岩田
メールの送受信数が1万件以上という話でしたけど、
同じ数のメールを打って、ヘトヘトになる人と、
そうじゃない人がいますよね。
今日永澤さんとお会いしていて
もちろんお疲れかもしれませんが、
1万件やりとりしたことに「うんざりしてる」感じが
まったくないんですが、それはなぜなんでしょうか?
永澤
今作をつくるうえで、坂本さんが
制作チームに「プロジェクトM」と命名されたおかげで、
所属する会社が違っても
『METROID Other M』を開発するプロジェクトチームの一員として、
フラットなやりとりをさせていただくことができたからだと思います。
岩田
さきほど、齊藤さんが「トップダウンはイヤだと最初は感じたけど、
それは杞憂だった」という話をしてくれましたが、
永澤さんも同じようなことを感じておられたんですね。
永澤
はい。つまり、発注者と受注者という関係ではなくて、
それぞれの会社のメンバーが
同じチームとしてやっているということで、
僕らも意見をすごく言いやすいところがありました。
岩田
いわゆる発注者と受注者の関係じゃないというのは、
お互いに自分たちにないものを
チームのパートナーたちが持っているので、
ある部分、お互いにリスペクトができていて、
その相互リスペクトの関係ができていると
提案も意見のすりあわせもしやすい、
ということなんでしょうね。
永澤
はい。だから「言われたことだけやろう」
みたいなことが一切なくて、
いいと思ったことは、すぐに言える環境でしたし、
その意見を受け入れてもらえるような器を
みなさんがそれぞれ持っていたと思うんです。
ですので、やりとりでのストレスは本当にありませんでした。
森澤
言いたいことを言えるという部分では
会議の長さにも表れていました。
たとえばもし何かあったら、みんなで直接会うようにしていました。
岩田
わたしからも、けっこう「顔を直接合わせたほうがいいから、
必要があったらどんどん行ったほうがいい」って言ってたんです。
会わないでやるより、会ってやったほうがいいことが多いですから。
もちろんいまはこういう時代ですし、
電子的にやれることはいっぱいあるんですけど。
森澤
会議時間が6時間、7時間、8時間というのは
わりと当たり前のように行われていたんです。
永澤
1回の会議の間に2度の食事をとることもありましたしね(笑)。
岩田
2食、食事、ですか・・・うーん。
齊藤
会議をしながら昼食をとって、夜食もとって、
さらに翌日の朝食も、ということもありました(笑)。
岩田
3食(笑)。
森澤
でも、そのような長い会議でも、苦に感じるどころか
楽しい部分が多かったんです。
岩田
任天堂の『METROID』チーム、Team NINJAさん、
そして永澤さんや北裏さんたちの映像集団という三位一体のチームは、
それ自体が、世の中の人からすると一見、不思議な取り合わせなのに、
密なコミュニケーションをとることで、
スムーズなやりとりをすることができたんですね。
でも、やっていることは開発ですから、
いつもハッピーで、うまくいくことばかりじゃないと思うんです。
「このときは大変だったよな」ということもお訊きしたいんですけど、
サウンドを担当した小池さんはどうですか?
小池
やっぱり長い期間の開発でしたので、
大変だったことはいくつもあるんですが、
たとえば今回、いちばんはじめに、
ウェブで公開したのがピアノの曲だったんです。
実はその曲、ある日の午後に坂本さんから
「ピアノの曲にしたい」と連絡がありまして、
「じゃあ、うちのスタッフにピアノを弾ける者がいますから」
ということでつくることにしたんです。
で、「ちなみに締切はいつですか?」と聞いたところ
「今日中です」と言われたんです。
岩田
・・・それは無茶ですよ(笑)。
一同
(笑)
小池
そこで「大変だ!」ということになりまして、
ピアノを弾けるスタッフに弾いてもらって、
とりあえず第1弾をつくってみて、
それを坂本さんに聴いていただいたんです。
岩田
そのとき坂本さんは京都にいたんですか?
小池
はい。そこでメールに添付してやりとりをしたのですが、
やはりこだわりのある方なので、
「ここが違う」ということになって、
それでまたつくりなおしては「ここも違う」というやりとりが、
夜の8時頃まで何度も何度も続いたんです。
するとピアノを弾いていたスタッフも、「もうわかりません!」と。
岩田
音をあげられたんですね。
小池
はい。そこで僕も加わって2人がかりでやることにして、
三和音になってるのを2個にしよう、1個にしよう、と
どんどんシンプルにしていった曲を最後に聴いてもらったんです。
そうしたら坂本さんから
「すごくよくなった。感動して・・・泣きそうになった」
とおっしゃったんです。
その言葉を聞いたときに、ものすごくうれしくて、
ホント1日の間の出来事だったんですけど、
ずーっと辛かったことが、一気にスッと楽になって・・・。
岩田
1日で天国と地獄の両方を味わったわけですね。
小池
ホントに味わいました(笑)。
でも、さらに続きがありまして、すべてが終わって、
家に帰ってからも坂本さんから電話をいただたんです。
それで「何だろう?」と思ったら
「今日は本当にいい曲を聴いた。ありがとう。」と。
岩田
ああ、それくらい坂本さんは感動したんでしょうね。
プランナーの大塚さんは、
先ほど、坂本さんからズバリ、自分の庭の花を指摘されて
その夜は眠れなかったという話がありましたけど、
その他にはどのようなことで大変でしたか?
大塚
やっぱりゲームとムービーを
シームレスにつなげるところですね。
「ゲームとムービーをつなげる」というのは
言葉で言うのは簡単なんですけど、
坂本さんと実際に打ち合わせをはじめてみると、
「ふつうにつなげただけでは、まったく満足してもらえてないぞ」
ということになりまして。
岩田
それを実現するためには
新たにいろいろつくりなおしたり、
つくる予定がなかったものをつくって足したり、
大幅に直したりする必要があったんですね。
大塚
はい。実際にいちから構築しなおしたものもありました。
でも、そうやって大幅に直したりしながら、
つながったときは、ものすごく感情が揺さぶられるんです。
で、スタッフにも実際にプレイしてもらったんですけど、
プランナーのひとりが僕のところにやって来て、
「気持ち悪いくらいつながってますね」と言ったんです。
岩田
「気持ち悪いくらいつながってる」(笑)。
坂本さんのこだわりだと考えると、
その言葉にはこのゲームの特長が表現できているように感じますね。
映像制作を担当していた永澤さんは
気持ち悪いくらいつなげるために、
大変な思いを、たくさんされたんじゃないですか?
永澤
実際に、ここまでつくったものが、ガッと戻されて、
そこでまたつくったものが、さらにガッと戻されてということが
何度もありました。
岩田
坂本さんの、とくに“間”へのこだわりは
すごかったでしょう?
永澤
はい。それはものすごく実感しました。
岩田
ふつうは委(ゆだ)ねるような映像制作の部分でも、
ここは重要だと思ってる部分には
ガッと踏み込んだりするようなところがありますから。
終盤には、フレーム単位の“間”の調整に
深く入り込んでいたと聞きましたけど。
永澤
実際にムービーをつくって、それを見ていただいて、
とくに何も言われないので「これはOKなんだな」と安心していると、
しばらく経ってから、メールが届くことが多かったんです。
しかも、本来なら北裏さんに伝えるべきことなんですけど、
僕にメールが届くんです。
岩田
言いにくいことは永澤さんに、ということですか(笑)。
永澤
ええ、そうだったみたいです(笑)。
しかもタイトルはいつも簡単で
「ご相談です」と、ひとことだけなんです。
岩田
そういうメールが届いたときは、だいたい要注意なんですね。
永澤
はい。で、よくよく読んでみると、
しばらく前に見ていただいた映像に関することが書かれていて、
あそこの部分の、あそこの“間”は
本当に微差なんですけど、「やっぱりこうしたい」とか、
「ここのテンションは、もうちょっと落としたい」といったことが、
事細かに綴られているんです。
岩田
事細かな調整をしないと、
サムスの心理はしっかり描写できない、ということなんでしょうね。
永澤
はい。で、サムスのことは、
途中からだんだん北裏さんにあずけられてはいたんですけど、
北裏さんの「サムスをこうしたい」という演出イメージと、
もともと坂本さんにあった「サムスはこうだ」というイメージが
食い違ったりしたこともあったんです。
ただ、どちらが正解うんぬんという話ではないんですよね。
岩田
お互いにこだわりがあって、それぞれが
「すごくいい」と言うこともあれば、
「違います」と言うことも起こるわけですね。
永澤
ええ。ですから、表情ひとつをとっても、
1フレーム単位で調整しました。
たとえば、1フレーム目でサムスの目が瞬き、
3フレーム目に口がちょっと動く、といった
非常に微妙な調整を繰り返すことで、
2人のイメージに合うサムスの心情表現を探していったんです。
そういうとても細かい部分で、
物理的なクオリティを上げていくことが大変でした。