岩田
では、
N64版の『スターフォックス』(※16)の話に入ります。
N64が出た当時、宮本さんからすれば、
機械の性能がどんどんあがって、
世の中は3Dポリゴン時代になっていき、
スーパーファミコンの『スターフォックス』では
やろうと思っていても、できなかったことが
N64ではかなりできそうな手ごたえがあって、
「よし、じゃあ、やるべし」となっていったんですよね。
宮本
そうですね。
岩田
その『スターフォックス64』で、
宮本さんがやろうとしたことは何だったんですか?
それは今回の3DS版の話につながっていくんですけど。
宮本
やっぱり僕らはSF映画で育った世代ですから、
「SF映画のなかに自分が入って活躍してみたい」
と思うようなところがあったんです。
僕は、テレビの『スタートレック』(※17)で育って、
映画の『スター・ウォーズ』でブレイクした世代ですから。
岩田
そうでしたね。
宮本
あのテレビや映画のように、
宇宙空間にものすごくたくさんのものが飛んでいて、
その間を戦闘機でかいくぐったりとか、
向こうから飛行船団の大群が飛んでくるとか、
そういうシーンを
ゲームでも楽しめるようにしたいと思ったんです。
岩田
映像でSF的なシーンを楽しむのではなく、
インタラクティブに楽しめるようにしたいということですね。
宮本
そうです。だから
「実際に経験できるスペースファンタジーをつくろう!」
みたいなことなんですよね。
そういうことを、ゲームで経験してみたかったんです。
だから、初代を出したあと、『スターフォックス2』で
戦略をたてて遊ぶとかいろんなことを試していました。
ディラン
『スターフォックス2』のときも
けっこういろんな実験をしましたね。
宮本
そう。『スターフォックス2』は
たくさんスクリプトを入れて動かしたり、
ロボットにモーフィングして走るだとか、
360度、自由に飛び回ることのできる
オールレンジモードにもチャレンジしましたし・・・。
天野
あのう・・・『スターフォックス2』って何ですか?
宮本
えっ、『2』を知らない?
天野
はい、初耳です。
宮本
え!! 誰も教えてくれなかった?
幻の『スターフォックス』なんですよ。
岩田
だから発売されなかったんです。
天野
はあ・・・。
宮本
FXチップのメモリを増設して、
スーパーFXチップ2というのをつくって・・・。
ディラン
メモリが倍になったんですよね。
宮本
それで処理速度も速くなって。
高野
そのときのアイデアがそのまま・・・。
宮本
そう、それがN64の『スターフォックス』の元なんです。
360度の空間を自由に飛び回って、
端っこに行ったら、機体を強制的に戻すような
アウトオブレンジのような処理も
じつは『2』のときにつくっていたんです。
ディラン
そうでしたね。
岩田
戦車が出てくるのも
『2』のときのアイデアなんですよね。
宮本
そうです。
戦車がボワーッと飛びながら、基地のなかに入ると、
そこでロボットに変身する、みたいなものもつくっていました。
ディラン
あのロボットは、けっこう面白かったですよね。
岩田
それほど面白いという手ごたえを感じながら、
しかも新しいチップまでつくって、
どうして『2』は世に出なかったんですか?
宮本
よくあるパターンなんですけど・・・
開発がちょっと遅れて、1年ぐらいずれてくると、
その半年あとにはNINTENDO64が出てくるのに、
「今頃、高いお金を出して買ってもらってもいいのかな?」
みたいなことになりました。
ディラン
それに、FXチップ2の開発にも
ちょっと時間がかかったんですよね。
宮本
そうでしたね。
それに他社さんのゲーム機では
どんどんポリゴンが使えるようになってくるなかで、
いまさら高価なチップをカセットに載せてつくっても、
ぜんぜん追いつかないという予想もあって
「ちょっと見直しかな?」ということにしたんです。
天野
そうだったんですね。
宮本
でも、わりとよかったんですけどね・・・。
岩田
その『スターフォックス2』がけっきょく世に出ずに、
N64ソフトとして出ていくようになったのは
「N64でつくらない手はないでしょう」
ということになったからですか?
宮本
そうです。
オールレンジとスクロールを組み合わせて
ゲームをつくる仕組みはだいぶできていましたので、
その『2』の仕組みを使って
「もっとSFらしいシーンをつくってみたい」というのと、
それと前後して「アーウィンをもっと気持ちよく飛ばしたい」
という気持ちがあったところに、
SRDの森田(和明)さん(※18)が
N64でプログラム的な実験をしてくれたんです。
そのつくったものを見たときに、
「ああ、これならSF映画っぽくつくれるぞ」
と思ったんです。
岩田
N64の実験段階で手ごたえを感じたんですね。
宮本
そうです。
そこで、シューティングゲームでありながらも、
登場するいろんなキャラクターと会話をしながら、
それがドラマとして進んでいったりとか、
チームの仲間がいて、そのなかのひとりが
敵にやられて脱落すると、それがゲームに
ちゃんとシンクロするようにつくっていこうとか、
N64版の開発をはじめた時点から
いろいろ手ごたえを感じることができましたね。
岩田
高野さんは、いつチームに呼ばれたんですか?
高野
僕が呼ばれたときは
すでに開発がはじまっていて、今村さんから
「スクリプトを書けるスタッフが足りないから
手伝ってほしい」と言われたんです。
そのとき僕は、スーパーファミコン版のときの
楽しそうな印象がありましたので、
ふたつ返事で「うん、いいよ」と。
そしたら、まあ、騙されたというか(笑)。
岩田
「こんなはずじゃなかった」と?(笑)
高野
はい。えらい目を見るはめになってしまいました。
初めての要素がたくさんありましたし、
すべてのことが試行錯誤だったんです。
そもそも、任天堂のつくるものは、
「まずストーリーありき」ではなくて・・・。
岩田
いつも遊びをつくるほうが先ですよね。
そのことについては、『ゼルダ』をつくるときも、
高野さんは苦労したと思うんですけど。
高野
そうです、そうなんです(笑)。
岩田
そもそも、お話を書く人の都合で、
お話を書かせてもらえないじゃないですか。
高野
そう、絶対にそうです。
岩田
遊びが先なので。
高野
それに、先にお話を書いてしまうと絶対につまらなくて。
だから、ゲームのセリフを書くときも、
セリフをまず書いて、「これ使って」ではなくて、
ゲームがある程度できあがってから、
ヒント的なものもひっくるめて書く、と。
岩田
「このゲームのなかに、
“機能”として求められる言葉は何だ?」
みたいなことも考えるんですね。
宮本
操作説明であったりね。
高野
そうです。なので、
後ろから敵の攻撃を受けるような場所では、
「ブレーキでやりすごせ! Cボタン下」
とか言わせてみたり(笑)。
岩田
まさに“機能説明”ですね。
高野
はい。僕はあのあと、
『ゼルダ』のスクリプトを担当することになりましたが、
『スターフォックス64』ですべてを学んだように思います。