5. “持ち歩ける恐怖”
川田
ちなみに、われわれも難しいと感じていることですが、
3Dを今後、どうやってお客さんにアピールしていかれるんですか?
岩田
やはりみなさんに現物を見てもらいたくなるような努力を
これからも継続していきたいと思っています。
いち早く入手した人が「本当に見えたよ」と言ってくれて、
やがて「見ないとわからないよ」と次々にみんなが
言ってもらえるような状況をつくることが大切と感じています。
内蔵ソフトはそういう意味で充実させたんです。
たとえば3DカメラやARゲームズを本体に内蔵した理由は、
まわりの方全員に体験してもらいたかったからなんです。
川田
メディアを通じて打ち出すだけでなく、
実際に見せ合うという、いままでとは違う打ち出し方が
必要なんですね。
岩田
そういう意味では、恐怖をテーマとする『バイオハザード』も、
まわりの人が一緒に楽しみながら見られるような、
恐怖体験をおすそわけできるものがあると楽しいですね。
川田
確かに、遊んでいる人の姿を見ながら何かを共有することは、
携帯機での大きなチャレンジです。
岩田
『モンハン』(※19)や『ポケモン』(※20)など
社会現象になっているゲームがそうなんですが、
周囲で遊んでいる方が多いと、
その気がなかった方まで巻き込まれていくんですよね。
だから3DSが普及することで、結果的に
ソフトメーカーさんが出される魅力的なフランチャイズの数々を
知らないままでいる方にもお伝えできるチャンスが増やせたら、
とても意味のあることだと思っています。
川田
そうですね。ぜひそうなってほしいと思います!
岩田
では最後に、ニンテンドー3DSで発売される
『リベレーションズ』と『マーセナリーズ』の
アピールポイントを教えていただけますか?
川田
はい。『リベレーションズ』は
正統派で恐怖を前面に押し出した『バイオハザード』、
かたや『マーセナリーズ』は
3Dでガッツリとアクションを楽しめる内容に仕上がっています。
『4』や『5』(※21)のステージも登場し、再現性も非常に高く、
据置機に劣らないものができていると思います。
岩田
据置機でかつて味わったアクションシューティング的な体験が、
手のひらで遊べるということですね。
川田
そのとおりです。ぜひ実際にさわってもらって、
立体視と合わせてこんなことができるんだと感じてもらいたいです。
『リベレーションズ』は、もう少し先になるかもしれませんが
これだけの恐怖を携帯機でできる、ということを
ぜひ体験していただきたいです。
岩田
本物の『バイオハザード』の表現を
持ち運べることによって“恐怖と解放のコントラスト”が
どこででも味わえるんですね。
川田
ゲームを遊んでいる方は、30~40代の世代の方も
多いと思うんですが、家でゲームをする時間がとれないぶん、
携帯機なら移動時間に遊ぶことができますし、
3DSならもっと可能性が広がっていくと思うんです。
まったく個人的な気持ちですが、
現実は思っていたほど21世紀ではないなと
つねづね感じていたんですが、
最近ようやく21世紀っぽくなってきたなと思います(笑)。
岩田
ニンテンドー3DS用の『バイオハザード』は
まさに、21世紀の“持ち歩ける恐怖”ですね。
音と肉感の厚みがより増しているので、
迫ってきたら「ウワッ!」と思わせますし、
物体が怖い絵ではなく“肉”に感じるという声もあります。
それは陰影がどう映っているかといった、
ちょっとした“ナマっぽさ”の印象が異なるんですね。
川田
ちょっと気持ち悪い話になりますが、
血がドバッと出るとき、血じゃない何かも含まれているので、
このネチャっとした感じを体感していただけたらなと思います(笑)。
あと、銃を撃つときの距離感も工夫してみました。
主観視点で遊べるのですが、
目の前に“肉肉しい”ものが迫ってきたとき、
焦り方と切迫度合いが違っていると思います。
「もうちょっと先にいるかも」と思っていたら意外と近くにいて、
「やられる!」っていう感覚は上がっていると思います。
岩田
それにしても怖いことを語るとき、人は生き生きしますね(笑)。
怖さ体験ってどうしてこう生き生きするんでしょうね?
ここにホラーゲームがウケる理由はありそうですね。
川田
恐怖体験は共有したくなりますからね。
自分だけが怖い思いをして
終わりにしたくないじゃないですか(笑)。
あと音響的にも、本体に標準装備されているサラウンドが
すごくプラスになっていて、ホラーに合うなと思っています。
ハードの音の性能もすごくよくなっていますし、
これぞホラーの演出、というものを早く体験していただきたいです。
あ、可能であればヘッドフォンをつけて遊んでください。
岩田
ヘッドフォン! 怖そうですね。
川田
3DS体験会でも、いろいろな方に面白いと言っていただけたので、
そこからさらに、もっと上をめざす目標ができました。
やはり現場にいるだけだとわからないことも多いので、
俯瞰(ふかん)しなければと思っていますし、
いいところはこれからも積極的に伸ばしていきたいと思います。
岩田
そうですね。
宮本(茂)さんは、自分がつくるゲームに対して、
視点を動かす力がすごいんです。
普通は、自分の作品には、はまり込んでしまうものですが、
宮本さんは、まるで他人のもののように
「ここが足りない」と指摘できるんです。
だから自分が固定的にものを見て判断していないか、
しっかりと意識して、見る角度を変えて、
視点を動かすことが大切ですよね。
川田
そうですね。軸はぶれてないんだけど着眼点が変わる、
そういう仕事の仕方がすごく大切ですね。
岩田
まずはソフトの完成を、楽しみにしています。
今日はありがとうございました。
川田
ありがとうございました。