1. 合言葉は“ナマっぽさ”
岩田
今日は『バイオハザード』(※1)シリーズのプロデューサー、
カプコン(※2)の川田さんにお訊きしたいと思います。
川田さん、ご足労いただきありがとうございます。
川田
はい、いや、緊張してしまいますね(笑)。
よろしくお願いいたします。
岩田
こちらこそ(笑)。今日はよろしくお願いします。
まず、ニンテンドー3DSで
川田さんがどんなソフトをつくられているのか、
お話ししてもらえますか?
川田
はい。いまは『バイオハザード リベレーションズ』(※3)と
『バイオハザード ザ・マーセナリーズ 3D』(※4)という
2タイトルを、カプコン風に言えば“絶賛開発中”です(笑)。
岩田
『バイオハザード』がふたつのシリーズで動いていることを聞いて、
楽しみにされている方も多いと思います。
川田さんご自身は、これまで
据置機のゲームをつくってこられた方と聞いているんですが、
据置機のゲーム開発をどう感じてこられましたか?
川田
表現力の進化はすさまじかったですよね。
もともとデザイナーだったので、
ゲームにおけるグラフィックの進化には興味がありましたし、
表現技法もずいぶん多彩になったと感じています。
もともと『ロックマンDASH』(※5)みたいな
かわいいキャラクターものも興味はあったんですが、
反面、“ホラー”というジャンルにも愛着がありまして、
最近のWii版『バイオハザード4』(※6)や
『クロニクルズシリーズ』(※7)の開発など、
据置機のゲームにかかわりつづけてきました。
岩田
以前、三上(真司)さん(※8)がゲームキューブ用に
『バイオハザード』シリーズを何本かつくられたときも、
川田さんもかかわっていらっしゃったんですよね。
川田
直接かかわっていたのは
最初のゲームキューブ用『バイオハザード』(※9)だけで、
『0』(※10)や『4』(※11)では現場のスタッフではなかったです。
いわゆる“リメイクバイオ(ゲームキューブ用『バイオハザード』)”のときは
デザイナーとして背景の制作を担っていまして、
あのときは開発部に宮本(茂)さんがいらっしゃったりして、
本当にガチで任天堂さんと仕事をしていると感じていました。
ゲームキューブで表現できうる究極のかたちをつくるつもりで、
グラフィックスを極めましたし、かなりチャレンジングでしたけど、
『バイオハザード』としてのスタイルを
確立できたんじゃないかなと思います。
岩田
最初、『バイオハザード』を見て、
「家庭用ゲーム機でこんな表現ができるようになったのか」
とおどろきました。かなりつきぬけていましたから。
川田
当時、“ナマっぽさ”という言葉が合言葉でした。
“写実的”ではなく“ナマっぽいものをつくること”を目標に、
料理の仕方をいろいろと工夫したんです。
岩田
その“ナマっぽさ”というものは、どうすれば出るんですか?
表現をリアルにしただけではそうならないですよね?
川田
プレイヤーが何かすることに対して
何らかの反応があったり、生活感や空気感があったりして
はじめてナマっぽさは出てくるものではないかなと思います。
岩田
あの時代のゲームはまだ、動かない背景の上で
キャラクターが動いていたんですよね。
ゲームキューブ版では
「背景をリッチに動かすことで、
表現されるゲームの世界がどう変わるのか」
ということを追求されているように感じました。
川田
そうです。
アニメーション部分はとくに目を引きますよね。
ナマっぽさを出すやり方として
ちらちら動く光や、敵の微妙な動きなどは、
ホラーという題材のなかで
うまく表現できたのではないかと思います。
岩田
ツクリモノっぽいのか、ナマっぽいのか、というのは
ゲームで恐怖を表現することにとって、
すごく重要なキーワードであり、
『バイオハザード』にずっと引き継がれているんでしょうね。
川田
はい。『バイオハザード』はカプコンにとって重要なタイトルなので、
プレッシャーをつねに感じています。
場合によっては、同じ開発をしている人間に
僕のほうからプレッシャーのおすそわけもします(笑)。
岩田
それはどのようにするんですか?
川田
「もっとがんばってつくらないと、
お客さんは許してくれないよ!」
と言って励ましています(笑)。
岩田
ああ、それは自分たちがつくったもので遊んでくれる
お客さんのことをイメージするきっかけをつくるということですね。
そうすると、いい意味でのプレッシャーになって、
よりパワーが発揮される、という構造ですね。
川田
はい。経験上、
「自分はここまでできるから、そこまでの間でベストをつくす」
という考えだと、いまの時代、
お客さんに見透かされてしまうと思うんです。
なかなかベストをつくしていると感じてもらえない。
“ベストをつくす”ということは、つまり自分の
“できる範囲”を一方的にではなく、もっと上をめざさないといけない。
限界を超えていくということですね。
それができたら、さらに高みをめざしていく・・・
という気持ちが重要だと思っています。
今回、ニンテンドー3DSで『リベレーションズ』をつくる際、
携帯機用のつくり方ではなく、
据置機用のつくり方をつらぬこうと思いました。
つまり、携帯機のスペックを基準に仕上げるのではなく、
据置機の高いスペックを携帯機に持ち込めないか、
という決意で開発をはじめたんです。
岩田
最初から、そういうつくり方をお考えだったんですか?
川田
はい。そうしないと、われわれが考える
『バイオハザード』のブランドクオリティまで
到達しないんじゃないかと思ったんです。
大変だったんですが、いまの段階で
最初に狙っていたことはわりと達成できていると感じています。
岩田
はじめて『リベレーションズ』を見せていただいたとき、
社内の開発者たちがびっくりしたんですよ。
それはまさに、携帯型のゲームのつくり方ではない
やり方をされていたからで、表現されているものが
明らかに違って見えたんです。
川田
現段階では、さらに上をめざして
3DSの限界を攻めていける手ごたえを感じています。
そもそも裸眼立体視で見えること自体、
インパクトとして大きいですよね。
『バイオハザード』に登場する「ジル」というキャラクターも、
すごくなまめかしく動いて見えるんです。
岩田
立体に見えることで、なまめかしさが増したということですか?
川田
そうですね。
立体的に見えることで、存在感も含めて
魅力が上がっていると思います。
ということは、『バイオハザード』の敵も立体になることで
余計に気持ち悪く、近づきたくないものになっています(笑)。
岩田
なるほど、対比があの世界をつくるんですね。
川田
はい。『バイオ』シリーズでは、
“光と影のコントラスト”をすごく重視しています。
岩田
光と影というのは、怖い世界の表現でいえば、
「微妙にうごめく影のなかから、何が飛び出してくるのか」
というところにすごく魅力があると思うんです。
川田
コントラストというキーワードでいえば、
光と影だけでなく“美しいキャラと醜い敵”という
デザイン面でも、できているかなと思います。