1. マリオミュージックの代表曲を選曲

岩田

『スーパーマリオ』25周年を記念して、
『スーパーマリオコレクション スペシャルパック』を発売することになり、
そこに→「スーパーマリオヒストリー 1985-2010」という
マリオ25年間の歴史や開発資料などを掲載したブックレットと
マリオ音楽のCDがいっしょに付いてくることになりました。
そこで今回は、「マリオミュージックの伝統とは何なのか」
ということをお訊きできればと思いまして、
サウンドスタッフの3人に来てもらいました。
よろしくお願いいたします。

一同

よろしくお願いいたします。

岩田

それにしても25年も経つと、
世代がいい具合に離れるものですね(笑)。

横田

(両脇の2人を見て)そうですね。
ちょうど10年ずつくらい離れてる感じです。

近藤

(横田さんとの間をさして)
まだ、この間に何人もいるんですけどね。

岩田

はい。というわけで、みなさんは以前、
→社長が訊く『スーパーマリオギャラクシー 2』(※1)
登場していただきましたが、
かんたんに自己紹介をお願いできますか。

近藤

25年前の『スーパーマリオ』(※2)の曲を担当して、
いちばん最近の『スーパーマリオギャラクシー 2』まで関わっています、
情報開発本部制作部の近藤と申します。

横田

東京制作部の横田です。
『スーパーマリオギャラクシー』(※3)シリーズから
マリオサウンドの曲づくりに関わっています。

永松

近藤さんと同じ制作部サウンドグループの永松です。
最初に『マリオ』に関わったのは
『マリオカートWii』(※4)なんですけど、
伝統的な『スーパーマリオ』シリーズに関わったのは
『NewスーパーマリオWii』(※5)からで、
そのあとの『マリオギャラクシー 2』という流れになっています。

※1

『スーパーマリオギャラクシー 2』=2010年5月に、Wii用ソフトとして発売されたアクションゲーム。

※2

『スーパーマリオ』=『スーパーマリオブラザーズ』。1985年9月に、ファミコンで発売されたアクションゲーム。今回の『スーパーマリオコレクション スペシャルパック』に収録。

※3

『スーパーマリオギャラクシー』 =2007年11月発売のWii用アクションゲーム。

※4

『マリオカートWii』=2008年4月に、Wii用ソフトとして発売されたアクションレースゲーム。

※5

『NewスーパーマリオWii』=『New スーパーマリオブラザーズ Wii』。2009年12月に、Wii用ソフトとして発売されたアクションゲーム。

岩田

そもそも『マリオ』にはたくさんの音楽ライブラリがありますが、
このCDをつくることになって、
膨大な曲のなかから記念になるものを選曲する、という作業は、
けっこう大変じゃなかったですか?

近藤

そうですね。
最初はどんな構成にするかで、いろいろ悩んだんですけど、
今回は初代『スーパーマリオ』から
『マリオギャラクシー 2』までの10タイトルのなかから
代表曲が1曲ずつあるほうが喜ばれるんじゃないかということで、
このようなかたちになりました。

岩田

1タイトルから1曲ずつ、
代表曲を選ぶのは難しくなかったですか?

横田

たしかに人それぞれに思い入れが違いますしね。

近藤

ですから、ゲームの最初に聴ける音楽・・・、
「地上BGM」や「テーマ曲」を順番に並べていって、
途中で変化をつけるためにアスレチックシーンの音楽を
ちょっとずつはさみこむような構成にしてみました。

永松

今回のCDをつくるにあたって、過去の曲を調べてみたんですが、
そもそも『マリオ3』(※6)まではタイトル曲がないんです。

岩田

ああ、そうですね。ファミコン時代に出た
『スーパーマリオ』シリーズにはタイトル曲がなかったんですね。

永松

そうなんです。

岩田

というか、ファミコン時代はタイトル曲が入らなかったんですよね。
メモリがないという、わかりやすい理由で。

近藤

そうなんですよ。

横田

『マリオ3』にもありませんでしたっけ?

永松

ないんです。

横田

なんか落ち葉が降ってきたり、
幕が下りたりしてたじゃないですか。

近藤

そうでした。

横田

でも音がないんですね。

近藤

そう。で、スーパーファミコンの時代になり、
『マリオワールド』(※7)で初めて→タイトル曲を入れたんです。

※6

『マリオ3』=『スーパーマリオブラザーズ3』。1988年10月に、ファミコン用ソフトとして発売されたアクションゲーム。今回の『スーパーマリオコレクション スペシャルパック』に収録。

※7

『マリオワールド』=『スーパーマリオワールド』。スーパーファミコンと同時発売されたアクションゲーム。シリーズ4作目。1990年11月発売。

岩田

ちなみに、今回のCDの選曲をしたのは近藤さんなんですか?

近藤

そうです。自分で自分の曲を(笑)。

横田

なので「セルフベスト盤」と言えるんじゃないでしょうか。

岩田

「近藤浩治さんセルフベスト盤」なんですね(笑)。

近藤

はい(笑)。

岩田

横田さんから見ると、今回の選曲はどう見えますか?

横田

自分は本当にゲーム音楽マニアなんです。
『マリオ』の曲は自分でも大好きなので、
今回の選曲はファンの方も喜ぶものになったと思います。

岩田

たとえばどういうところですか?

横田

たとえば→「スライダー」ですね。
『マリオ64』(※8)の。

岩田

ああ、あの曲ですね。
耳にすごく残るんですよね、あの曲は。

※8

『マリオ64』=『スーパーマリオ64』。ニンテンドウ64と同時に発売された、マリオ初の3Dアクションゲーム。1996年6月発売。

横田

わたしはこの曲がすごく好きで、
N64が出たときは任天堂の社員ではなかったんですけど、
自分の奥さんに「いい曲だよ」と聴かせていたくらい、心の1曲なんです。
で、最初はぜんぜん気づかなかったんですけど、
実はこの曲、→『マリオ64』の「地上BGM」の曲のアレンジなんですよね。
近藤さん、どっちを先につくったんですか?

近藤

「地上BGM」です。

横田

そうだったんですか。よくよく聴いてみたら
「スライダー」の曲は「地上のBGM」と→メロディが同じで、
「すごい。アレンジでここまで変わるんだ」ということを
当時、N64をやっていた、いちゲーマーとして感動しました。

岩田

横田さんがN64をやっていた頃はいくつくらいだったんですか?

横田

社会人にはなっていました。
23、24歳の頃じゃないかなと思います。
ちょうど結婚したばかりで、家でもゲームをやってまして・・・。

岩田

家でもゲームをして、奥さんには「ゲーム音楽を聴け」と。

横田

そうですそうです(笑)。
「近藤さんの曲はいいんだ」と自慢してました。
(近藤さんに)この話、したことありましたっけ?

近藤

・・・・・・(黙って首をかしげる)。

一同

(笑)

横田

それで、もともと「スライダー」の曲が大好きで、
スマブラコンサート(※9)のときに
オーケストラ用にアレンジしたのを聴いて、
ますますいい曲だな、と思うようになりまして、
「自分もいつかこの曲をアレンジしたい」と思ったんです。
で、『マリオギャラクシー』の『1』のときに、「スライダー」の曲を
なんとか使おうと思って、準備もしていたんですけど、
この曲が合うような、滑っていく・・・。

岩田

場所がなかったんですね(笑)。

横田

はい(笑)。
なので、自分的にはお蔵入りにしたんですけど、
『マリオギャラクシー 2』でスライダーの遊びができましたので、
誰の意見も聞かずに、→その(アレンジした)曲をつくって入れました。

岩田

(笑)

横田

誰の許可もとらずに、もうこれしかないと。
で、夢のアレンジが・・・。

岩田

ついに実現したということですね。

横田

はい。だから、すごくうれしかったです。

岩田

ちなみに奥さんは、N64の「スライダー」の曲を聴いて
「いい曲だ」と言ってくれたんですか?

横田

いえ、とくにコメントはなかったような・・・(笑)。

岩田

奥さんは「スライダー」を遊ばれていましたか?

横田

あー、遊んでないかもしれないです。

岩田

何回も落ちなきゃダメなんですよ。
で、もう1回と(笑)。
すると、あの曲を身体で覚えていくんです。

横田

そうですよね(笑)。

岩田

だから、わたしも「スライダー」の曲が
すごく残ってます。

横田

わたしもそうです。何度も落ちたり、コインを取り損ねて
「さあ、もう1回」とやってましたから(笑)。

※9

スマブラコンサート=2002年8月に東京で開催された、「大乱闘スマッシュブラザーズDXオーケストラコンサート」のこと。任天堂とHAL研究所が主催。