2. キャラクターに命を吹き込むために

岩田

家に1日こもって、
「箱書き」は完成したんですか?

藤林

それはもう集中して書きましたから。
まるで昔の小説家みたいに、
紙に書いては丸めてポイッ、
紙に書いては丸めてポイッ、みたいな状態で(笑)。
で、「これでいいだろう」と
自分で納得したものを会社に持って行ったんです。

岩田

藤林さん納得の「箱書き」を青沼さんに見せたら、
どのように言ってましたか?

藤林

ザッと目をとおして、ひとこと・・・
「うん、いいんじゃないか」と。

一同

(笑)

岩田

軽くあしらわれた感じだったんですか?(笑)

青沼

え、そんなに軽かった?

藤林

いえ、軽いというか・・・
ダメ出しがいろいろあるかと思っていたのですが、
納得してもらえた感じでした(笑)。

青沼

ちゃんとポイントが押さえられていましたからね。

藤林

なので、ホッとしたのを覚えてます。

岩田

ちなみに、青沼さんはその当時、
藤林さんがそれほど悩んでいたということを
どれくらいわかっていたんですか?

青沼

いや・・・まぁ、悩むというのは、
自分もそういうことを繰り返してきましたからね。
なので、僕がどうこう言うよりも、
今回は藤林さんが「こう思う」という
『ゼルダ』の形をつくってほしいと思っていたんです。
で、先ほどの話に出たような、
矛盾みたいなものがなければ
それでOKだと思っていました。

岩田

で、その「箱書き」にOKが出て、
そこで初めてシネマチームの森さんの
仕事がはじまるわけですね。

そうです。その箱書きをもとに
僕がセリフを書くことになっていましたので、
直接会って、打ち合わせをはじめたんです。
ところが、全部の話を聞いたあとには必ず
「・・・まだハッキリ決まってないんですけど」
という言葉が出るんです(笑)。

岩田

恐ろしい言葉ですね(笑)。

ええ(笑)。

岩田

シネマシーンをつくる人にとっては、
ハッキリ決まってないと
仕事がはじまりませんからね(笑)。
で、どうするんですか?
そうは言われても、スケジュールを考えると
手は動かさないといけないじゃないですか。

(困った表情で)そうなんです。

岩田

手を動かしても無駄になるかもしれないという、
恐怖と闘いながらつくるわけですよね。

それは、でも、まあ、あのう・・・。

岩田

慣れているとか?(笑)

ええ、まあ・・・そうです(笑)。

一同

(笑)

「そこ、変更になりました」
と言われたら、
「はい、わかりました」
と、素直に答えることもありますし、
まぁ、ときには“抵抗”するときもあるんですけど・・・。

藤林

“抵抗”じゃなくて、“相談”ですよね(笑)。

あ、はい、相談するときもあるんですけど。

岩田

あははは(笑)。

シナリオを書く立場で言うと、
箱書きのなかには、いろんなキャラクターが出てきて、
僕はその、それぞれの登場人物に対して・・・
ちょっと気取った言い方をすると、
命を吹き込む必要があるんですね。

岩田

「箱書き」という少ない情報から、
そのキャラクターのイメージを
自分のなかでふくらませたり、
熟成させたりするんですね。

そうです。

岩田

で、その「命を吹き込む」というのは
どうすればできるんですか?

シナリオを書くという仕事は
ゲームに限らず、小説でも映画でもアニメでも
何でも同じだと思うんですけど、
登場人物がそこに出てくるまでに
どういう人生を歩んできて、
どんなことを考えながら行動しているのか、
というような、その人物の背景にあるものを
自分なりに深めるようにしています。

岩田

なんだか、役者さんの発言のようにも聞こえますね(笑)。
つまり、ゲームには出てこないようなことも含めて、
そのキャラクターの“役づくり”を考えるんですね。

そうです。
そうすると、こういう状況のときは
この人はどういう気持ちになり、
状況が変わったときは、気持ちがどう変化し、
どのようなことを話そうとするのかが、
自分のなかから湧いてくるようになるんです。
ところが・・・。

岩田

はい?

「そこ、変更になりました」と言われると、
「え、こういうことをする人じゃなかったはずなのに・・・」と、
自分のなかで、すごく違和感を感じてしまうんです。

岩田

そんなときは、藤林さんに抵抗・・・
ではなく、相談するんですね(笑)。

はい、そうなんです(笑)。

岩田

で、そうやって森さんがシナリオを書いて、
そのあと、吉田さんにバトンが渡るんですね?

吉田

はい。わたしのほうでは、
森さんがつくったシナリオに対して
絵コンテを描いてもらうスタッフがいるので、
その人たちに、シナリオを説明して描いてもらったり、
その描いてもらった絵コンテを
今度は3Dのモデルを使って、
モーションデザイナーさんに
アニメーションを付けてもらいます。

岩田

紙に書かれたものが、
実際に動き出すことを担当していたんですね。

吉田

はい。

岩田

でも、いまの話を訊くと
とてもスムーズに仕事が進んでる感じですけど、
じつは激しいキャッチボールが
あったりするんですよね?(笑)

吉田

はい・・・じつはそのとおりです(笑)。
実際に絵になって動くようになると、
いい意味でも悪い意味でもいろんなことが見えてきますし、
すると「ここはこうじゃない、ああじゃない」と
いろんな人から言われるようになります。

岩田

文字や絵コンテでは気づかないことも、
ムービーとして実際に動くようになると、
みんながそれぞれに、好き勝手に意見を言うんですね。

吉田

そうなんです。それで、聞いた意見を
モーションをつくっているデザイナーさんに持ち帰ると、
そこでも「ああだ、こうだ」と言われるんです。

岩田

ああ、間にはさまれて大変です(笑)。

吉田

はい(笑)。

若井

で、そのあとにサウンドに来るので、
吉田さんはさらに大変なんです。

岩田

絵が動き出すと、今度は音を付けるんですね。

若井

はい。もらったムービーに音を付けると、
しばらくしてから吉田さんが、
「ごめんなさい、ここ変更になったんですけど」と
何度も言いに来ていたんです。
それこそ吉田さんのたくさんある仕事の
ひとつみたいな感じで(笑)。

岩田

「ごめんなさい」と言うのも
吉田さんの仕事だったんですか?

若井

はい(笑)。

岩田

で、若井さんのほうでも、
せっかくバチッと合わせたサウンドも
タイミングが変わるのでやりなおしなんですね。

若井

そうなんですよ。
でも・・・吉田さんが悪いわけじゃないんです。

吉田

いえ(笑)。

若井

いろいろ事情があって変わっているんですけど。

岩田

でも、吉田さんがとりあえず、
いったんは恨みを買うということですか(笑)。

若井

そうなんですよね(笑)。

でも、本当にいろいろと調整してくれて、
吉田さんがいなかったら
現場はぜんぜん回らなかったと思います。

吉田

(笑)