1. 曲づくりのコンセプト

岩田

『スーパーマリオギャラクシー 2』を語るうえで、
やはりサウンドのことを訊かないのは
ないだろうと思いまして、みなさんに集まってもらいました。

横田

ありがとうございます。
でも今回はその予定がないと聞いていましたので、
実はちょっと寂しい思いを・・・(笑)。

岩田

はい、当初は予定になかったみたいですね。
まあ、わたしが訊きたかったこともありまして、
わたしの提案で実現したのかもしれません(笑)。

横田

うれしいです。

岩田

『マリオ』のサウンドは
世界中の人々に広く知られていて、
ゲームミュージックの分野でも長い歴史があるなかで、
その伝統をちゃんと引き継ぎつつ
新しい提案をしなければいけないというのは、
毎回、大きなプレッシャーがあるだろうなと思っているんです。
 
それに今回も、
→前作に引き続きオーケストラ録音をしたという話ですし、
そのあたりの話も交えて、いろいろ訊かせてもらえればと思っています。
よろしくお願いします。

一同

よろしくお願いします。

岩田

それでは今回、みなさんが何をしたか、
自己紹介をかねてお話ししていただきましょうか。
まず近藤さんから。

近藤

情報開発本部の近藤です。
今回は、前作の『マリオギャラクシー』(※1)に引き続いて
横田さんにサウンドディレクターをしてもらっていて、
僕は曲を何曲か担当しました。

岩田

サウンド全体のとりまとめは横田さんがして、
近藤さんはその後ろで見守りつつ、手も動かしていましたと、
そういう感じなんですね。

近藤

はい。できあがったすべての曲を聴いて、
『マリオ』に合っている音楽ができあがっているかどうか、
監修のようなことも担当しました。

※1

『マリオギャラクシー』=『スーパーマリオギャラクシー』。2007年11月発売のWii用アクションゲーム。

岩田

それでは横田さん。

横田

東京制作部の横田です。
わたしは前作の『マリオギャラクシー』から引き続き
サウンドディレクターを担当していて、
今回は『2』ですが、たくさんの新曲をつくりました。
ですので、みなさんにいっぱい聴いていただきたいなと思っています。

岩田

それは『2』だからといって
単に前の曲をそのまま使っているとは
感じられないようになっている、ということですね。

横田

そうです。でも実は、宮本さんからは
「頑張りすぎるな」と言われていたんです。
「きみたちは放っておくと、何でも新しいことをしようとするけど、
前作の音楽の世界をすごく好きになって、
それを楽しみにしているお客さんもいらっしゃるんだから」と。

岩田

「全部捨てるようなことはするな」と言われたんですね。

横田

はい。「まったく新しくしてどうするんだ」と言われました。

岩田

もちろん伝統を守ることは大事ですし、
前作を楽しんでくれたお客さんを大切にしたいという話と、
前と同じではまったく芸がないという話との間で
一体どこに行くの?ということですよね。

横田

そうなんです。同じでは芸がありませんので、
今回は→前作のアレンジ曲
→マリオシリーズのアレンジ曲をいろいろ用意しました。
ですから、前作のファンの方にも楽しんでいただきつつ、
→まったく新しい曲もいっぱいつくりましたので、
ボリューム満点のBGMができたと思います。

岩田

はい。それでは永松さん。

永松

今回の『2』から参加した、
情報開発本部の永松です。

岩田

永松さんは入社何年目になるんですか。

永松

丸4年になります。
今回の『マリオギャラクシー 2』の前は、
『New スーパーマリオブラザーズ Wii』(※2)
サウンドに関わっていました。

岩田

つまり『マリオ』の連作になるんですね。

永松

はい、そうです。

※2

『New スーパーマリオブラザーズ Wii』=2009年12月に、Wii用ソフトとして発売されたアクションゲーム。

岩田

それではまず最初に、音をつくるという立場から、
『マリオギャラクシー 2』がどうやってはじまったのかを
話していただけますか?

横田

すでに前回までの「社長が訊く」で話が出たかもしれませんが、
もともと前作の『マリオギャラクシー』の資産を活かした
『1.5』というアプローチではじまったプロジェクトでしたので、
最初は「音楽は変えなくていいでしょう」という話だったんです。

岩田

前作の地形はそのまま活かし、
音楽もまた、そのまま使おうということだったんですね。

横田

そうなんです。
ところが、まずデザイナーが頑張りはじめて、
どんどん新しい絵がつくられていくようになったんです。

岩田

みんなが「もっともっと」と頑張ったんですね。

横田

そうです。「もっともっと」と言っているうちに
どんどん新しい世界がつくられていって、
何より曲調を考えるうえでいちばん大きかったのは
→背景が青空になったことなんです。

岩田

「マリオはやっぱり青空でしょう」と
宮本さんがしみじみと言ってましたよ。

横田

ああ、そうでしたか(笑)。

岩田

宮本さんは、「宇宙を飛ぶマリオもいいけど、
それだけだとマリオらしくないんですよ」とか言っていて、
「でも宇宙を舞台にしたのは宮本さんじゃないですか?」と
ツッコミを入れたいと思いながら、その話を聞いていました(笑)。

横田

(笑)。さらにヨッシーも登場することになりましたし、
その青空バックの世界観に似合うような、
さわやかで、軽快な音楽が求められるようになったんです。

岩田

曲調はデザインを考慮しながら考えていったんですね。

横田

そうです。
で、青空やヨッシーにふさわしい曲調を考えていくうちに、
『マリオ』の音楽では何が大事なのかということが
自分のなかでなんとなくわかるようになってきまして。

岩田

ということは、前作の曲をつくったときは
『マリオ』の音楽で大事なことがわからなかったんですか?

横田

前作のときは「おっかなびっくり」だったんです。

岩田

横田さんが『マリオ』の曲を手がけたのは
前回が初めてでしたからね。
なので、「おっかなびっくり」だったのは
わかる気がするんですが、
でも最後の頃には、けっこうつかんでいるようにも見えましたし、
横田さんのことを近藤さんが信頼しているのも
端から見ていてもよくわかりましたよ。

横田

でも、当時は本当に手探りだったんです。
ところが2度目の今回は
「『マリオ』の音楽ってこうなんだ」ということが、
なんとなくわかるようになりました。
そもそも、『マリオ』を遊んでいる人たちは
口をそろえて「音楽を聴くだけでも楽しい」と言ってくださるんです。

岩田

なるほど。

横田

ですから、プレイしている人が音楽を聴いていて楽しくなっちゃう、
ついつい楽しくて、笑顔がこぼれるという音楽が
『マリオ』には求められているんだと思うようになりました。

岩田

近藤さん、いかがです?

近藤

そうですね。やっぱり僕も『マリオ』の曲をつくるときは、
「どの曲もより楽しく」ということはすごく意識しています。
ただその一方で、『マリオギャラクシー』だからという部分を
かなり意識してつくるところがあって、
そのバランスをとることがとても大事だと思います。

横田

今作ではメインのビジュアルに青空の背景が来たこともあって、
とにかく楽しい曲を多めに用意しました。
すると、反響が違うんです。

岩田

それはチーム内の反響ということですか?

横田

まずチーム内から反響がありました。
で、マリオクラブ(※3)やNOA(Nintendo of America)の方からも、
とても手ごたえを感じられるような反響をいただきました。
そもそもシリーズものというのは、
前作を超えるのが難しかったりするんです。

※3

マリオクラブ=マリオクラブ株式会社。任天堂の開発中ソフトのデバッグやテストプレイを行う。

岩田

当然、前作との戦いというプレッシャーがありますしね。

横田

そうなんです。
前作は“宇宙という世界観”を前面に押し出すアプローチでしたが、
今回はヨッシーも登場するということもあって、
“宇宙を冒険する楽しさ”をコンセプトにして
曲をつくってみたんです。すると、
「この曲をもう一度聴きたいから、
同じギャラクシーに入っちゃいました」とか
前作では聞かなかったようなうれしいコメントが
いっぱい寄せられるようになったんです。

岩田

聴くだけでも楽しいのが『マリオ』の曲だ、ということで
横田さんは曲づくりをして、
今回はその手ごたえをすごく感じているんですね。

横田

はい。それで、今回もぜひご覧いただきたいと思って、
オーケストラ録音の映像を撮ってきました。

岩田

恒例のオーケストラ録画ですね。
実はわたしがこれを見たかったというのも、
「社長が訊く」をやることになった理由のひとつなんです(笑)。

横田

(笑)。それではご覧ください。

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