岩田
近藤さんは前作と今作で、
横田さんの仕事ぶりの変化で何か感じたことはありますか?
近藤
メロディアスな部分については、
けっこう気を使っているなと思いました。
さらに、前作の雰囲気はそのまま引き継いでいて、
すごくまとまった印象を持っています。
岩田
安心して見守ることができたという感じなんですね。
近藤
そうですね。で、先ほど横田さんが
「『マリオ』の音楽は楽しいことが大事だ」と言いましたけど、
僕自身『マリオ』らしさについては、
言葉にすることがなかなかできなくて
うまく伝えることができていなかったんです。
それで、つい先日、情報開発本部のサウンドのメンバーを集めて、
「続編をつくるにあたって、気をつけていることは何か」というテーマで
みんなで話し合う機会を設けたんです。
そのときに、あるスタッフから
「『マリオ』の音楽はマイナーコード(※7)を使っていない」
という意見が出てきたんです。
永松
そうでしたね。
※7
マイナーコード=短3和音のこと。対して長3和音はメジャーコードと呼ばれ、一般にマイナーコードは暗く、メジャーコードは明るい和音と言われる。
岩田
マイナーコードを使っていないというのは、
確かに“楽しさ”と通ずるところがありますね。
近藤
だから、ずっと明るいまんまなんです。
ミスをしたときも暗くならないんです。
岩田
ああ、なるほど。
だからミスをしても、もう1回やりたくなるんですね。
「ニッコリさわやか、またもう1回」みたいに。
一同
(笑)
近藤
まさに「ニッコリさわやか」な感じで(笑)。
なので、ミスしたときの「もう1回やってね」みたいなサウンドが
『マリオ』らしいと言う人もいました。
岩田
でも、近藤さんは25年にわたって
『マリオ』の音楽をつくり続けてきて、
しかもそれらは、近藤さんのなかから
自然に生まれてきたものだったので、
なかなか言葉にすることができなかったんですね。
近藤
そうなんです。
僕も言われるまで気がつかなかったんです。
それに、僕自身が『マリオ』の曲をつくるときに
気をつけていることはたくさんあるんですけど、
それを言葉で言い表すことができていなかったんです。
でも先日、自分の曲を分析してみたら
『スーパーマリオブラザーズ』(※8)の
「地上BGM」のメロディは、
実はマリオの歩きに合わせていたんじゃないだろうかと気づいて。
岩田
ああ、つまり、マリオのステップに合わせて
メロディがつくられているということなんですね。
※8
『スーパーマリオブラザーズ』=1985年9月に、ファミコンで発売されたアクションゲーム。
近藤
それを意識して曲を書いたわけではないんです。
最初は歩くときに「♪タラララッラ」で、
それでクリボーを見つけて、
タイミングを計るために、いったんバックして
また戻るところが「♪タララ、タララ」となって、
また歩き出して跳んで踏むところが
「♪タラララッラ、タッタタ!」となると。
そんな感じで、マリオの動きとメロディが
とても合っているんですね。
実際につくったときは
そんなことはぜんぜん考えずにつくったんですけど、
もともと僕のなかにそういうイメージが潜在的にあって、
だからこそ、そういう曲になったのかなと思ったんです。
まあ、こじつけかもしれないんですけど(笑)。
永松
そういえば、近藤さんから注意を受けたことがあるんです。
岩田
注意? それはどんなことですか?
永松
『New スーパーマリオブラザーズ Wii』の話なんですが、
ワールドマップがありますよね。
そこの曲を制作しているとき、
一生懸命ひねり出して曲を書いて
自分でもなかなかいい曲ができたと思ったんです。
そこで近藤さんに聴いてもらったら
「これじゃダメ、いい曲じゃアカンねん」
と言われたんです。
岩田
「いい曲じゃアカンねん」?(笑)
永松
ワールドマップというのは、
そこにとどまるべき場所ではなくて、
一刻も早くお客さんを
冒険の世界に連れて行かないとダメなんだと。
岩田
ああ、だから居心地が良すぎるとダメなんですね。
永松
そうなんです。いい曲がほしいわけではなく、
「次のステージで早く遊びたい」と
お客さんに感じてもらえるような曲が必要なんだと。
近藤
だから「単純な曲のループにしてほしい」と伝えました。
永松
そうでしたね。
僕はその話を聞いて、「なるほど」と思いました。
岩田
いい曲をつくろうとしている人が
「いい曲じゃアカンねん」と言われてしまうことは、
言葉としてはすごいインパクトがありますけど、
言われてみれば確かに「なるほど」ですね。
永松
はい。
横田
一方で『マリオギャラクシー 2』のワールドマップの場合は
『New スーパーマリオブラザーズ Wii』とは対極で曲をつくりました。
というのも、いろんなギャラクシーで
さんざん汗を流したあとに星船マリオに戻ってきますので、
ワールドマップの曲を聴きながらクールダウンしていただき、
そこで一息ついたら、次の冒険に旅立ってほしいと
そんな想いで曲を書いたんです。
なので、同じワールドマップの曲でも、
ゲームが異なれば、コンセプトも違うということなんです。
岩田
やっぱりテンポが違うゲームですからね。
でも、いまの近藤さんの話を訊いて大事なことがわかりました。
以前、『マリオ』のグラフィックデザインには
機能が表現されているという話がありましたが、
実は『マリオ』の音楽も機能が表現されて
曲になっているんですね。
横田
ああ、そうですね。
岩田
だから、インダストリアルデザインを勉強した
宮本さんがつくりあげた世界のなかには、
グラフィックのデザインだけでなく、
実は音楽でも機能が表現されているんですね。
近藤
僕は自分では「効果音楽」と呼んでいたのですが、
今回の『マリオギャラクシー 2』で、
横田さんにも注意したことがあるんです。
ヨッシーのパーカッションのときに
右と左に、高い音と低い音を分けていたんですけど、
それだとヨッシーに乗ったという
機能的な意味の音ではなくって、
音楽的に聴こえやすいという感じの音の出し方だったんです。
でも、ヨッシーは画面の真ん中にいるはずなので、
真ん中から高い音も低い音も出すように
直してもらったことがあるんですね。
岩田
つまり、音楽的にキレイに聴こえることよりも、
機能的な音にすることが大事なんですね。
近藤
はい。音も機能を表すんです。
横田
それを「効果音楽」と呼んでるんですね。
近藤
そうです。