社長が訊く
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社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

第8回:『バイオハザード ザ・マーセナリーズ 3D』/『バイオハザード リベレーションズ』

目次

2. 「あっちに負けるな!」

岩田

最初にアウトプットの手ごたえを感じられるまで
どれくらい時間がかかりましたか?

川田

今回は特殊な例かもしれませんが、
2本同時につくっているために
アクション部分のツメは『マーセナリーズ』でおこない、
それ以外のグラフィック表現や演出部分などは
『リベレーションズ』のほうでつくる、
というようにふりわけています。

岩田

ソフトは最初から2本つくる企画だったんですか?

川田

企画そのものは『リベレーションズ』が先に動いていたんですが、
シナリオ面などかなりじっくりとつくっているので、
完成までには時間がかかる状態でした。
3DS発売後、できるだけ近いタイミングで出したかったので、
ある程度ゲームシステムが固まっていた『マーセナリーズ』を
技術検証を含めてつくりはじめました。
「恐怖」ではなく「迫力」という面では
『マーセナリーズ』のほうが勝ると思いましたし、
単独での商品化の要望もありましたので、
ちょうどよかったのかもしれません。

岩田

短期間で密度濃くできるジャンルを選んで、
そこを仕上げにいく選択をされたんですね。
わたしたちはある意味、3DSという同じプラットフォームを
普及させる協力関係であり、同時にライバル関係ですが、
新たなプラットフォームでゲームを展開するとき、
お客さんにどうアピールするかという点で
タイミングは重要な要素ですからね。

川田

任天堂カンファレンス(※12)3DS体験会(※13)
いろいろなタイトルを拝見しまして、
どれもライバルなんですが、横で見ながら
「うちにはないアイデアだから勉強しよう・・・」とか、
ひそかに思っていました(笑)。

※12
任天堂カンファレンス=「任天堂カンファレンス2010」。2010年9月29日、幕張メッセで開催された業界関係者向けの発表会。
※13
3DS体験会=「NINTENDO WORLD 2011 ニンテンドー3DS体験会」。2011年1月8日から10日まで、幕張メッセにて開催されたイベント。

岩田

そういう刺激がなかったら、わたしたちの世界の進歩は
いまの速度の何分の一かになっていたんじゃないかと思います。
お互いに「やられた」「魅力的だ」と感じて、
「自分たちならどう使うか?」と考える刺激こそが、
わたしたちの世界を進歩させるんですよね。

川田

そうですよね。
ゲームをつくっているときは、とてもスリリングで楽しいです。
まあそれだけではなく、なにかと結構、苦しいんですけど(笑)。
岩田さんは開発者出身ですから、よくご存知ですよね。

岩田

そう、苦しいんですけど、
「その苦しいのがいい」みたいなところがあって、
つくる楽しみに目覚めたら、
遊ぶよりも楽しいと思うほどです(笑)。
昨日までできなかったことが日々できあがっていったり、
全体が進んでいく感じがいいですよね。

川田

自分ひとりでできることには限界があるけれど、
大勢の人間が集まってできることがすばらしくて、
そこにたどり着くまでの過程が面白いんです。
これをゲーム化したらじつはすごく面白いんじゃないか、
と思うくらいです(笑)。

岩田

それはなかなかゲーム化できないですね。
次につくりましょうか(笑)。

川田

(笑)

岩田

いまはゲームづくりの規模が大きくなってしまったので、
自分のやることがほかの人とどうつながるのか、
全体のなかで自分の担当の意味が何なのかが見えなくなりがちです。
だから、ひとりひとりが自覚できるように、
どのように運営していくかが重要ですよね。
それができたとき、ものづくりはすごく面白くなります。

川田

はい。それから、お客さんから何か反応をいただけるだけで
大きなプラスになるんです。
それが「面白かった!」という声なら
さらにモチベーションにつながりますので、
ゲームづくりはなかなかやめられないです(笑)。

岩田

ああ、よくわかります。
たとえ不満があっても、
無視されるよりずっといいですから。

川田

ええ。娯楽において、話題にされることが重要で、
もしわれわれの感性がお客さんに合っていて、
楽しさを共有できれば、より高い目標を持って
ゲームをつくれると感じます。

岩田

そうですね。
ところで2本のタイトルを同時進行されることは、
とてもハードルが高いことだと感じますが、
どのようにエネルギーを使いわけているんですか?

川田

大きなものづくりの段取りは決めますが、
あとはスタッフを信用して現場に任せています。
また「こうしたらもっとお客さんに喜んでもらえるのでは?」
と双方のチームに提案すると彼らのモチベーションが上がるので、
そういう流れを両方でうまくつくれていると思います。

岩田

なるほど。2本動いていれば、
「あっちに負けるな!」ということになって、
全体的にレベルアップできますね。

川田

そうですね。
じつは今回の2タイトルに同じスタッフも
かかわっているんですが、
『マーセナリーズ』で得られたノウハウを
『リベレーションズ』に活かすことができています。

岩田

ただ、ゲームは完成の設計図を最初に描いても
なかなかそのとおりにつくれませんよね。
とくに新しいハードは
いろいろな仮の見立てで設計しないといけないですし、
実際に動いてわかることも多いと思います。
それはカプコンさんのものづくりでも同じですか?

川田

はい。正直、スケジュールどおりに
万全に進むことはほぼないです(笑)。
現場では、つねにゲームにさわっているので
細かい問題点はチーム内で指摘し合えても、
もっと大きい部分の問題点はなかなか見えてこないんです。
わたしの仕事はその部分の管理となります。

岩田

お客さんに、こちらの意図が伝わるような
ゲームづくりになっているかをチェックするのが、
現場を離れて見る人の役割ですからね。
一方で「そこを変更したらスケジュールが遅れます」
と言われてしまうこともありますよね。

川田

はい、そういう問題もつねにあります。
クオリティとのバーターという意味で
「ここを組み込まない代わりに、ここはしっかりつくろう」
という検証をきちんと行います。
時間と予算を守らないといけないという大前提はあります。
でもゲームはお金を出してお買い求めいただく商品ですから、
中身がともなっていないといけません。
そこはスタッフとの共通見解だと思っています。

岩田

アウトプットしたもののエネルギーの大きなチームは、
総じて現場の人たちが元気ですよね。
カプコンさんは企業文化的に体育会系のノリで、
あえてこの言葉を使いますが、
いい意味で“血の気の多い人たち”が
大勢いるチームなのかなと感じています。
わたしはそれが“カプコンテイスト”だと思っていて、
そのエネルギーがお客さんに伝わるので、
カプコンさんのゲームに魅力を感じる方が
大勢いらっしゃるのかなと思いますが、いかがですか?

川田

ええ、正直・・・血の気は多いと思います(笑)。

岩田

じつは、体育会系という感じは、任天堂のチームにもあるんです。
一見、任天堂内部の制作チームは
“行儀のよいものをつくる集団”と思われがちですが、
ソフトをつくるときのエネルギーの出し方は、
体育会系そのものなんですよ。
じつはわたしも高校でバレーボールをやっていて、
体育会系っていうことには自分もすごく反応するところがあるんですが、
カプコンさんもやっぱりそうですよね(笑)。

川田

ええ、僕らがカプコンに入ったころは、
かつての古きよきゲーム会社という感じで、
かなり無茶なことをしました(笑)。

岩田

無茶なことをする先輩に囲まれるところから、
仕事がはじまるんですね(笑)。

川田

もともと、うちの社員はカプコン文化を好む
元ユーザーが多いんです。
だからカプコンテイストが
どんどん純粋培養されているな、と感じています。
昔といまではやり方は異なりますが、
カプコンのクオリティは“文化”として
維持できてるんじゃないかなと思っています。