社長が聞く Wii プロジェクト - Vol.3 Wii チャンネル編

岩田  聡 [取締役社長]
岩田  聡 [取締役社長]
黒梅 知明 [情報開発本部 制作部]
黒梅 知明 [情報開発本部 制作部]
河本 浩一 [企画開発本部 環境制作部]
河本 浩一 [企画開発本部 環境制作部]
野上  恒 [情報開発本部 制作部]
野上  恒 [情報開発本部 制作部]

第4回「世界中のMiiが交流するという野望を持っています」

岩田 それでは、メンバーを替えて、
ひとつひとつのチャンネルについて話していこうと思います。
まず、河本さんと野上さん、Wiiで担当したことと、
それ以前の仕事について簡単に説明してください。

河本 Wiiでは、チャンネルの中の
「写真チャンネル」「お天気チャンネル」「ニュースチャンネル」
のディレクターを担当しました。
Wiiのプロジェクトに関わるまえは、
『脳を鍛える大人のDSトレーニング』と
『もっと脳を鍛える大人のDSトレーニング』の
ディレクターをしていました。

野上 Wiiでは「似顔絵チャンネル」のディレクターを担当しました。
「似顔絵チャンネル」のディレクターは
ふたりいるんですが、そのうちのひとりです。
そのまえの仕事は『おいでよ どうぶつの森』のディレクターです。

岩田 あと、黒梅さんは
Wiiのメニューの全体的な統括をしていたということで
引き続き、参加していただきます。

黒梅 よろしくお願いします。

岩田 じゃ、まず、「似顔絵チャンネル」から始めましょうか。
「似顔絵チャンネル」というのは、
どういうふうに始まったんでしょうか?
このチャンネルがWiiに入ることになった経緯も含めて
説明してもらえますか。

野上 ぼくが担当していたWii用ソフトの中に、
キャラクターの顔をエディットして、
そのキャラクターをソフトの中に登場させる
という企画があったんです。
で、その企画とは別のところで、
ニンテンドーDS用に開発されていたソフトで
同じようにキャラクターの顔をエディットして
それを交換して楽しむような企画が動いていました。
ある日、そのDS用ソフトの存在を岩田さんから知らされまして、
見たところすごくよくできているし、
自分が考えていたことも一致したものですから
Wii用のソフトの中に組み込むことになったんですね。
で、Wii用のタイトルとして動いていたら、
突然、それをWiiの本体機能のひとつにする、
ということになりまして、
驚いているうちに、いまに至る、というわけです(笑)。

岩田 もともとのWii用のソフトで
宮本(茂)さんが『こけし』と呼んでいたものですよね。

野上 はい。宮本さんが以前から作りたかったもので。
当初の企画としては、3つのソフトを出して、
その3つに、自分がエディットしたキャラクターが
共通して登場する、というものでした。
ですから、その構想を、3つのソフトだけではなく、
Wii全体に広げたのが「似顔絵チャンネル」なんです。

岩田 「似顔絵チャンネル」が本体機能に入ることが決定したのは、
最近とはいわないまでも、ずいぶん遅かったですよね。
本体機能全体に関わっていた黒梅さんは、
チャンネルの仕様が固まってきたときに
「似顔絵」という新しい構想が入ることを知って、
突然、異物がやってきたように思いませんでしたか?

黒梅 まさに異物でした。

一同 (笑)

黒梅 最初、現実的なイメージがまるでつかめなかったんですよね。
もともとは違うものとして動いていたものですから、
まさかそれがチャンネルのひとつになるとは想像していなかったですし、
「やる」という話になったときも、
正直、これはけっきょくやらないことになるだろうと
たかをくくっていました。

岩田 ところが本気だった(笑)。

黒梅 本気だ、これは! と(笑)。
岩田さんも宮本さんも、ものすごく前向きで。

岩田 「似顔絵チャンネル」みたいなことをしたいんだという話を、
私は宮本さんからずっと聞かされていましたからね。
そんなときにニンテンドーDSの試作品として
キャラクターの顔をエディットするソフトを知って、
ひょっとしたら宮本さんが求めているのは
こういうものなんじゃないか? と思ったんです。
それで、宮本さんのところに持っていって見せてみたら、
いい反応だったものですから、じゃあ作ってみようと。
それで、DSでそれを作っていたチームのスタッフを、
野上さんのところに送り込む形でスタートしたんですよね。

野上 はい。しかも、とりあえず、
2ヶ月でいったん形にしなさいというタイトな話で。

一同 (笑)

野上 開発の体制も含めてばたばたしましたが、
幸い、もともとのアイデアがDS用のときからよかったですから、
きちんと仕上げることができました。

岩田 苦労したことはどんなことですか?

野上 いままで自分が携わっていた仕事は、
自分自身が考えていたことをふくらませて作っていく、
というやり方がほとんどだったんですけど、
今回は、もともと自分が考えたことではないことがベースにあって、
そこからふくらませていくという作り方だったので、
最初のうちはそこに苦労しましたね。
自分がもともと考えたものだと、
「こうだ!」とすぐに判断ができるんですけど、
この企画の場合は自分だけでは判断ができなくて、
人に意見を求めたりしていくうちに
考えが広がり過ぎてしまったりして、
それを収めるのに、ちょっと時間がかかりました。

岩田 もともと別の人たちがDSで作っていたものを
「預かって作っている」という感覚があったのかもしれませんね。

野上 はい。「お預かりしている」という感じが
どこかにあったんだと思います。
でも、開発を進めているうちにそういう感覚はなくなってきて、
こちら側で主張すべきことというのも見えてきたので、
オリジナルのいいところは残しつつ、
必要なところに必要なだけの改善ができたな
というふうに、いまは思っています。
あと、具体的に苦労したところでいうと、
「外国人の顔」ですね(笑)。

岩田 ああ、そうですね(笑)。
ニンテンドーDSの試作品のときは、
日本人の開発者が日本人のために顔のパーツを作っていたけど、
Wiiのチャンネルにするとなると、
当然、「世界中の顔」が対象になりますからね。

野上 はい。世界中の人の似顔絵が作れなければならない。
これが、思った以上にたいへんで。
外国人の顔のパーツというものが、
困ったことにうまくできないんですね。
そもそも、外国人の似顔絵が思うように描けないんです。
これは宮本さんがテレビで見たと聞いたことなんですけど、
「顔が似てるかどうか」を私たちが判断するときは、
頭の中にある「標準的な顔」を基準にして、
そこからどのくらい離れているかという距離を見て
「似てるかどうか」を決めているそうなんですよ。
だとすると、ぼくが外国人の似顔絵が作れるわけがないんです。
なにしろ自分の中に「外国人の標準的な顔」がありませんから。
そうすると、外国人の顔のパーツにどういうものが必要なのか、
自分には正確に判断ができないということになるんです。
それで、海外の人にいろんな意見を聞いたり……。

岩田 海外の人の写真をたくさん集めたりしてましたね。

野上 もう、いろんな顔を研究しましたよ。
すると、「こんな鼻があるのか!」みたいなことが。

一同 (笑)

野上 いや、真面目な話、
「日本人には想像できない鼻」というのがあるんですよ。
「そうか、なるほど!」というものがけっこうありました。
あとは、逆に、たくさん用意したパーツを削っていくというか、
パーツを多くしすぎないように気をつけましたね。
どれを削って、どれを入れようかという。

岩田 選ぶだけで似顔絵ができるというのは手軽でいいですけど、
何百ものパーツから1個を選ぶとなると
途方に暮れてしまいますからね。

野上 はい。ですから、総量を増やしすぎないように、
それでいてバリエーションは豊かに、
という方向でまとめていきました。
できあがってから、いろんな人に試してもらったんですが、
幸い、好評なようで、よかったです。

岩田 外国の方にも好評でしたか?

野上 あ、好評みたいです(笑)。
ヨーロッパの関係会社の人が上司の似顔絵を作って遊んでたら、
ある日、その本人に見つかってすごく怒られたと言ってました。
どうも似すぎていたみたいで(笑)。

岩田 私の似顔絵もいろんなところで見かけます(笑)。

野上 岩田さんの顔はどんどんバージョンアップしてますからね。
いろんな顔のパーツを検討していると、
「あ、これは岩田さんの似顔絵に使える」っていう発見があって
どんどん「岩田さん」がバージョンアップするんですよ。

一同 (笑)

野上 ただ、写実的な似顔絵を追求したいわけではないので、
そのあたりはやりすぎないように気をつけました。
これは、モニターをとっているうちにわかったんですけど、
有名人の似顔絵を作るようなときは
みんな、似てることにわりとこだわるんですけど、
自分や身のまわりの人の似顔絵を作るときは、
「絶対そっくりにしなきゃ!」っていうんじゃなくて
ある程度、雰囲気が似てたら納得できるみたいなんですよ。
だから、そのあたりはいい意味で割り切って、
パーツを絞り込んでいくようにしました。

岩田 あと、大事なことは、似顔絵を作って終わりではないんですよね。
まず、似顔絵キャラクター、「Mii」は、
『Wii Sports』をはじめとするさまざまなソフトに登場します。

野上 はい。さきほどお話ししましたように、
エディットしたキャラクターが
いろんなソフトに登場するというのは
いちばん最初のソフトを開発しているころからありました。
ちなみに、Miiは、ソフト側で対応さえしてもらえれば、
ソフトメーカーさんのソフトにも登場させることができます。
あと、ちょっとおもしろいところでいうと、
Miiはメインのキャラクターとして登場するだけでなく、
ただの「その他大勢」として不意に顔を出すときもあります。
たとえば『Wii Sports』の観客席に、
昔、何気なく作ったMiiがいる、なんていうこともあります。
また、MiiはWiiリモコンに入れて
持ち運ぶこともできますので、友だちの家のWiiで、
自分のMiiを使って遊ぶこともできます。

岩田 あとは、「似顔絵パレード」が楽しみですね。
ちょっと説明してもらえますか。

野上 簡単にいうと、「似顔絵パレード」は、
いろんな人の作ったMiiがネットを介して行き交う仕組みです。
まず、作ったMiiを並べておくことができる、
「似顔絵広場」というものがあるんですが、
はじめは、自分の作ったMiiしかいないんですね。
でも、時間が経つと、「WiiConect24」の仕組みを使って、
「誰かのMii」がそこに遊びに来るんです。
同じように「自分のMii」も
誰かのWiiに登場する可能性がありますが、
ユーザーの許可なく勝手にそうなってしまうことはありません。
Miiを作ったときに、それをネット上で行き来させるかどうか
選択することができますので、
そこでユーザーが許可したMiiだけが
誰かのWiiに登場することになります。

岩田 世界のどこかからMiiがやってくることもあるんですよね。

野上 はい。まったくのランダムで行き来します。
あ、行き来といっても、
自分のWiiからいなくなるわけではありません。

岩田 非常に広がりのある試みだと思いますが、
どうしてこういうことをしようと思ったんですか。

野上 あるゲームで使った似顔絵のキャラクターが、
ほかのゲームでゲスト的に登場するようにということは
もともと構想にあったんですが、
世界中のWiiどうしで交流させるというのは、
「WiiConnect24」という仕組みに刺激されたというのがあります。
ああいう仕様は個人的に大好きなので。
なんとか「WiiConnect24」をうまく使って遊べないかな、
ということで考えているうちにこの企画が生まれました。
もっと根本的な動機でいうと、
「似顔絵を作る」ことがいくら楽しくても
ひとりでは限界があると思ったんですね。
たとえば、自分とか家族とか友だちとか、
身のまわりの人を10人くらい作って、「あ、できた」となって、
それっきり似顔絵チャンネルで遊ばないとなったら
やっぱり悲しいじゃないですか。
でも、そこにたとえばいっしょに遊んだ人や、
世界のどこかにいる誰かから、Miiがどんどん届いたら、
また新しい似顔絵を作りたくなると思うんですよ。
「あ、こんな作り方があるんだ」と思って
自分のMiiをバージョンアップさせてみたり。
ユーザーどうしの交流によって、
新しいモチベーションが生まれ続けていくと思うんですよね。
なんというか、そういう動機や仕掛けって、
ゲーム側があらかじめ用意できることには限界があると思うんです。
でも、お客さんが新しい遊び方を思いついて、
それをほかの人に渡して、ということができれば、
無限のリソースが世の中に転がっているということになります。
それで、どんどん相乗効果が生まれていけばいいなという。
だからこそ、データが伝播する仕組みというのを
しっかり準備しようと思って、ああいった仕組みを用意しました。

岩田 いまのところ、手応えはありますよね。
少なくとも私は、どういう広がりを見せるんだろうと、
すごく楽しみにしています。

野上 はい。あとは、対応するソフトがどんどん出てほしいですね。
世界中のMiiが交流するという野望を持っていますので(笑)、
あと、「似顔絵を作るのがうまい人」って、
やっぱりいると思うんですよ。
昔、クラスでいちばん絵のうまい友だちのところに
「あれ描いて」って頼みに行ったみたいに
「あの人の似顔絵作って」って頼みに行くような
コミュニケーションが生まれたらいいなと思っています。

岩田 黒梅さん、いまはもう、当初の異物感はなくなりましたか?

黒梅 はい、あの、補足しておきますと、
「似顔絵チャンネル」自体が異物とは思っていませんでした。
その、おもにタイミング的なことで、驚いたと。

一同 (笑)

黒梅 「似顔絵チャンネル」の意味や意義は
すごくよく理解していますので。



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