紺野

はい(笑)。

岩田

ただそうやって、「3Dボリューム」を付けることにした後に、
次は「 カメラを2個付けたい」と言い出したりしましたよね。
あれは、どうやって決まったんですか?

紺野

でも3Dカメラは必然でした。

岩田

付けるのが当然だということですか?

紺野

はい。「立体表示ができるのであれば
立体カメラも付けられますよね」という感じでした。

杉野

決めるのも早かったです。

紺野

もちろんDSiにもカメラが付いてますけど、
立体写真が撮れるようになれば、違った楽しみ方ができるので
なんとか実現させようと思ったんです。
ところが『マリオカートWii』を3Dで動かすのとは違って、
立体写真を撮影して、実際に画面に出してみるまでは
けっこう、時間がかかったような気がします。
いろいろと試行錯誤がありまして、最終的に撮影したものが、
立体に見えたときは本当にうれしかったですね。

岩田

立体写真の面白いところは、
モデルになる人がいろんなポーズをとることですよね。

紺野

そうなんです。
できあがったばかりの立体カメラを宮本さんに向けたら、
ボクシングのファイティングポーズをとってくれて、
「おーおー、ちゃんと飛び出してるぞ」という反応でした(笑)。

岩田

(笑)