岩田
さて、若井さん、
サウンド全般についてお訊きしたいんですけど。
若井
はい。
岩田
今回、若井さんの目から見て、
音楽面でのチャレンジって何だったんですか?
若井
やっぱりオーケストラですね。
任天堂の東京制作部では
『マリオギャラクシー』(※7)などで実績もあって、
少し慣れてる部分はあるんですけど、
京都の情報開発本部でオーケストラを使うのは
今回がたぶん初めてだと思うんです。
岩田
『トワイライトプリンセス』でも
一部にオーケストラを使うことはありましたけど、
それも東京制作部の担当でしたからね。
若井
なので、そのへんのノウハウがぜんぜんないので、
かなりのチャレンジではありました。
岩田
東京制作部からは
アドバイスを受けたりしたんですか?
若井
はい。東京制作部には
オーケストラに詳しい横田(真人)さん(※8)がいますし、
さらにもうひとりのスタッフに加わってもらって、
オーケストラの収録関連の手配も含めて、
シネマシーンの曲のけっこうな部分を
東京制作部で担当してもらいました。
なので、京都の僕たちは、それ以外の
ゲームの音楽に専念することができたんですが、
そもそも、サウンドチームが10人になったというのは
そういう事情もあったんです。
※7
『マリオギャラクシー』=『スーパーマリオギャラクシー』。Wii用ソフトとして発売された3Dアクションゲーム。1作目は2007年11月、2作目『スーパーマリオギャラクシー 2』は2010年5月発売。
※8
横田真人=情報開発本部 東京制作部所属。『スーパーマリオギャラクシー』シリーズなどのサウンドを担当してきたほか、『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』ではオーケストラサウンドを担当。
岩田
シネマシーンの音楽がなければ、
少ないスタッフで進められたんですかね?
若井
はい。半分くらいで行けたんじゃないかと思います。
岩田
逆に言うと、シネマシーンにより
音楽スタッフが倍増したわけですよね。
でも、120分もの映像に音楽を付けるわけですから、
やっぱり大変ですよね。
若井
そうなんです。
それに、10人のサウンドスタッフが
最初からゼルダ専属だったわけではありませんでしたし、
ゲームに音楽を付けるだけでも手一杯だったのに、
終盤になってからシネマシーンが
どんどんつくられましたので・・・。
岩田
そこで人をガーッと増やしたんですね。
若井
そうなんです。
岩田
ところで青沼さん、
今回のオーケストラ録音は
どうしてすることになったんですか?
青沼
もともと僕はオーケストラでやるなんてことは、
これっぽっちも思っていなかったんです。
でも、2010年のE3(※9)のラウンドテーブル(合同取材会)で
宮本さんがメディアの記者さんからの
「ゼルダはオーケストラサウンドを使わないのか?」
という質問に対して
「ゼルダにはオーケストラが合っていると思うので、
そういうことも考えていこうと思っている」
とコメントされたんです。
で、日本に戻ったら、若井さんが興奮しながら、
「今回のBGM、オーケストラでやるんですか!?」
と言ってきたんですが
僕は「いや、ないと思うよ」と答えたんです。
若井
そうでしたね。
※9
2010年のE3=Electronic Entertainment Expo(エレクトロニック エンターテインメント エキスポ)の略で、年に1度、米国のロサンゼルスで開催されるコンピューターゲーム関連の見本市のこと。2010年のE3では、来場者が『スカイウォードソード』を初めて体験することができた。
青沼
オーケストラ収録は『トワイライトプリンセス』のときに
1曲だけ経験してるんですが、
いろいろ大変だったので、
開発期間的に見ても、それを全編でやるというのは
まずないなと思っていたんですが、
意外にも宮本さんから
「オーケストラでやればいいやん」
って言われて。
岩田
へえ〜、宮本さんから背中を押されたんですか。
青沼
そうなんです。
宮本さんから、『ゼルダ』みたいなゲームには、
そういうものが必要だという話があって。
藤林
あれは意外でしたよね。
青沼
本当に意外だった。
岩田
みんな「意外」って言ってますけど、
『マリオギャラクシー』でも使ったじゃないですか。
青沼
はい。
その『マリオギャラクシー』での手ごたえがあったので、
あの、迫力のあるサウンドが『ゼルダ』に乗っかると
絶対にいいものになるはずだ、と
宮本さんは考えたんでしょうね。
岩田
それに『トワイライトプリンセス』のときの
評判もよかったですしね。
青沼
そうですね。そういったことが
今回の、オーケストラにつながっていって、
実際に収録するときも立ち会ってもらったんですけど、
しみじみ言ってたんです。
「やっぱり『ゼルダ』にはオーケストラが合うなあ」と。
岩田
そうだったんですね(笑)。
で、そういうことが、
「ゼルダの伝説 25周年 シンフォニー オーケストラコンサート」(※10)
にまでつながってるんですね。
若井
そうだと思います。
※10
「ゼルダの伝説 25周年 シンフォニー オーケストラコンサート」=2011年10月10日に、すみだトリフォニーホール(東京)で開かれたオーケストラコンサート。演奏は東京フィルハーモニー交響楽団、指揮は竹本泰蔵さん。昼と夜の2回の公演があった。
岩田
そのコンサートでは
青沼さんもステージに立ちましたけど、
どんな手ごたえでしたか?
青沼
ものすごく盛り上がっていました。
しかも、『ゼルダ』の音楽を聴きながら、
泣いてくださる方がたくさんおられて・・・。
岩田
その話はわたしも聞きました。
青沼
僕はステージの横で聴いていたんですけど、
なんだかいままで感じたことのない、
心の特別な部分を突かれるような感じがあって、
オーケストラを聴いてるだけで
じんわりきてしまったんです。
そこにもってきてゲームのなかで経験したものが
いっぱい浮かんでくるみたいな・・・。
若井
近藤さん(※11)も「うるっときた」って言ってました。
なんかリハーサルの段階から涙が出てたみたいです(笑)。
※11
近藤浩治=任天堂情報開発本部制作部所属。これまで、『スーパーマリオ』シリーズや『ゼルダの伝説』シリーズなど、数多くの作曲を担当。
岩田
若井さんは、当日いらしてたんですか?
若井
はい。会場のみなさんの目が
すごくキラキラしていたのが印象的でしたね。
岩田
やっぱり音楽の力って大きいですよね。
藤林
本当にそう思います。
僕は会場には行けなかったんですけど、
「やっぱりオーケストラの力はすごい」と
身をもって感じたことがあるんです。
今年の2月くらいに、開発スタッフのみんなが
けっこう、つかれていた時期があったんです。
岩田
長い開発期間だと、
どうしてもそんな時期がありますよね。
藤林
もう、みんながパワーダウンしてしまって・・・。
そのタイミングを見計らったかのように、
サウンドチームが音響室を使って、
そのときにできあがっていたオーケストラサウンドの
試聴会を開いてくれたんです。
それをみんなで聴いたら、
全員のモチベーションがググンとアップしたんです。
岩田
元気百倍になったんですか。
藤林
はい。やる気が倍増しました。
若井
うれしい、狙いどおりです(笑)。
一同
(笑)
若井
じつはサウンド側から見ても、
スタッフのみんなが疲弊してきているのが
すごく感じられたんです。
そこで、モチベーションを高めるためにも
そういうイベントを開こうということになったんです。
藤林
僕たちはそれを聴いていて、
すごくうれしくなって。
岩田
で、一気にパワーアップですね(笑)。
藤林
はい(笑)。あの試聴会のおかげで、
その音楽に負けないゲームにしよう、という
最後のふんばりが生まれたように思います。
岩田
わかりました。
では最後に、みなさんからそれぞれ、
お客さんに「こういうところを見てください」
というメッセージをいただこうと思います。
サウンドの話の流れから、若井さん、お願いします。
若井
サウンドとしては、今回新たな試みとして
オーケストラを入れましたけども、
ところどころで歌うキャラクターがいて、
シネマシーンでも歌っていたりするんです。
岩田
またまたゴージャスなことをしましたね(笑)。
若井
はい(笑)。また、今回も
いろんなキャラクターが登場するんですけど、
それぞれのキャラクターごとに
テーマのサウンドがあって、
それをいろんなところで効果的に使うということを
演出としてやっていますので、
そのへんも楽しんでいただけたらと思います。
それからもうひとつ。
今回はWiiモーションプラスを使って
ハープを弾くことができるんですけど・・・。
岩田
前回、サウンドの水田(真人)さんも言ってましたけど、
ハープは歩きながら弾くことができるんですね。
若井
はい。走りながら弾くこともできます。
しかも、そのときに鳴ってるBGMに、
ちゃんと合わせて音が変わっていくので、
そのへんもお楽しみいただければと思います。