岩田
でもプロではないから、
「さあ、叫べ!」って言われても、
スイッチを切り替えないとできないですよね。
正岡
何回かやっていると慣れてくるんですが、
初めて米さんに、「さあ叫んで!」って言われたとき、
どうしうようかと思いました。
米
(笑)
岩田
仕事で叫ぶことはありませんからね。
正岡
はい。プログラマーの仕事で
声がかれることはなかったので(笑)。
竹内
「だいスキRAP」っていうゲームがあるんですけど、
けっこうがんばって、ぼくが渾身の声をあてていたんです。
でもつんく♂さんに見せたとき
「ハネてない!」って言われてしまいました。
つんく♂
そう、ハネていれば(机を叩きながら)
「♪タッカタッカ、タッカタッカ」なのに、
「♪タカタカタカタカ」になってた。
飯田
“ハネている”というのは、
「♪だ、い、す、き、だ、い、す、き」が
「♪だっい、すっき、だっい、すっき」ってなることで、
そうは、なってなかったんです。
竹内
・・・すっごい遅くまで、残業してやったんですけど。
正岡
「竹内さん、もう1回いきましょうか」って(笑)。
米
最終的には、全部差し替えられたけどね・・・。
竹内
そうそうそう(笑)。
岩田
つんく♂さんの、ゲームの軸に関する出口に、
妥協がありませんから。
つんく♂
そこがなくなったら、ただ奇抜なだけのゲームになりますからね。
たとえかけ声の「大好き」ひとつでもリズムがなくなると、
『リズム天国』のよさがなくなってしまいますから。
岩田
だから、どんなに竹内さんが夜中までがんばろうと、
ハネてなければ不採用なんですね。
つんく♂
でもね・・・もし徹夜までしてやってたってことを知っていたら、
「うーん・・・オッケー・・・?」ってなるかもしれないんです(笑)。
でもそこは、東京と京都という距離があるから、
やりとりする情報量もある種シビアで、
「これ、ハネてないですよ」
ってひとことで終わらせるときもあるんです。
それができる薄情さも、ある種のよさかもしれないです。
竹内
ですから・・・
「次の打ち合わせ、おっかねー!」
と思ってました(笑)。
一同
(爆笑)
岩田
でも、竹内さんにうらみがあるわけじゃないですから・・・。
竹内
そうですけどね・・・。
つんく♂
うらみがあったら面白いけどな(笑)。
竹内
いやいやいやいやいや、なんで!(笑)
鎌田
一撃でしたからねえ、あのとき。
声を聞かれた瞬間に、つんく♂さん、ちょっと機嫌悪くなって、
「ハネてへんやろ、これ!」って(笑)。
竹内
すっげー、こえーー!(笑)
鎌田
でも確かに、ハネてなかった・・・。
竹内
だから打ち合わせ中、下向いてたじゃない・・・。
つんく♂
ははは!
岩田
でもリズム論の話って、頭でわかるよりも、
音楽にノってリズムを刻んだときのほうがわかるのは、
多くの人が感じていることじゃないですかね。
それは、このプロジェクトにかかわった人が
全員、理解することのような気がするんです。
正岡
そうですね。
つんく♂さんが「こうじゃない」っていうときに、
机を「トントントン」と叩かれるんですね。
その音とか、足のステップの音を聴いて、
「ここなんだ」っていうのがスッと入ってくる感じなんです。
岩田
それから途中でリズムを切り替える「リミックス」も、
『リズム天国』独自の価値のように感じます。
ああいう“ノリを切り替える感じ”は、
慣れていない人と、自分のものにする人とには、
どんな差があるんですか?
つんく♂
リミックスが登場するまでの1、2、3、4を
やっておくと、ちゃんと理解できるようになります。
まあ、4つやってできない人がいるとしたら、
ただ何となくあわせてクリアしてるだけなので、
立ち上がって、しっかりリズムを刻んでください。
岩田
座ってるより、立ったほうがうまくいくって、
どうしてなんでしょうか?
つんく♂
手だけでゲームをするんじゃなくて、
体で、胸でリズムをとったほうがいいからです。
岩田
胸でとるんですか。
つんく♂
はい。あと膝、足でとって。
音楽をするときは、スポーツやダンスと同じで、
かかとをつけないんですよ。
そうやってプレイすると、
格段にゲームやギターはうまくなるんです。
感覚でいうと、テニスのボレーを受けるときの感じで、
かかとをベターッとつけて待ってるとボレーはできないでしょ?
サッカーのキーパーも同じで、飛んでくるボールを待ちかまえるときは
つまさき重心になっていると思うんですよ。
このゲームは、その感覚でやったほうが絶対にいいんです。
早く反応できるというか。
だから立ってゲームをしたほうが、
その状態に近づけるからいいんです。
岩田
はあーー。
「手で刻むじゃなくて胸で刻む」という言葉は、
リズムのことを考えている人じゃないと出てこないですね。
立ってプレイする人って任天堂にいますか?
正岡
さすがに会社では自重して立つ人はいなかったですけど、
やたらと足でステップする音は聞こえました。
米
立ちたいけど(笑)。
岩田
ところで、開発中にピンチだと感じたことはありますか?
正岡
途中、ゲームとしての数はそろってきたけど、
「これをどうしよう・・・」っていう時期がありました。
米
ぼくは「リミックス」ができる前の状態です。
岩田
「どの4つを組み合わせてひとつのリミックスにするか?」
についてはパズルっぽいんですけど、どうやって決まるんですか?
米
つんく♂さんから曲をいただいて、いろいろ試します。
とくに歌もので「決まったー!」ってものがあると、
インパクト絶大で気持ちよくなります。
だからリミックスが固まるまでがいちばん、
悩んでいた気はします。
岩田
では、パズルのピースがはまる場所を
探す部分で試行錯誤があったんですね。
つんく♂
ぼくはどれぐらいの難易度にするべきかを
いちばん迷ったような気がします。
ある程度、DS版をやった人たちは
ハイレベルなものを求めるだろうから、
初めからそこそこのレベルにするべきか、
初心者から始められるものにするべきか、
簡単、ミディアム、ハードの基準をずっと迷っていました。
岩田
誰かが基準を決めないといけないですからね。
つんく♂
でも、いろいろやっているうちに、
途中から「難しすぎるんちゃうかなあ・・・」
っていう恐さが出てきたんです。
だから新人の社員とか女性スタッフとか
20代半ばから50歳ぐらいまで、
いろんな年齢層の人たちに、何も言わずに
「とりあえずやってくれ!」ってやらせてみたんです。
そしたらですね・・・意外にできないんです。
ゲームを普段さわらないスタッフもいるんで、
「え、ボタンはどれとどれを使うんですか?」
ってところから入る人も多いんです。
なので自分の中でその基準が見えるまでは時間がかかりました。
米
それで「ここまで簡単にしたらできるだろう」と思って
つんく♂さんのところの新人さんにチェックしてもらうとき、
ぼくらはすごく緊張しているんですね。
「うまくやってくれーーっ!」て。
「これ、つまずかれたらどうしよう・・・」
っていう緊張感がありました(笑)。
岩田
普通、みんなに見られている人のほうが
緊張しているはずなのに、
後ろで見ている人が緊張しているのは面白いですね(笑)。
ちなみに・・・ゲームをあまりしてない人を
連れてきてパッとさわらせてみる方法は、
自然とつんく♂さんの中から出てきたんですか?
つんく♂
そうですね。
岩田
じつは『スーパーマリオ』をつくった宮本さんと、
そのやり方はまったく同じなんですよね。
つんく♂さんが自然とそうされていて、しかも、
行き着いているポイントもやり口もまったく同じだから、
わたしはいま、ちょっとびっくりしました。
つんく♂
へえー。
岩田
つんく♂さんと3回も仕事をさせてもらって、
述べ期間、もう丸6〜7年くらいになりますよね。
で、いまこういうふうにものができていく、
というのは、まさに不思議なご縁だと思うんです。
つんく♂
本当にそう思います。
岩田
今度は、いろんな家のテレビの前が笑いに包まれて、
いままで以上に面白さがうまく伝わるとうれしいですね。