5. 「前の操作にはもう戻れない」

岩田

これまでの『ゼルダ』というのは、
アイテムの持ち替えがうまくできることが
上手にプレイできる資質のひとつだったように思うんです。

青沼

確かにそうですね。

岩田

ところが今回は、
その操作性がガラッと変わって、プレイの流れが
すごく自然につながる感じがありますよね。

青沼

そうですね。
Wiiリモコンプラスでアイテムを選んで、
その選んだ瞬間から、使うまでの動作がきれいにつながるので、
すごくシームレスに遊べるようになったと思います。

小林

今回はリンクを動かしながら、
アイテムが選択できるようになりましたし。

青沼

しかも、→走りながら
クスリが飲めたりする
んです。

岩田

え?

青沼

リンクが敵にやられそうになったとき、
ハートを回復させるために、ビンのなかに入った、
クスリを飲んだりしますよね。

岩田

ええ。

青沼

そのシーンは、前作までは
デモ的にゲームを止めていたんですが、
今回はシームレスになっているので、
たとえばボス戦でやられそうになったとき、
ひたすら逃げながら、クスリをゴクゴク飲んで
体力を回復することもできるんです。

藤林

ちょっとお行儀が悪いんですけどね(笑)。

青沼

確かに(笑)。

岩田

ちなみに、宮本さんが、
「前の操作にはもう戻れない」っていうことを、
先日も言ってました。

青沼

そう、おっしゃってますね。

岩田

でも、世の中の、圧倒的多数のお客さんにとっては、
Wiiモーションプラスでの新しいチャレンジで、
操作性がすっかり変わってしまうというのは、
やっぱり不安を感じられることもあるかと思うんです。

青沼

そうでしょうね。

岩田

そのように不安に感じている方たちに、
つくり手として、田中さんは何と言いますか?

田中

僕は、「ボタン操作がちょっと苦手だ」という人にも、
今回は「これだったらできるかな」と感じていただけるかなと。
というのも、いままでのコントローラだと、
自分とゲーム世界との間に距離を感じる方もいたと思うんですけど、
今回は「こうしたい」と思ったことが、
Wiiモーションプラスを使うことで
リンクの動きにそのまま反映されますので、
よりあの世界に近づくことができると思います。
なので、まずは触ってくださいと言いたいですね。

岩田

小林さんはどうです?

小林

僕は『Wiiスポーツ』の開発にもかかわっていて、
自分が担当したゲームではないんですけど、
「テニス」では、フォアハンドとバックハンドの
打ち分けができるようになっていましたよね。

岩田

右からでも左からでも、自分の思いのままに
ラケットを振れるようになりました。

小林

はい。その操作に慣れてしまったあとで、
たまたまほかのテニスゲームを触る機会があったんです。
すると、「おっ、ラケットがボタンなんや」と(笑)。

岩田

ボタン操作であること自体が不思議に感じたんですね。

小林

そうなんです。
それに、今作をつくりながら、
仕様とかを確認するために
『風のタクト』を触ってみたりしたんですけど、
好きな角度で剣を振ろうとしても、それができなくて・・・。
だから「もう戻れない」と思いました。

藤林

僕も同じです。
ただ、新しい操作性なので、最初の10分、15分は
違和感を覚える方もいらっしゃると思うんです。

岩田

やはり、いままでとは
遊び方が違うわけですからね。

藤林

でも、次第に慣れてきて、
気がついたときは、ボタン操作のゲームに対して
違和感を覚えるようになるんじゃないかと思いますね。

岩田

青沼さんはどうですか?

青沼

今回のWiiモーションプラス、
あるいはWiiリモコンプラスなんですけど、
自分にとっては、それが
完全に“道具”になったと感じているんです。
ふつうのコントローラだと、
それを渡されて、あれを押しなさい、
これを押しなさいと決められていて、
たとえばコマンドを覚えるような格闘ゲームは、
じつは僕、すごく苦手だったりするんです。

岩田

弱いんですか?(笑)

青沼

はい、弱いです(笑)。
ぜんぜんコマンドを覚えられないんです。
でも、今回の『ゼルダ』とWiiモーションプラスの相性は
ものすごくよくって、振ったり、傾けたり、
ひねったりするだけで、
いろんなアクションができるようになっているので、
何も覚える必要がないんです。
なので、新しい“道具”を渡されたと思って、
とにかく振ってみてほしいですね。

岩田

それって、だんだん筆が上手に使えるようになるとか、
だんだん彫刻刀が上手に使えるようになるとか、
そういうものと、きっと同じ種類なんでしょうね。

青沼

そう、同じなんです。
楽器とかも同じかもしれません。
使っているうちに、身体がだんだんなじんできて、
次第に使いこなせるようになっていくと思います。

藤林

宮本さんも言ってましたけど、
「身体が覚える」という感じがあるんですよね。

青沼

そう、身体が覚えてしまうんです。
なので「前にはもう戻れないな」というのは、
もうどうしたってそうなんだろうなと思います。
それに、ゲームショウとかで遊んでくれている人の姿を見ると、
人それぞれに遊び方が違っているのが面白いなと思っていて。

岩田

自由に扱える“道具”なので、
その扱い方に個性が出るんですね。

青沼

そうです。身体を大きく動かしながら
Wiiリモコンプラスを振り回している人もいれば、
腰のあたりで、チョイッチョイッと小さく動かすだけで
操作している人もいて、面白いなと思いました。

岩田

Wiiリモコンプラスは、
あまり動かさなくても操作できるんですよね。

青沼

そうです。なので、疲れを感じてきたら、
力を抜いて、楽な動きで遊んでいただきたいですね。

岩田

さて、開発から5年経ちましたけど、
こんなに長い期間続けられたのは
どうしてだと思いますか?

藤林

先ほども言いましたけど、
アイテム選択のシステムができて、
宮本さんに納得してもらえたときに
ひとつの大きな山を登れたような
とても大きな達成感がありましたので、
「次はこの山だ」という思いで続けられたんだと思います。

田中

あのときは、本当にテンションもあがって、
「やれるぞ」という気持ちになれましたからね。

岩田

なにせ、ハイタッチしたくらいですから(笑)。

青沼

ええ(笑)。
それに、あのアイテム選択のシステムができたとき、
みんなでめざすべき方向が、きっとわかったんですよ。
今回は新しいアイテムはそんなに出てこないんですけど、
1個1個のアイテムやシステムを
どこまで面白くできるかということで、
「しっかり磨けばいいものになるんだ」という気持ちに
スタッフみんながなれたんだと思うんです。

藤林・小林・田中

(そろってうなずく)

岩田

その結果、“ネタ密度満載”の
『ゼルダ』に仕上がったということなんですね。

青沼

そう思います。

藤林

実際つくっていて、すごく面白かったですしね。

小林

やっぱりお客さんに楽しんでほしいと思って、
毎日つくっていましたから。

田中

なので、よく口癖のように
「また1個、面白くなった」と言ってましたよね。

小林

「またお客さんに遊んでもらえるものが1個できた」って。

岩田

ああ、そうなんですね。
「また1個、面白くなった」というものが
たぶん何百個も積み重なって、
薄い薄い紙が、何百枚も積み重なって、
この分厚さになりました、みたいな感じなんですね。

青沼

そうです。まあ今回は、
たっぷり開発の時間をいただきましたし(笑)。

藤林

新しいものをつくるだけでなく、
調整する時間もたっぷりありましたしね。

青沼

なので時間を無駄に使わなかったと思います。

岩田

でも、当初は「春には終わる」とか言ってましたよね(笑)。

青沼

あ、はい(笑)。

藤林

この社長が訊く『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』は
これから何回か続く予定なんですよね。

岩田

はい。

藤林

開発スケジュールで悩んだ
「社長が訊く」を行う予定はないんですか?

岩田

「社長が訊く『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』
開発スケジュールで悩んだ篇」ですか?(笑)

藤林

そうですそうです(笑)。

青沼

え?イヤだ。その回は出たくない、おれ(笑)。

一同

(笑)

岩田

みなさん、お疲れさまでした。

一同

ありがとうございました。