黒梅 |
そうなんです。
当初は、「Wii伝言板」も枠の中に収まって
4×3の列の中に並んでいたんですけど、
できることが大きすぎるし、
ほかのチャンネルと全部関わってくるので、
これを並列に扱うには矛盾があるだろうということで。
最終的に「Wii伝言板」は、
すべてのチャンネルの裏に大きく存在するという意味で
画面を大きくずらして表示させる方式にしたんです。
そのほうが、起動させてから「Wii伝言板」に行くまでの
操作工程が少なくてすみますし。
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岩田 |
この機能って、ふつうに考えたらたぶん、
「伝言板」じゃなくて「メール」っていう方向にいくと思うんですよ。
それをあえて「伝言板」の方向で進めたのはなぜなんでしょう。
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黒梅 |
さきほども話に挙がりましたけど、
目指すコミュニケーションの質によるものだと思います。
誰かと誰かが直にやり取りする「メール」ではなく、
やはり、存在を知らせ合うくらいの「伝言板」くらいが
ちょうどいいと思ったんです。
これは玉樹くんが当初から言っていたことのひとつなんですが、
イメージとしては大学の構内にある掲示板なんだと。
それを聞いて、なるほどと思ったんです。
ですから、開発当初は木目調のデザインにしてみたり、
メモをピンで貼りつけるようなことも試していました。
最終的には、全体のデザインの方向に合わせましたが。
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玉樹 |
あの、初めて「Wii伝言板」を見た人からよく言われることで、
「家族の中の誰宛、っていうふうにできないんですか?」
っていう意見があるんですね。
つまり、個人個人の伝言板が持てたほうがいいんじゃないかと。
しかし、この機能の根底にある思想としては、
個人の携帯電話に直接他人から連絡が入るというよりは、
家庭のポストの中にハガキが何枚か、
ぱらぱらと届いているようなものに近いんです。
で、ポストをパッと開けると、何通入っているかすぐわかって、
ハガキを見ると、「あ、父ちゃんにだ」っていう。
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一同 |
(笑)
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玉樹 |
そういうコミュニケーションのきっかけって、あると思うんです。
ポストから居間にハガキを持って行くあいだに何気なく読んだら、
それが父親宛の同窓会の知らせだったりして、
「ああ、父ちゃんも学生時代があったんだな」って思えたり。
もちろん、内部でもそうとう議論を重ねたんです。
友だちからのメッセージが、家族に見えちゃうのってどうなのかとか。
でも、やっぱり、目指す方向はメールじゃない。
Wii全体のコンセプトを考えても、
個人が占有する閉ざされたスペースがあるのは、
なにか違うな、という気がしたんです。
それで、「メール」という言葉を使うこと自体をやめて、
「伝言板」という方向性を貫くことにしました。
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黒梅 |
家族のひとりひとりにアカウントを作ることも
仕様を変更すれば、できることはできるんです。
でもやっぱり、Wiiという機械にそれは馴染まないんですね。
端的な例を挙げると、みんなで触ってほしい機械なのに、
個人のアカウントを設けたら、メニュー画面に
パスワードというものを入れなくてはならない。
Wiiの電源を入れたときに、
「ユーザー名とパスワードを入れてください」っていうのは、
なんというか、許せないという感じがしたんです。
これは議論していたほぼ全員が同じ意見でした。
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岩田 |
うん、けっきょくそこだったような気がしますね。
もうWiiのコンセプトとしてありえないよと。
だって、1秒でも早く起動させたいということで
全社をあげてがんばってきたのに、
そこでユーザー名とパスワードを入れないと
使わせてあげないっていうのは、もう論外だと。
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青山 |
そもそも、そうやって無理にパスワードをつけても、
居間のテレビでやってたら、どっちみち見えちゃいますしね。
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一同 |
(笑)
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岩田 |
ですから、考えれば考えるほど、結論はひとつで、
やはりWiiは家族のパブリックスペースなんです。
家族に限らず、みんなが共有しているからこそ
おもしろい姿になるようなものが
あるんじゃないかと思うんですよね。
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