岩田
今回初めて登場した新しいアイテムについても
紹介してもらえますか?
青沼
たとえばカブトムシのかたちをして
飛んでいく「ビートル」はそのひとつです。
岩田
あれは、虫型ロボット・・・
とでも言ったらいいでしょうか。
青沼
ええ、そう呼んでいます。
でもあれ、最初はブーメランだったんです。
岩田
え? ブーメランがカブトムシになったんですか?
青沼
はい(笑)。
藤林
最初はブーメランがくるくるまわりながら、
ブーンと飛んでたんです。
青沼
「Wiiリモコンプラスを傾けて、
好きなように飛ばせると楽しいんじゃない?」
とか言って、実験をしていたんですけど、
「それってよく考えたらブーメランじゃないよね」
という話になって(笑)。
岩田
確かに(笑)。
青沼
しかも、カメラも付いていくんですね。
そこで、その機能にふさわしいアイテムを、ということで
考えたのが、ロケットパンチです(笑)。
岩田
ブーメランがいきなりロケットパンチ、ですか(笑)。
小林
はい(笑)。そのとき、
モノをつかむ機能も付いていたんです。
なので「手のようなものを飛ばすといい」
ということになったんです。
藤林
最終的にビートルになりましたけど、
それを腕から飛ばすようになっているのは、
じつはロケットパンチの名残だったりするんです。
岩田
なるほど(笑)。
藤林
ただビートルは、リンクのいる場所から
どんどん先のほうまで飛ぶことができますので、
「やっかいなことになるだろうな・・・」と。
岩田
ゲームシステムを著しく壊してしまうんですね。
藤林
そうなんです。その時点で行ってはいけない、
見てはいけないものを、先に知ることになりますし。
それは最初からわかっていたんですけど・・・。
小林
なので、地形スタッフからは、
ずーっと文句を言われてましたよね(笑)。
藤林
そう、怒られまくっていたんですが、
怒りつつもスタッフが頑張ってくれて、結果的に
とても使い勝手のいいアイテムになったと思います。
岩田
ただ、「『ゼルダ』の世界に、
なぜビートルのような文明的なカラクリが存在するのか?」
とか考えだすと、ちょっと不思議な感じがしますよね。
青沼
でも、このようなカラクリが出てきたからこそ、
そこをふくらませていって、
今作の古代文明みたいな設定が生まれてきたんです。
小林
そうですね。
青沼
なので「発達した古代文明があった」という設定は、
じつは最初から考えていたわけではないんです。
だってロケットパンチなんですから(笑)。
岩田
あははは(笑)。
じゃあ、ロケットパンチを考えなかったら、
古代文明という設定は
なかったかもしれないんですか?
青沼
違うものになっている可能性はありますね。
岩田
へえ〜。じゃあ、この章の見出しは
「ロケットパンチが生んだ古代文明」ですね(笑)。
一同
(笑)
藤林
でも、まさにそうで、
古代文明という設定が生まれることで、
「この人はロボットにしようか」とか、
「ここは古代遺跡にしよう」とか、
お話をどんどんふくらませることができたんです。
岩田
確かに『ゼルダ』というのは
先にお話ありきでつくるものではないですからね。
はじめにストーリーを考えて、
設定を考えて、企画書を書くというのと
真逆のゲームづくりなんですよね。
もちろん、どっちもありなんですけどね、世の中は。
藤林
そうですね。
ただ、『ゼルダ』のようなつくり方は
パズルを解くような感じで、すごく楽しいんです。
田中
そうなんですよね。
岩田
みなさん、そういうことが好きなんですよね。
“身体をねじって着地する”みたいなことが(笑)。
青沼
ああ、なるほど。
ぶかっこうに身体がねじれてても、
ピタッときれいに着地できると
すごく気持ちいいですからね(笑)。
藤林
確かにそうですよね。
あと、「まほうのツボ」も
3Dの『ゼルダ』では初登場のアイテムです。
岩田
ああ、いろんなものを吹き飛ばす「まほうのツボ」ですね。
あれはどうやって生まれたんですか?
青沼
あれは藤林さんが昔、
『ふしぎのぼうし』(※11)をつくったときに
初めて登場したアイテムなんです。
※11
『ふしぎのぼうし』=『ゼルダの伝説 ふしぎのぼうし』。2004年11月に、ゲームボーイアドバンス用ソフトとして発売された、アクションアドベンチャーゲーム。
藤林
何でもできるんですよ、まほうのツボって。
僕、まほうのツボが大好きなんです(笑)。
岩田
確かに「困ったときは、まほうのツボ」
みたいに使えそうですしね。
藤林
「こんなこともできるんだよ。
だって、まほうのツボだもん」と言えますので。
岩田
(笑)
藤林
やっぱり摩訶不思議なものがあると楽しいですし、
いろんなことができる器を
はじめから用意しておいたほうがいいだろうと。
青沼
なので、まほうのツボは、
いろんなものを「吹き飛ばす」ことができるんですけど、
最初は「吸い込む」こともできたんです。
小林
ああ、そんな実験もやってましたね。
藤林
吸ったり吐いたりする、まほうのツボだったんです。
小林
で、ホースの水勢を調整するような感じで、
ツボの口を絞ることもできたんです。
なので、ツボの口をひねると、
遠くのほうまで吹くことができたんですけど・・・。
田中
リンクの背中から見ると、
ツボの口がまったく見えないので、
「どうなってるのか、よくわからん」と(笑)。
青沼
まったく見えないんです(笑)。
そこで「吹く」だけにして、
それでも十分いろんなことができることがわかったんです。
そこで、モノが吹き飛んでいく手ごたえを
どんどん磨いていこうという方向に絞り込んでからは、
すごくいいアイテムになったと思いますね。
藤林
あとムチもありますよね。
青沼
そうそう、ムチね。
2010年のE3(※12)のときに
岩田さんから「ムチ、いいですよね」と言われて。
藤林
あのひとことで決まりましたね。
青沼
そう。あのひとことで
ムチをどんどん磨いていくことになりましたから。
岩田
え、わたしのひとことでそうなったんですか?
藤林
そうなんです。
もちろんムチは『大地の汽笛』(※13)にも
出てきたアイテムなので以前からつくっていたんですが、
正式に採用するべきか迷っていたんです。
で、E3前に岩田さんに、
開発中のものを見ていただける機会があったので、
「せっかくだから、ムチも見られるようにしておこう」
という話になって、そしたらものすごく反応がよくって・・・。
※12
2010年のE3=Electronic Entertainment Expo(エレクトロニック エンターテインメント エキスポ)の略で、年に1度、米国のロサンゼルスで開催されるコンピューターゲーム関連の見本市のこと。2010年のE3では、来場者が『スカイウォードソード』を初めて体験することができた。
※13
『大地の汽笛』=『ゼルダの伝説 大地の汽笛』。ニンテンドーDS用ソフトとして、2009年12月に発売されたペンアクションアドベンチャーゲーム。
岩田
だって、うれしかったんですよ(笑)。
田中
じつはあのE3まで、ムチって、
そんなにフィーチャーされてなかったんです。
小林
生まれたてのアイテムでしたし。
岩田
そしたら妙に食いついた人がいたと(笑)。
青沼
そうですそうです(笑)。
なので「これはやるしかないな」と。
藤林
「これはかなりいけそうだ」と、手ごたえを感じ
そこからムチを本格的につくりはじめたんです。
田中
それで、Wiiリモコンプラスを振ると、
モノを引っ張ったりできるようになりましたし。
青沼
敵からカギを奪うとか、
そういうこともできるようになりましたしね。
小林
あ、そうなんですけど・・・。
青沼
え?
小林
それって、ネタバレ・・・大丈夫ですか?
青沼
うん、大丈夫。
だって、最初に岩田さんが言ったように、
今回の『ゼルダ』は、「ネタ密度が濃い」から。
小林
確かにそうですね(笑)。