5. 近藤浩治のCD収録曲解説(2)

横田

いまの『マリオ3』の「アスレチックBGM」には
ちょっと思い出があるので語ってもよろしいでしょうか。

岩田

はい、どうぞ。

横田

子どもの頃、この曲をピアノで弾こうとしたんですけど
自分では演奏できなかったんです。
→♪タララ・タララ・タラ・タラタのあとに、
♪トゥワァ〜ンという音
が入ってるんですね。

近藤

ポルタメントです。

横田

そうそう、ポルタメント。
連続的に音高をずらしていく奏法をポルタメントと言うんですが、
それがピアノで再現できなかったんです。

岩田

確かにピアノで弾くには向いていないですよね。

横田

その♪トゥワァ〜ンという音が弾けなくて、
自分のなかで90パーセントの完成度のまま大人になっちゃったんです。

岩田

(笑)

横田

でもこの曲がすごく好きなので、
なんとか『マリオギャラクシー』で使おうと思っていたら、
この曲に向いているアスレチックなコースができたので、
→♪トゥワァ〜ンの音もキレイにアレンジできて、
やっとこの曲との整理がついたんです。

岩田

長年の因縁に決着がついたんですね。

横田

はい。やっと卒業できました(笑)。

トラック04. Super Mario World / 地上BGM

近藤

そして『マリオワールド』の「地上BGM」。
このときは『マリオ3』でいろんな曲を入れ込んだという反省から、
ひとつのテーマを、「地上」とか「地下」など
いろんなコースでアレンジして使おうと。
そうすると場面ごとに曲調が変わるけど、
メロディは同じだということで
耳にしっかり残るんじゃないかということでつくりました。

岩田

『マリオ3』の苦労があったから
その後のマリオミュージックの構造が決まったんですね。

近藤

あと『マリオワールド』はスーパーファミコンでしたから、
8音が同時に出せるようになったのがすごくうれしかったんです。
そこで、いかにスーパーファミコンの良さを伝えようかというところで、
タイトルの曲で、いろんな楽器をいっぺんに
どんどん変えて出そうと、そういう曲にしました。

岩田

「スーパーファミコンではいろんな音が出るんだぞ」と、
ちょっとアピールしているんですね。

近藤

そうです(笑)。ただここでも悩みがあって、
それまでのゲーム音楽と言うと、
矩形波とか三角波の電子音で認められたところがあったんです。

岩田

ピコピコ音とか言われてましたね。

近藤

その電子音が他の音楽とは違うという区別ができて、
自分でもそれがゲーム音楽だと思ってつくっていたんですけど、
スーパーファミコンになって、いろんな楽器が使えて、
いろんな音楽ができるというところで、
どういうところをゲーム音楽と言ったらいいのかと、
とても悩むようになってしまったんです。
そこで、『マリオワールド』をつくりながら考えたのが、
ふつうは聴かれないような楽器の組み合わせで、
それをゲーム音楽としようと。

岩田

へえ〜っ。

横田

ああ、なるほど。

近藤

バンジョーがあるのに、ラッパがあったりとか。

横田

通常の楽器編成ではあまり見ないような・・・。

岩田

ふつうは編成では組み合わせないような音を出していく・・・。
でもやっぱり毎回ユニークであろうとすることに関しては
近藤さんの曲づくりは徹底してますよね。

近藤

考えていないようで、考えているんです(笑)。

岩田

(笑)

近藤

あと効果音も、それまでのように
矩形波を使う手もあったんですけど、せっかくいい音になったので、
効果音の音階などはそのままにして、音色は楽器の音色を使うと。
たとえばジャンプ音はパンフルートの音ですし。

岩田

パンフルートの音をゲーム効果音風に加工して使ってるんですね。

近藤

そうです。

岩田

だから、伝統の技術と新しい音色、
新しい素材のハイブリッドなんですね。

近藤

そういう感じで『マリオワールド』の音をつくりました。

トラック05. Super Mario 64 / スライダー

近藤

N64になると、3Dになるので
いままでの雰囲気とはガラッと変えなきゃいけません。
それまでと同じつくり方ではダメだと思いました。
しかもN64ですから、さらに音がよくなって
CDとかで聴けるくらいの音が出せるようになりましたので、
データの組み方という点では苦労もあったんですけど、
ベースはベース、ドラムはドラムでと、
本物の楽器を実際に弾いている感じでつくりました。

横田

マリオの声が出るようになったのは
『マリオ64』からなんですよね。

近藤

そうです。声を入れたほうがいいということで。
というのも、3Dになるとジャンプ音はぜんぜん合わないんです。
そこで、跳び立つ足の音と着地音を入れて、
声も出すようにしました。
なので、N64のときから大きく変わりましたね。
効果音に対する意識も。

トラック06. Super Mario Sunshine / ドルピックタウン

近藤

次は『マリオサンシャイン』(※15)の「ドルピックタウン」。
ゲームキューブになって、さらに音源が進化して、
ギターの音とかも、けっこうきれいに出るようになったので、
それをうまく入れ込むようにしました。
あと、南の島が舞台になっていますけど、中南米や太平洋ではなく
ヨーロッパのリゾート地のイメージで、と言われてたんです。
そこで、その土地に合うような曲づくりをしました。

※15

『マリオサンシャイン』=『スーパーマリオサンシャイン』。2002年7月に発売されたゲームキューブソフト。『マリオ』の3Dアクションゲーム。

横田

近藤さん、すごく失礼な話ですけど、
この「ドルピックタウン」の自分なりの評価を話していいですか?

近藤

はい。

横田

わたしは「満点だ」と思いました。

近藤

おお(笑)。

横田

自分は『マリオサンシャイン』が出た当時、
別の会社でゲーム音楽の仕事をはじめていたんですけど、
周りの人を呼んで、
「100点のゲーム音楽があるから聴いてみろよ」と言って、
みんなに聴かせたくらいなんです。
「この音数の少なさで、この世界観や水をまく楽しさが、
全部凝縮された音楽なんだよ、これは!」ということを力説していました。

岩田

横田さんは、気に入った曲があると、
人に聴かせないと気が済まないタイプなんですね(笑)。

一同

(笑)

横田

そのくらい、この「ドルピックタウン」の曲には
ゲームの世界が全部入っていると思いましたし、
そのことをいつか近藤さんに言いたかったんです。

近藤

ああ、ありがとうございます。

横田

しかも、社員としてではなくて、
いちゲーム音楽ファンとして言いたかったんです。

岩田

上司へのヨイショじゃないんですね(笑)。

横田

ないですないです(笑)。

トラック07. New Super Mario Bros. / 地上BGM

近藤

次はDSの『Newスーパーマリオ』(※16)の「地上BGM」。
実はこの曲、もともとは他の担当者がつくっていたんですけど、
「これはちょっと『マリオ』と違うんじゃないか」と
別のスタッフから言われたこともあって、
僕がつくりなおすことにしたんです。

※16

『Newスーパーマリオ』=『Newスーパーマリオブラザーズ』。2006年5月に、ニンテンドーDS用ソフトとして発売されたアクションゲーム。

横田

正直に言いますと、この曲を初めて聴いたとき、
伝統的なマリオミュージックの世界観を
誰かがマネしてつくったのかなあと感じた曲なんです。
だけど、近藤さんの曲なんですよね。

近藤

そうです。
『Newスーパーマリオ』は昔と同じ横スクロールなんですけど、
キャラクターが3Dになったり、携帯機になったりしたので、
僕としては、どう変えたらいいのかと
悩みながらできあがっていったと・・・。

岩田

伝統的な横スクロールの『マリオ』なんですけど、
“New”らしさも出さないといけないというところで
近藤さんは悩んでしまったんですか。

近藤

そうです。
前の曲とどう変えたらいいのかなと、すごく悩みました。
でも、他の曲は別のスタッフが担当したんですけど、
けっこう“New”という感じで、DSの音色も、
小さいスピーカーからきれいな音が出せるように工夫していましたし、
全体的なまとまり方はよかったかなと思っています。