社長が聞く Wii プロジェクト - Vol.3 Wii チャンネル編

第3回「Wiiは家族のパブリックスペースなんです」

岩田 それでは「Wii伝言板」の話をしていきましょう。
まず、いちばんプレゼン慣れしている玉樹さん、
「Wii伝言板」で何ができるか説明してください。

玉樹 すごく簡単にいうと「Wii伝言板」というのは、
たくさんのメモやメッセージが
カレンダーにどんどん貼られていくようなもので、
ネットワークにつながっていない状態でも使えます。
もっとも単純な機能としては、メモを書き込むことができます。
たとえば、お母さんが「おやつはここです」というメモを書いて
「Wii伝言板」にポンと貼っておく。
冷蔵庫のドアに貼られたメモのようなものを
思い浮かべてもらうとわかりやすいと思います。
そういったメモは、カレンダーのその日のところに貼られます。
また、プレイしているゲームの中から、
「Wii伝言板」にメッセージを貼りつけることもできます。
たとえば、Wiiで『どうぶつの森』を遊んでいると、
「今度の土曜日に村でコンサートが開催されます」という情報が、
ユーザーがゲームを立ち上げていなくても、
自動的にカレンダーに貼られるというようなことです。
あるいは、『脳トレ』のようなソフトがあった場合には
「今日の脳年齢は50歳でした」というような結果を
そこに貼り付けることも可能です。
こういったことを通じて何がしたいのかというと、
家族とはいえ、やはりみなさん忙しくて、
テーブルを囲んで団らんの時間を持つことが
難しくなってきていると思うので、
この「Wii伝言板」が家族のコミュニケーションの
仲介役のような役割を果たしてくれたらいいなあと思っているんです。
いっしょに過ごす時間がなくて、すれ違っているようなときも、
「Wii伝言板」をちらっとのぞくと、
それぞれの存在をうっすらでも感じることができる。
たとえば夜、飲み会から帰ってきたお兄さんが、
「あ、母ちゃん、『脳トレ』続けてるんだな」って知ることができるような、
そういうちょっとした交流のきっかけになるツールとして
役立ててほしいという気持ちがあります。

岩田 家族の誰かがやった何かが、ちょっとずつそこに
たまっていくようにしたかったんですよね。

玉樹 そうなんです。思い出が残っていくような機械、
愛着が持てるような機械になればいいなあと思って。
当初、伝言板とカレンダーは別のものとして考えられていたんですが、
伝言板に貼ったメモがどんどん記録として残っていけば、
そういうものに近づくんじゃないかという発想で、
メモやメッセージが日付ごとに記録されていくいまの形になりました。
とてもシンプルな構成ですから、日記のようにその日の出来事を
書き込んでいただければそれだけで日記帳のようになりますし、
ゲームの記録などは自動的に書き残してくれることになります。
思い出を残しておくためのツールでもあるし、
家族をさりげなくつなぐツールでもある。
しかも、一方通行じゃなくて、機械のほうからユーザーに
インタラクションを起こしてくれることもあります。
そういうイメージでこの「Wii伝言板」を作っていきました。
と、ここまでが、オフラインの話。
ネットワークにつながっていない状態での話です。
オンラインになると、「Wii伝言板」を介して様々な情報を
友だちとも共有できてしまいます。
といっても、情報がすべて流れてしまうというわけではありません。
誤解されないように言っておきますと、
ここでのネットワークというのは、
ニンテンドーDSの『どうぶつの森』の仕組みと同じで、
お互いがお互いを登録しないとつながらないようになっています。
ですから、知らない人からハラスメントを受けることもありませんし、
スパムメールのような怪しいメッセージが届くこともありません。

岩田 ネットワークでつながることはとても楽しいことですけど、
不特定多数につながるとストレスや恐怖感がありますからね。

玉樹 はい。基本的には、登録した友だちどうしと、
情報をやり取りしていく形になります。
どういうことが起こりうるかというと…
例えば、新しいゲームを買ってきて、Wiiで立ち上げたときに、
「このゲームを買ったことを友だちに知らせますか?」
という質問が画面に現れる、とします。そこで「はい」と答えると、
友だちのWiiのカレンダーに、
「○○を買ったよ!」っていうメッセージをポンと貼ることができます。
そういうふうにゲームの中から友だちに情報を送ることもできますし、
自分でメッセージを作って送ることもできます。
あ、いま言った例は、決定ではなくて、検討中のものです。
そういうようなことができるんだな、と思っていただければ。

青山 どんどんメールをやり取りするような速度のあるものではなく、
なんらかの形で、ネットの向こうに誰かがいるという感覚、
向こうの人の存在感が伝わってくるくらいの、
軽いインタラクションが生まれるツールになればということなんです。

玉樹 さらに、「Wii伝言板」では
ゲームのデータや、静止画などもやり取りすることができます。
また、携帯電話とメッセージをやり取りすることも可能になりますから、
家族の例えばかりになって恐縮ですが(笑)、
残業中のお父さんに居間のWiiからメッセージを送る、
なんていうこともできてしまうんです。
そして、返事に写真付きのメッセージが届いたり。
総合的にいうと、友だちどうしとか、家族とか、
そういった身のまわりの人たちと、Wiiを介して
「ゆるやかにつながっているような感じ」になる、
そういうものだと思っていただければいいと思います。

黒梅 「Wii伝言板」があることによって、
自分ひとりじゃないんだと確認ができるようなものです。
離れたところにいる友だちと、お互いのことを知らせ合うような。

玉樹 はい。それくらいの「ゆるやかさ」が、
ちょうどいいんじゃないかと思っています。
そして、「Wii伝言板」の通信にはWiiConnect24を使っていますから、
そのゆるやかなつながりが、24時間新鮮に保たれます。
ちょうどテレビのように「何か面白そうなことないかな?」と
気軽にWiiに触れてもらえたらうれしいですね。

岩田 なるほど。ええと、いまので、だいたい
「Wii伝言板」の機能は説明できましたかね?
もう言い尽くしました?

玉樹 はい(笑)。

岩田 いや、「Wii伝言板」は、ある意味、最も複雑というか、
できることの懐が深い感じがするんですよ。
我々がまだ思いついていないような使い道が
たくさん出てくるんじゃないかという気がします。

玉樹 ええ、そう思います。

岩田 そういう懐の深さ、可能性の大きさもあって、
「Wii伝言板」はチャンネルのひとつとしてとらえるのではなく、
メニュー画面の枠の外に出してしまったんですよね。

黒梅 そうなんです。
当初は、「Wii伝言板」も枠の中に収まって
4×3の列の中に並んでいたんですけど、
できることが大きすぎるし、
ほかのチャンネルと全部関わってくるので、
これを並列に扱うには矛盾があるだろうということで。
最終的に「Wii伝言板」は、
すべてのチャンネルの裏に大きく存在するという意味で
画面を大きくずらして表示させる方式にしたんです。
そのほうが、起動させてから「Wii伝言板」に行くまでの
操作工程が少なくてすみますし。

岩田 この機能って、ふつうに考えたらたぶん、
「伝言板」じゃなくて「メール」っていう方向にいくと思うんですよ。
それをあえて「伝言板」の方向で進めたのはなぜなんでしょう。

黒梅 さきほども話に挙がりましたけど、
目指すコミュニケーションの質によるものだと思います。
誰かと誰かが直にやり取りする「メール」ではなく、
やはり、存在を知らせ合うくらいの「伝言板」くらいが
ちょうどいいと思ったんです。
これは玉樹くんが当初から言っていたことのひとつなんですが、
イメージとしては大学の構内にある掲示板なんだと。
それを聞いて、なるほどと思ったんです。
ですから、開発当初は木目調のデザインにしてみたり、
メモをピンで貼りつけるようなことも試していました。
最終的には、全体のデザインの方向に合わせましたが。

玉樹 あの、初めて「Wii伝言板」を見た人からよく言われることで、
「家族の中の誰宛、っていうふうにできないんですか?」
っていう意見があるんですね。
つまり、個人個人の伝言板が持てたほうがいいんじゃないかと。
しかし、この機能の根底にある思想としては、
個人の携帯電話に直接他人から連絡が入るというよりは、
家庭のポストの中にハガキが何枚か、
ぱらぱらと届いているようなものに近いんです。
で、ポストをパッと開けると、何通入っているかすぐわかって、
ハガキを見ると、「あ、父ちゃんにだ」っていう。

一同 (笑)

玉樹 そういうコミュニケーションのきっかけって、あると思うんです。
ポストから居間にハガキを持って行くあいだに何気なく読んだら、
それが父親宛の同窓会の知らせだったりして、
「ああ、父ちゃんも学生時代があったんだな」って思えたり。
もちろん、内部でもそうとう議論を重ねたんです。
友だちからのメッセージが、家族に見えちゃうのってどうなのかとか。
でも、やっぱり、目指す方向はメールじゃない。
Wii全体のコンセプトを考えても、
個人が占有する閉ざされたスペースがあるのは、
なにか違うな、という気がしたんです。
それで、「メール」という言葉を使うこと自体をやめて、
「伝言板」という方向性を貫くことにしました。

黒梅 家族のひとりひとりにアカウントを作ることも
仕様を変更すれば、できることはできるんです。
でもやっぱり、Wiiという機械にそれは馴染まないんですね。
端的な例を挙げると、みんなで触ってほしい機械なのに、
個人のアカウントを設けたら、メニュー画面に
パスワードというものを入れなくてはならない。
Wiiの電源を入れたときに、
「ユーザー名とパスワードを入れてください」っていうのは、
なんというか、許せないという感じがしたんです。
これは議論していたほぼ全員が同じ意見でした。

岩田 うん、けっきょくそこだったような気がしますね。
もうWiiのコンセプトとしてありえないよと。
だって、1秒でも早く起動させたいということで
全社をあげてがんばってきたのに、
そこでユーザー名とパスワードを入れないと
使わせてあげないっていうのは、もう論外だと。

青山 そもそも、そうやって無理にパスワードをつけても、
居間のテレビでやってたら、どっちみち見えちゃいますしね。

一同 (笑)

岩田 ですから、考えれば考えるほど、結論はひとつで、
やはりWiiは家族のパブリックスペースなんです。
家族に限らず、みんなが共有しているからこそ
おもしろい姿になるようなものが
あるんじゃないかと思うんですよね。

玉樹 はい。それはWiiリモコンをリビングテーブルに置いて
みんなで共有してください、という感じと同じように、そして、
自分がよく見るチャンネルとお母さんがよく見るチャンネルが
ひとつのメニューに同居しているのと同じように、
「Wii伝言板」もみんなの思いが飛び交い、
仲良く並んでいてほしいと思います。
カレンダーの未来に書き込まれるのはみんなの予定で、
過去に書かれたことはみんなの思い出。
そういう機械がリビングの中央にあったら、
「こいつ、いいやつだな」って
みんなに思ってもらえるんじゃないかなあと。

一同 (笑)

岩田 いまの話をしながら思い出しましたけど、
はじめのうちは同じように議論になって、
けっきょく同じような結論にたどり着いたものに
「プレイ履歴」という機能がありますよね。
これは、人に見せると意外に驚かれることが多いんです。
黒梅さん、説明してもらえますか。

黒梅 はい。説明といってもシンプルなものですが、
Wiiでは、いつ、どのゲームをどのくらいプレイしたかという
「プレイ履歴」が本体に自動的に記録されていきます。
まあ、ここまでは議論になるようなことではないんですが、
議論になったのは、この「プレイ履歴」が消せないということです。
まだ仕様変更の余地はありますけれども、
いまのところ、消せないようになっています。

岩田 これは、そもそもの話を私からしないといけませんね。
これまでも散々言ってきましたけど、
私はWiiを開発するにあたって、
「家庭内でゲームが敵視されないようにするためには
どうしたらいいか」ということを延々と考えてきたんです。
そこで思いついた仮説、というか暴論に近いんですが(笑)、
親がゲームを「1日1時間」と決めたら、
ゲームを始めて1時間後に、ほんとうに電源が切れてしまう
という仕様はどうだろうかと思ったんです。
まあ、ゲーム会社の社長にあるまじき考えですね(笑)。

一同 (笑)

岩田 もちろん、データは完全にセーブされたうえでのことです。
それにしたって乱暴な仕様なんですが、
なにしろ私は‥‥本気でしたので(笑)。
いや、ひどい話だとわかってはいたんです。
でも、それぐらい考えを極端に振り切って議論をしないと
新しいことはできないと思ったんです。
少なくとも、そういう意識を持って話し合うことは価値がある、と。
そうするとやはり、議論は白熱しまして(笑)。
やっぱりそれは許せないという意見であるとか、
それくらい極端にしないとお母さんの敵視はなくならないとか。

青山 いや、もう、たいへんでしたよ。
議論はともかく、技術的な裏づけはとらなきゃいけませんから。

岩田 そうですね、なにしろ社長命令ですから(笑)。
1時間経つと全データがセーブされる仕様は可能なのか、
つぎの日にスタートするときはどうなるのか、
というところをいちおう、きちんと追求していって。
まあ、けっきょく、それがいかに難しいかということを
こんこんと説明されましたし、その目的を果たすためには
強制的に電源を切るよりもっといい方法があるということで、
その仕様はなくなったんですけど。

一同 (笑)

黒梅 けっきょく、その議論から生まれてきたものが
どの時間をどれだけプレイしたかがみんなにわかるという
「プレイ履歴」だったんです。
「ゲームは1日1時間」という約束を守るために
強制的に電源が切れてしまうよりも、
「プレイ履歴」による親子のやりとりを通じて
約束を守る流れができるほうがずっと魅力的だと
いうことになったんですね。
で、それを消せないということについては、
また違った議論があったんですけど。

青山 夜中にこっそり起きてプレイしたゲームも、
全部、履歴が残っちゃいますからね(笑)。

玉樹 最終的には、そういう部分も含めて、いろんな話のタネになりますし、
なにより、自分が何をどれだけ遊んだのかということが
結果として残っていくのはおもしろいじゃないかということで、
消せない履歴が残ることになったんです。
もちろん、親子のやりとりというだけではなくて、
「気がつくとオレはこればっかり遊んでるなあ」とか、
将来的にはグラフで表示できるようにするのも
おもしろいんじゃないかとか、
ユーザーのみなさんに協力してもらえれば、履歴を集めて、
「1年でもっとも長い時間遊ばれたソフト」を決められるとか、
そこから派生する楽しみの部分のほうに
価値があるんじゃないかということで。

岩田 思えば私の暴論から始まったことでしたが、
そこから生まれた流れや議論は
無駄じゃなかったと思ってます。
‥‥まあ、迷惑をかけてしまった人はいますが。

一同 (笑)

岩田 それでは最後に「チャンネル」について、
まだ話していない魅力があれば、お願いします。

黒梅 はい、チャンネルが一覧できるWiiメニューでは、
それぞれのチャンネルにアニメーションが付いていて
とても賑やかになっていますが、チャンネルによっては
ずっと同じものが表示されるのではなく、
変化するものもあるんです。
例えば、「お天気チャンネル」だと
晴れマークや28℃といった情報が表示されるので、
その日の天気や気温だけなら、
Wiiメニュー画面上でわかるようになっています。
こういったところも、
魅力のひとつだと考えています。

玉樹 細かい話になりますけど、それぞれのチャンネルは、
Wiiリモコンの+ボタンと−ボタンを押すことによって
4×3の全体メニューに戻ることなく、
つぎつぎに切り替えることができます。
で、ひとつひとつのチャンネルに入ったときには
そのチャンネル固有の効果音が鳴るようになっていて、
ぽちぽちとボタンを押してチャンネルを切り替えるだけで
なんだか賑やかで楽しいんですよね(笑)。
いろんなチャンネルが歓迎してくれるみたいで。
Wiiでは、様々なチャンネルを実現できたことによって、
ここまでできるとは思ってなかったっていうほど、
間口を広くすることができたと思ってます。
とりあえず「何かないかなあ」って触るだけでも
楽しいと思いますので、ぜひいろんな人に体験してもらいたいです。

青山 ちょっとWii自体の話からはそれるんですが、
まえに黒梅さんが言ったことと同じで、
私も、チャンネルを企画してみたいなという気がしてるんです。
で、そういうふうに感じている人というのが
社内にはけっこういるんですね(笑)。
それも、ソフト開発に関わっていない人たちのあいだで、
「こういうチャンネルはどうかな」
みたいな話がふつうに交わされていて、
それはWiiの持つ魅力とすごく関係していると思うんです。
おそらく、いままでのゲーム機だったら、
そういうふうに考えることはなかったと思うんです。
それはこの「チャンネル」という仕組みの背景には
WiiConnect24をはじめとするネットワークインフラがあるからなんですが
ゲームを作る人じゃない人なりの何かができそうな気がする。
そういうふうに思えるだけでも、
Wiiは新しくて、間口の広いマシンだなと思います。

岩田 私からのまとめの感想ですが、
当初、「こうなればいいな」と思っていたことが
ここまでちゃんと具体化するとは、正直、思ってませんでした。
Wiiを作るにあたって、
私は、思い描いているさまざまな企画がきちんと実現すれば、
人とゲームの関係は変わるんじゃないかと思ってました。
毎日、いろんな人が電源を入れて、
家族とゲームとインターネットの関係が
もっとおもしろくなるんじゃないか、
テレビのまわりで新しい娯楽が生まれて
新しいライフスタイルが始まるんじゃないか、
そんなふうに私は思ってきましたので、
これがどのように受け入れられるのかがとても楽しみです。
どう評価されるのだろうということではなく、
「どんなふうに使ってもらえるんだろう?」という感じ。
そういうおもしろいものができあがったと思います。

玉樹 あ! あの、最後にひとついいですか?

岩田 どうぞ(笑)。

玉樹 家族で「チャンネル争い」してもらいたいんですよね。

一同 (笑)


(次回からは、ひとつのチャンネルについて詳しく話していきます)
第4回「世界中のMiiが交流するという野望を持っています」