6. 『お前たち、ついてるぞー!』

岩田

先ほど、前作とは同じ種目はできるだけ避けたい、
そんな話もしてましたけど、
同じ種目がいくつか入ってますよね。

嶋村

「ボウリング」と「ゴルフ」ですね。

ボウリング、ゴルフ

岩田

どうして同じ種目を入れることにしたんですか?

嶋村

前作の「ボウリング」には
100本のピンを倒すゲームがありまして。

岩田

トレーニングモードのところに入っていて、
前作では確か、最終ステージの1投しか投げられませんでしたよね。

嶋村

そうなんです。そこで、
今作では2投目が投げられるだけでなく
独立したモードとして
→10フレームをちゃんと遊べるようにしました。
通常のゲームだと最高得点は300点ですけど・・・。

山下

3000点なんです(笑)、
100ピンゲームの最高得点は。

嶋村

すごく熱くなって遊べると思います。

山下

あと、一体感がすごく増したと思いますね。

岩田

一体感というと?

嶋村

前作の話をすると、
ボールを持ってBボタンを押すと、
勝手にMiiが歩いていき、
プレイする人はそのMiiの動きに合わせて、
ボールを振るようになっていたんです。
でも今作では、Bボタンを押しても、
プレイヤーが動き出すまで、Miiも動かないんですね。

岩田

それは、ボールを持った人の動きも
検出できるからなんですね。

嶋村

そうなんです。だから
ボールを持ち上げたら、Miiもちゃんと持ち上げますし
ボールを下ろせばちゃんと下ろすと。

岩田

それで一体感が増したということなんですね。

嶋村

それに、今回は操作をよりカンタンにしたいと考えて、
Bボタンを押したまま振るだけで遊べる操作も作りました。
そういったところは、前作をやって
今作の「ボウリング」をプレイしていただくと、
大きな違いを感じていただけると思います。
それは「ゴルフ」も同じだと思いますけど。

山下

今度の「ゴルフ」は、慣れてくると
素振りをしないと言ってましたね、うまい人は。

岩田

素振りをしないというのは?

山下

スタッフが言ってたんですけど、
素振りをしなくても、感覚がだいたいわかるので、
一発目で打っても、だいたい思ったところに飛んでいくと。

嶋村

だから再現性はアップしてますね、確実に。
不確定要素が少なくなったと思います。

岩田

結局、「ゴルフ」って、初代のファミコンゴルフ以来、
ずーっと、ショットメーターを凝視するゲームだったんですよね。
「素振りをする」というのは、
素振りをしてみて、ショットメーターを見てたわけです。
ところが、今回は、ショットメーターを凝視せずに
自分のスイング感覚で楽しめる、
つまり、本物のゴルフに近い感覚が
今作では楽しめるようになったということなんですね。
ちなみに「ゴルフ」は、どうして入れることにしたんですか?

嶋村

それは宮本さんが
2008年のE3から帰ってきたときに・・・。

宮本

え、そうやったっけ?

一同

(笑)

嶋村

帰国して早々、いきなり
「『ゴルフ』をやることになったから」と言うんです。
「今度の『ゴルフ』はバックスイングでやります」と
インタビューに答えてきちゃったと言うんですね。
その頃はまだ、「ゴルフ」は影も形もなかったのに(笑)。

岩田

よく使う手ですね(笑)。

宮本

はい。逃げ場をふさいじゃうんですね。

岩田

わたしも宮本さんほどではありませんが、
その手はたまに使うことはあります。

一同

(笑)

宮本

「ゴルフ」はやっぱり、
バックスイングができるのがすごく魅力だったんです。
前作ではスイングスピードで・・・。

岩田

Wiiリモコンを振るスピードだけで
すべてを見ようとしたんですね。

宮本

でも、思いっきり振ったら体によくないですし、
適当な速度でしか遊べないというのが
ちょっとストレスだったんですけど、
今度は→大きなバックスイングをすると、
“強い球”という判断がとれる
ので、
なんとか実現したいと思ったんですね。

嶋村

それで、宮本さんがインタビューに答えたからには、
これはもう、つくるしかないと・・・。

宮本

しかも18ホールになった。

嶋村

それは“18ホール事件”があったから(笑)。

岩田

18ホール事件? 何ですか、それ(笑)。

嶋村

もともとは『Wiiスポーツ』と同じく
9ホールで行くつもりだったんです。
ハーフコースの予定でつくっていたら、
プロデューサーの江口(勝也)さんがやってきて、
「宮本さんと岩田さんが話をしていたよ」と言うんです。
「何をですか?」と訊いたら、
「やっぱりゴルフは18ホールだよね」と。
ホントかなあとは思ったんですけど・・・。

岩田

それもよく使う手ですね(笑)。

一同

(笑)

山下

その事件は、いつ頃でしたっけ?

嶋村

2008年の年末です。

岩田

もう仕上げないといけない時期なのに。

宮本

もともとはクリスマスに出す予定でしたからね。

嶋村

でも、ほとんど同時に
「時間が少しできるかもしれない」という話がありまして。

宮本

圧力なべで煮込んでる間に
時間に余裕ができたんですね(笑)。

嶋村

圧力なべ・・・?

山下

何なんですか、それ?

岩田

前回の「社長が訊く」を読めばわかります(笑)。
ハード担当の人たちが
コネクタをフローティング構造にしたり、
鉄のツメにしたり、圧力なべで煮たりと
ジャイロセンサーと悪戦苦闘しているうちに
発売予定が延びてしまったんですね。

嶋村

もともとはクリスマスに間に合わせるためにも
9ホールの予定でつくっていたんですけど、
時間もできたことですし、
やりくりして18ホールにしたんです。
そしたら、スタッフの評判がすごくいいんですね。
そもそも18ホールでパー72というのは
ゴルフをやる方だったら常識で、
だからこそ回ったあとのスコアに
すごくリアリティがあるそうなんです。

岩田

Wiiモーションプラスの開発が延びたことで
思わぬ副産物も生まれたということですね。
ところで、発売まで時間的な余裕ができたとき
宮本さんはどんなことを考えたんですか?

宮本

それはもう、本当にクリスマスに出すつもりで
仕様もかなり絞ってつくってたんですけど、
幸いなことに・・・。

岩田

幸いなことに・・・?
経営的には決してそうではないんですけど(笑)。

宮本

そうですよね。
そこで、営業さんに挨拶に行くと、
「待ちましょう」と言ってもらえたので、安心して
普通はそのまま自分の席に戻るところなんです。

岩田

でも、今回は戻らなかったんですね。

宮本

はい。開発スタッフの部屋に行きまして・・・。

岩田

どうしたんですか?

宮本

(大きな声で)「お前たち、ついてるぞー!」と。

一同

(笑)

岩田

うれしそうに叫んだんですね(笑)。

宮本

叫びましたねえ(笑)。
Wiiモーションプラスの開発の遅れでできた時間は、
「みんなにとって“吉”なんや」と思ったんです。
状況や環境の変化に敏感に対応することは
ソフトづくりではすごく大事なことだと思ってましたしね。