4. 次に何が出てくるか知っていても怖い
岩田
現在、つくられている2作品についてですが、
まず『リベレーションズ』で、いちばん打ち出したい
新しい軸について教えていただけますか?
川田
やはり携帯機でつくる『バイオハザード』ということで、
携帯機ならではの要素をもっと注意深くつくろうと思います。
まだリリース前の情報などは話がしにくいのですが・・・(笑)。
逆に、いま岩田さんが期待する
「こういう『バイオハザード』を携帯機で見たい」
というものがありましたら聞いてみたいですね。
これを読んだスタッフが奮起してがんばると思います(笑)。
岩田
あははは(笑)。
使えるチャンスは何でも使おうということですね。
そうですね・・・たとえば寝る前にベッドの上で遊ぶホラーゲーム
というのは、どのような味になるのか気になりますし、
新しい遊び方の提案ができそうなチャンスがありそうですね。
川田
はい。携帯機なら、生活のなかで
ゲームに没頭できるシーンを選択しやすいと思います。
僕自身は、没入感はモニターの大きさや音響環境に
しばられないと思っているんです。
画面は小さくても「ここはどうなっているんだろう?」
とか「ここに敵がいるのでは?」と
ドキドキする感覚は変わらないですから。
岩田
「携帯機の画面の小ささをハンデと思わずにつくっている」
とプロデューサーが言ってくれることは、
お客さんにとって、とても大事ですね。
川田
やはり、据置機で遊んできた方のなかには
心配される方もいると思うんです。
でも、据置機とは異なるホラーの楽しさや恐怖を
携帯機でも楽しめると考えています。
実際、シナリオを知っている僕が遊んでいても、
やっぱり怖いシチュエーションができているんですから。
岩田
次に何が出てくるか知っていても怖い、というのは面白いですね。
川田
はい。恐怖がガッと押し寄せるんです。
不意をつく恐怖とか、生理的な恐怖とか、不安を掻き立てる恐怖など
いろいろあると思うんですけれど。
岩田
この先に何が出るか、理性としてわかっていても、
表現のナマっぽさやコントラストから生まれる表現で、
自分の感情はきちんと揺さぶられるんですね。
ちなみに川田さんがはじめて立体視をご覧になったとき、
どう思われましたか?
川田
まず、「何もつけなくても3Dに見えるのか」とおどろきました。
それと「『マリオ』を遊んだらどんな感じになるかな?」とか、
「『ゼビウス』(※16)だったらどんな高低差になるのかな?」
とか考えました。若干、オールドな人間なんで(笑)。
岩田
出てくる順番が一緒ですね(笑)。
わたしたちもそういうことを社内でよく話していました。
川田
ゲームの面白さって、実際に遊ぶことで感じられますが、
3DSの面白さは一目瞭然なんですよね。
そういう感動があるのと同時に、
「『バイオハザード』はどんなことをすればいいのか」
ということを考えました。
そのうえで、3DSでやれることとやれないことを、
日々経験値としてたくわえているところです。
岩田
3Dに向くネタ、向かないネタはありますよね。
川田
はい。いまは飛び出すというより、奥行き感を重視して
つくったほうがいいと話していたり、
長時間遊ぶ方に、負担がかからないために、
ひいては生活のなかでのゲームのやり方を
新たに推奨できないかということを考えています。
岩田
いま、日本では据置機以上に携帯型ゲーム機を
プレイされている方の人数が多いんです。
これはゲームの中断が手軽になったことで、
いまのお客さんの生活スタイルに
携帯機が入りやすいからだと思うんです。
3DSは持ち歩きながらいろいろなことができますので、
忙しい方にも骨太のゲームを遊んでもらいたいです。
川田
ただ、去年のE3(※17)で最初に3DSのハードを見たとき、
一緒にいたスタッフと、
「早く『nintendogs』(※18)をやりたい」と話していました(笑)。
立体になることで、さらに存在感が増しましたよね。
Wiiという画期的なデバイスをつくられたとき、
普段ゲームをしないわたしの両親が遊んでいる姿を見て、
「こういう提案ができることが任天堂さんの強さなんだな」
と感じました。
岩田
じつは3DSを見たみなさんの第一声は
「本当に見える!」なんです。
「本当に見えなかったら商品化しませんよ!」
って思うんですが、みなさんそうおっしゃるんですよね。
川田
何もつけなくても見えるので
「いままでつけていた眼鏡は何なんだ?」
って思っちゃいますからね。
岩田
3DSの場合は、画面と見る方の位置関係が
固定できるから実現できたんです。
それと表現される映像のクオリティ、液晶の解像度と精度、
これらすべてのハードルを越えて商品になっているんです。
じつのところ、3Dは10年くらい前からやりたかったんです。
ゲームキューブの時代なんですが、
あれは特殊な裸眼立体視対応の液晶モニターをつけると、
立体で絵が表示できるようになっていました。
川田
そうだったらしいですね。
岩田
でも当時、その液晶をつくると高額になりすぎてあきらめました。
それからゲームボーイアドバンスSPのときにも、
その液晶を埋めてみたんですが、
立体になっても魅力的な絵ではなかったんです。
だから一定以上のグラフィッククオリティがないと
立体は魅力がないんだと学んだんです。
そのあとニンテンドーDSが出て、
その次に出すべきハードを研究する過程のなかで
あらためて実験してみて、実際に現物を見た瞬間、
みんな「これだ・・・!」と(笑)。
川田
なるほど、ある日とつぜん技術が確立できたわけではなく、
そういう長い流れのなかでのことだったんですね。
岩田
そうなんです。何度もしつこく3Dに挑戦していたら、
世は“3D元年”と言われはじめたので、
世の中のタイミングは不思議だなと思いました。