岩田
みなさん、こんにちは。任天堂の岩田です。
昨年は一度も「社長が訊く」を公開しませんでしたので、
みなさんにお届けするのは、本当にひさしぶりになります。
昨年、わたしは病気をして手術をしましたので、
そのことが「社長が訊く」が新しく公開されていない理由だと
感じておられたみなさんも多いかもしれません。
ただ、実際のところ、わたしは、自分の病気のことを知る前から、
「少しお休みをいただいて充電しよう」と思っていたんです。
昨年の終わりごろから、「そろそろ再開させてもらおう」と考え、
「最初にどのソフトではじめたらいいのか?」と考えていたときに
『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』のリメイクを発表したときの
とても大きな反響に、わたし自身もビックリして、
このソフトで再開しようと決心しました。
多くの人の心に刺さったこのゲームの秘密の一端を
うまくお伝えできるとよいのですが・・・。
長文で読みごたえたっぷりになりましたが、よろしくお願いいたします。
岩田
ようやく長い開発が終わりましたね。
青沼
はい。とても長い開発でした。
岩田
N64版の『ムジュラの仮面』(※1)は
ちょうど15年前に発売されたソフトですので、
青沼さんも、ちょっと忘れてるんじゃないかと思うんですけど・・・。
青沼
ちょっと、どころか、
そうとう忘れてます(笑)。
岩田
まずはN64版の話をお訊きしようと思います。
たしか『ムジュラの仮面』は
「1年で『ゼルダ』をつくれ」
という話からはじまったんですよね。
青沼
そうです。
『時のオカリナ』(※2)をつくったときに、
長い時間をかけて開発した3Dモデルがありましたので、
それを再利用して、違うものにアレンジすれば
「1年でつくれるんじゃないの?」
という宮本(茂)さんの話からはじまりました。
ただ、その前に、64DD(※3)で
『裏ゼルダ』(※4)をつくろうという動きがあったんです。
岩田
当初は、『時のオカリナ』が発売されたあとに
64DDで『裏ゼルダ』が遊べるということが、
企画として議論されていたんですよね。
青沼
はい。そこで『時のオカリナ』のダンジョンを
アレンジして何かをつくりなさいと言われていて、
僕がそれをやらなければいけなかったんです。
岩田
はい。
青沼
でも、『時のオカリナ』を開発したときに、
ダンジョンをとことんチューニングして、
自分にとっては、これ以上のダンジョンはない
というものをつくったつもりだったんです。
そこで、宮本さんから「つくりなおして」と言われたので
しぶしぶはじめたんですけど・・・
・・・なんか気が乗らないんですよね。
岩田
青沼さんにとっては
最高のダンジョンに仕上げたつもりなので
それ以上、触りたくなかったんですね。
青沼
そうなんです。そこで、こっそり
『時のオカリナ』にはなかった
新しいダンジョンをつくりはじめたりしたんですけど、
そっちの仕事のほうが何十倍も楽しいわけです。
それで、宮本さんに思い切って
「僕、新しいものをつくりたいんですけど・・・」
という話をすると
「1年でつくれるんだったらいいよ」と。
岩田
そもそも『時のオカリナ』の開発は
3年かかりましたよね。
青沼
はい。
岩田
あのころのことは、わたしもよく覚えています。
1998年の11月21日に『時のオカリナ』が出て、
わたしはそのころ、翌年の1月に出すことになる
『スマブラ』(※5)を仕上げていたんですけど、
その打ち合わせのために任天堂に来ていて、
そのときに『時のオカリナ』を買って帰りましたから。
青沼
ありがとうございます(笑)。
岩田
だから、同時期にやってた感がすごくあって、
よく覚えているんです。
で、『時のオカリナ』はある意味、
3Dゲームの金字塔のようなゲームになって、
世界的にもすごく話題になりましたけど、
その一方で、「3年に1度しか出ないのはどうなの?」
という声もありましたよね。
青沼
はい。何度も発売延期をしましたし。
岩田
発売延期で思い出しましたけど、
『時のオカリナ』の開発中に、
宮本さんが、母校のある金沢に行ったときに、
コンビニに入ったそうなんです。
すると、店員さんが宮本さんを発見して、
「宮本さん、ここで、こんなことをしていていいんですか!」
って、叱られたそうです(笑)。
青沼
あははは(笑)。
発売をすごく待ってくださってたんですね、
その店員さんは。
岩田
そんな伝説もあるくらい
『時のオカリナ』は、発売延期につぐ発売延期を経て
やっと世に出たわけですけど、
時間がかかりすぎたという反省もあって、
宮本さんとしても
「ここはなんとか1年でつくらなきゃ」
という思いに、きっとなったんでしょうね。
青沼
そうですね。
岩田
ところで、「1年でつくれ」と言われて、
すんなり「やります」と答えたんですか?
青沼
いえ、頭を抱え込んでしまいました。
岩田
ですよね(笑)。
青沼
「どんなものをつくればいいわけ?」
と、ずいぶん悩んだんですけど、
小泉(歓晃)さん(※6)に会ったときに
「手伝ってよ」と頼み込んだんです。
彼は、ちょうどそのころ
コンパクトな世界を何度も繰り返して遊ぶような、
別のゲームの企画を考えていたところだったんです。
もともと『時のオカリナ』には、
時間で制御できるシステムが入っていまして・・・。
岩田
太陽が昇ったり、夜になったりと、
あの世界には時間が流れていましたよね。
青沼
ええ。そこで小泉さんが
「その時間が流れるシステムを使えば、
何度も繰り返して遊ぶゲームができるじゃないですか。
それをやらせてくれるんだったら、
いっしょにやってもいいですよ」と。
岩田
なんだか・・・
会社のなかで取引してる感じですね(笑)。
青沼
(笑)。そこで生まれたのが
3日間を何度も繰り返して遊ぶという
“3日間システム”(※7)だったんです。
岩田
1年という短期間でつくるには
とてつもなく新しいアイデアが必要になりますけど、
それが“3日間システム”だったわけですね。
青沼
そうです。
でも最初は、1週間のつもりだったんです。
岩田
3日はもともと1週間だったんですか?
青沼
はい。ところが、最初の日に戻ったときに
「また1週間もやり直すのか・・・」
という話になりまして、
「じゃあ、ちょうどいいのは3日かな?」と。
岩田
ええっ、そんなふうに決まるものなんですか?(笑)
青沼
(笑)。このゲームでは、
町の住人が毎日異なる動きをして
いろんなイベントが発生したりしますけど、
それが1週間もの長い期間になると、
何日目に、誰がどこにいて、何をしたかなんて
覚えていられないんですよね。
岩田
それに、密度の濃いものを1週間分つくっていたら
1年では開発できなかったでしょうしね。
青沼
はい。絶対できなかったです。
そこで、3段階にするのがいちばんいい、
ということで、1週間分で考えたいろんな要素を
3日間に圧縮することにしました。
岩田
だから、あの密度感につながったんですね。
1週間の枠で考えたいろんなネタを
3日にぎゅっと凝縮したことで。
青沼
そうですね。