1. Wiiモーションプラスで寸止めも

岩田

今日は、Wiiモーションプラス編に続き、
『Wiiスポーツ リゾート』の開発スタッフに
集まってもらいました。
まず、このソフトでどんなことを担当しているのか、
それと『Wiiスポーツ リゾート』の前に
何をつくっていたのかを話してもらえますか。

佐藤

情報開発本部 制作部の佐藤賢太です。
今回はゲームのプログラムを担当しました。
担当した種目は「チャンバラ」と「ピンポン」です。
前作の『Wiiスポーツ』(※1)では、
「テニス」のプログラムを担当しました。

※1

『Wiiスポーツ』=「テニス」「ゴルフ」「ボウリング」「ベースボール」「ボクシング」の5種目を収録したスポーツゲーム。2006年12月、Wii本体と同時発売。

岩田

前作の『Wiiスポーツ』と
今作の間はどんなことをやってたんですか?
けっこう時間がありましたよね。

佐藤

『Wii Fit』を担当していました。
そのなかに「ジョギング」(※2)という種目がありまして・・・。

※2

「ジョギング」=『Wii Fit』のトレーニングの中の1つ。Wiiリモコンを手に持ったり、ポケットに入れた状態にしてその場でジョギングする。

「ジョギング」

岩田

ああ、あれも佐藤さんのプログラムだったんですね。
それでは堂田さん。

堂田

制作部の堂田(どうた)卓宏です。
僕も佐藤さんと同じく、プログラマーで、
前作の『Wiiスポーツ』では「ボクシング」を担当していました。

岩田

「ボクシング」はすごい短い時間で
よくまとめられましたね。

堂田

当時、岩田さんから
「本当に間に合うんですか?」と訊かれましたね(笑)。

岩田

「がんばります」と答えてくれました(笑)。

山下

あれは、ホントに危なかったです。

堂田

最後までみんな、ハラハラしてましたし。

一同

(笑)

堂田

で、前作の『Wiiスポーツ』のあと、
Wiiのソフトのいろんな実験をしながら、
『Wii Fit』や『マリオカートWii』を
ちょっと手伝ったりしてました。

岩田

はい。次は嶋村さん。

嶋村

制作部の嶋村隆行です。
前作の『Wiiスポーツ』では、全体のディレクションと
「ゴルフ」「ボウリング」を担当しました。
それが終わってから、4ヶ月間ほど
企画開発本部に異動しまして・・・。

岩田

短期社内留学をしたんですよね。

嶋村

はい(笑)。企画開発本部では、
『見る力を実践で鍛える DS眼力トレーニング』(※3)
ディレクションを担当しました。
そのあと情報開発本部に戻って
太田(敬三)さんといっしょに・・・。
太田さんは、「Wiiモーションプラス編」に参加されたんですよね。

※3

『見る力を実践で鍛える DS眼力トレーニング』=2007年5月に発売されたニンテンドーDS用ソフト。

岩田

はい。クセのあるジャイロセンサーと
悪戦苦闘した話をたっぷり訊かせてもらいました。

嶋村

わたしはその太田さんといっしょに
新作ソフトのための実験をしていて、
その流れで、今回の開発に参加することになりました。

岩田

それでは最後に山下さん。

山下

同じく制作部の山下善一です。
『Wiiスポーツ』では「ベースボール」と「ボクシング」を担当しました。
それが終わった後はしばらくのんびりしていて、
その後に「Miiコンテストチャンネル」を担当して、
2008年の3月頃に『リゾート』の開発に関わるようになりました。

岩田

ではまず初めに、みなさんから訊きたいのは
Wiiモーションプラスの印象です。
新しいデバイスの構想の話を聞いたとき、
最初にどう思いましたか?

佐藤

もともと僕は、
Wiiリモコンを使ったタイトルの
実験に関わることがとても多くて・・・。

岩田

いろんな実験をしていたからこそ、
『Wii Fit』チームに呼ばれて
「ジョギング」をつくることになったんですよね。(※4)
宮本さん、けっこう強引でしたけど、
あれは、『Wii Fit』に入れて良かったですよ。

※4

詳しくは社長が訊くWiiFit Vol.1「→いろいろなアイデアが活かされたトレーニング」を参照ください

佐藤

ただ、いろんな実験を進めていくなかで
加速度センサーの限界を感じるようになったというか、
本当はこんなふうに動かしたいのにと思っても
センサーが拾ってくれないということもあって。

岩田

どう動いたのか、回転したのか、
加速度センサーだけだと
たしかに限界がありますからね。

佐藤

ですから、新しいセンサーの話を聞いたとき、
すごく期待しました。
それを使えばいままでできなかったことも
ぜんぶ可能になるんじゃないかと。

岩田

なるほど。堂田さんは?

堂田

僕も佐藤さんと同じく、
Wiiリモコンを使って
ゲームに使えるような動きをいろいろ試していて、
やれそうなことはある程度やり尽くした感があったところに、
ジャイロセンサーの話を聞いたので
また新しいことができそうだなと思いました。

岩田

嶋村さんはどうでしたか?

嶋村

前作の「ゴルフ」をつくったとき、
宮本さんから「力任せに振るのは面白くない」とか
ずっと言われ続けていたんですね。
ですからWiiモーションプラスの構想の話を聞いたとき、
そのようなお題も
カンタンにクリアできるんだろうなと思いました。

岩田

山下さんは?

山下

わたしも、この話を最初に聞いたとき、
純粋に期待感がありましたね。
そのときはどんなことができるようになるのか
よく知らなかったんですけど、
すごくワクワクしたことを覚えています。

岩田

で、実際にWiiモーションプラスが手元にやってきて、
実際に触りはじめたとき、どんなことを考えましたか?
Wiiリモコンのプログラムにずっと関わってきた
プログラマーの2人に訊きましょうか。

佐藤

そうですね・・・。
ちょっと期待が大きすぎたのかもしれないんですけど(笑)。

岩田

いいな、正直で。

一同

(笑)

佐藤

やっぱり開発中のハードでしたから、
最初のころはいろんな問題をたくさんかかえていて、
「これは本当に大丈夫なの?」というのが
正直な感想でしたね。

岩田

開発当初は、センシングできる幅が狭かったり
遅い動きを検出できなかったりと、
いろんな問題を抱えていましたからね。
堂田さんはどうでしたか?

堂田

僕も佐藤さんと同じような印象を持ったんですけど、
それでも最初に触ったときの
レスポンスの良さにはかなり驚きました。

岩田

レスポンスがいいというのは?
精度の違いみたいなものがあるんでしょうか。

堂田

従来型のWiiリモコンですと
ひねったような動きをしても、
ゲームに伝わってくるのが
ちょっと遅れた感触がどうしてもあったんです。
ところが、Wiiモーションプラスを装着して
片手で持ってクイックイッと動かすと、
画面のなかの物体もクイックイッと動きましたので、
この感触というのは・・・。

岩田

「これは新しいぞ」と。

堂田

はい。とても新鮮でした。

嶋村

みんなで「おー止まる、止まる」と言ってたんですね。

岩田

「止まる」?

山下

太田さんがつくったプログラムがあったんです。

岩田

太田さんがつくったSDK(※5)
つまりゲーム開発のための部品ですね。

※5

SDK=ソフトウェア・デベロップメント・キットの略称。本格的にゲームを開発するための、部品のようなもの。

山下

そうです。
そのSDKのデモの中に、Wiiリモコンをひねると
画面のなかの人形も動くというプログラムがあったんですけど、
それをみんなでひねっていると・・・。

嶋村

「止まる、止まる」と(笑)。

山下

「寸止めも行けるぞ!」とか(笑)。

佐藤

そもそも加速度センサーだと
ピタッと正確に止まらなくて、
ちょっとヌルッとした感じの止まり方になってしまうんです。

岩田

それはどうしてなんですか?

佐藤

加速度センサーだと、
それがどんな角度なのか、
止まってるときにしか
姿勢を検出することができないんですね。
だから、動かしているときは
どっちに重力がかかっているのか、
あくまで予想で出すようにしていたんです。

岩田

それでピタッとは止まらず、
ヌルッとした感じになってしまうんですね。

佐藤

ところがWiiモーションプラスをつけると
動かしていようが、止めていようが、
Wiiリモコンの姿勢がぜんぶわかるんです。

山下

だから、→手元のWiiリモコンを動かすと、
画面のなかの人形がリアルタイムに動いて、
手を止めると同時に人形もピタッと止まった
んですね。
それを見て、純粋にすごいなあと思いました。