岩田
もうひとつ、つんく♂さんに
うかがってみたいんですけど、
ゲームの開発を通して実際につき合ってみて、
任天堂ってどんな会社でしたか?
そして、うちのスタッフたちはどう見えましたか?
どうぞ、遠慮なく言ってください(笑)。
つんく♂
いや、気持ちよく仕事させてもらいましたよ。
‥‥あ、でも、ひょっとしたら、まだ、
腹に一物持ってはるのかもしれませんけど(笑)。
岩田
ははははは。
つんく♂
いや、でも、ほんとにね、
時間を惜しまず、最後までしつこく
食い下がってくれる人たちばっかりでしたから、
それがゲームのおもしろさにつながったと思います。
あと、みなさんお忙しいと思うんですけど、
こまめに東京に出てきてくださって、
そこで直接しゃべっているうちに、
ゲームがちょっとずつちょっとずつ
よくなっていくというような感じで、
まぁ、ボツになっていくゲームもありましたけど。
岩田
いや、けっこうボツにしましたよね(笑)。
つんく♂
そうですね(笑)。
でも、そういうのも、ふだんぼくらが
曲をつくってるときと同じなんですよ。
途中まで進めたけど、ぎりぎりのところで
やっぱりボツにしよう、と決める。
だから、ほんとに、ふだんぼくが
プロデューサーとしてやっているときと
同じ感覚で任天堂の方とつき合えましたから。
けっこう、キツいことも言いましたしね。
「自己満足になってるんちゃうかな?」とか
「これ、絵だけで楽しんでない?」
みたいなことも正直に伝えてきたし。
でも、そこで、
「だったら、つんく♂さんがやってくださいよ」
って言うような人はひとりもいなくて(笑)。
岩田
(笑)
つんく♂
けっこうキツ目の注文つけても、
「わかりました」って言うて、
つぎにドーンと変えて「どう、どう?」みたいな。
「つんく♂さん、これでどう?」
みたいな感じで仕上がってきたんで、
それは非常にうれしかったですね。
岩田
それは、バーンと注文をつけたときほど
バーンと変わって出てきた感じですか?
つんく♂
そうですね。
ちょっと言いすぎたかな、っていうときほど、
そのつぎに、「なにくそ」的な感じで
ボーンと返ってくるというか。
岩田
ああ、そのあたりは、けっこうみんな
負けず嫌いだと思いますよ(笑)。
つんく♂
そこはやっぱりすごいなという意識があって。
うちの社員たちにも、
「ちょっとおまえらも頑張らなアカンで」
と言うようなときはありましたね。
あとは、さっきもちょっと言いましたけど、
関西弁どうしでふつうにしゃべれたのが
よかったというか、やりやすかったですね(笑)。
岩田
ありがとうございます(笑)。
ほめてばっかりだとナンなんで、
「ここはちょっと困ったんだけどな」
っていうことはありませんでしたか。
つんく♂
そうですね‥‥やっぱり、ちょっと距離がね。
東京と京都で、ほんとに、
遠距離恋愛みたいなとこがあったんで(笑)。
岩田
はい、そうですね。
やっぱり京都と東京じゃ、
そんなにしょっちゅうはお会いできませんから。
つんく♂
遠距離恋愛の歯がゆさは若干あったというか、
「いま打ち合わせしよう!」
みたいな感じにはなれなかったので(笑)。
とくに、最初の共通認識ができあがるまでは
ストレスがお互いにあったと思います。
メールなどの言葉や譜面では表現しにくい
リクエストもあったので、そのあたりを
伝えるのにも苦労しました。
岩田
呼んで目の前で言えばすぐ伝わるのに(笑)。
つんく♂
そうそうそう(笑)。
身振り手振りがつけば一秒で理解して
もらえるのに、みたいな。
そのへんの歯がゆさが、ちょっとありましたね。
あとは、これは関係ない話かもしれんけど、
打ち上げというのを1回もやれてないので、
どうにかしないといけない(笑)。
岩田
なるほど(笑)。
つんく♂
そういうことも非常に大事なことじゃないかなと
ぼくは思うタイプなんで。
吸ったら吐いて、また吸うというかね。
岩田
それもリズム感(笑)。
つんく♂
はい(笑)。
ブレスというか、息継ぎをしとかないと
息詰まっていくんじゃないかと(笑)。
岩田
いや、なんかゲームを作ったというよりは‥‥
つんく♂さんと任天堂で、
ちょっと違うものをつくったっていう
不思議な感覚がありますね。
つんく♂
ああ、そうかもしれませんね。
岩田
いや、もちろんゲームの構造だし、
ゲームとして遊んでもちろんおもしろいんですけど、
それが波及する先のことを踏まえると、
ゲームから完全に一歩はみ出てる感じがするというか。
ちょうど任天堂は脳を鍛えるソフトをつくったりして、
ゲームの定義を広げたといってもらってるんですけど、
まさにこの『リズム天国』も、
従来からゲームをやってきた人たちが
楽しんでくれる要素を入れつつ、
ふだんゲームをしない人たちまでを巻き込んで、
最終的には、ゲームをやっていないときにまで
影響するかもしれないという可能性を秘めていて。
つんく♂
そうですね。
アドバンス版の『リズム天国』で
非常にうれしかったのは、
小学生の女の子がすごく楽しんでくださったことなんですよ。
ぼくにとってこれはすごくうれしいことで、
というのは、その子たちが、ふだんいちばん、
リズムと遠いところにいると思うんですよ。
ピアノやバイオリンは習ってるかもしれないけど、
ほんとうのリズムとは遠いところにいて。
岩田
なにかを学ぶという意味では
とっても大事な年齢であるのにもかかわらず、
リズムというものを意識していないんですね。
つんく♂
そうなんです。その子たちが、
『リズム天国』を手にとったというのは、
この先、5年後、あるいは10年後、
その子たちがいい女になるころに、
非常に活きてくると思うんですよね。
それはとってもよかったなと思います。
岩田
それも、もとはといえばやっぱり、
つんく♂さんとの出会いがなければ
絶対にできなかったことですし、
仮に運よく出会えたとしても、
最初のアイデアだけをいただいて
「ありがとうございました。
あとはお任せください」というふうに
つくっていたのではこうはならなかったはずですし。
いっしょにつくって、かつ、
しんどいこともきちんと伝え合ってないと
こんなふうにはできなかったでしょうね。
つんく♂
ほんと、そうですね。
岩田
まあでも、幸運な出会いがあって、
2004年からだから、もう4年以上
ごいっしょさせてもらってるんですけど、
2つも商品ができて、かつ、終わったあとに
こうしてニコニコして会えてるじゃないですか。
「もうあいつらとは二度とごめんだ」
とは思ってないわけで(笑)。
つんく♂
はい(笑)。
岩田
これから先、つんく♂さんのリズム論が
どんなふうに発展していって、
それを任天堂はどんなふうに活かせるのか。
逆に、任天堂が考えるおもしろいことを
つんく♂さんが料理したいと
思うこともあるかもしれない。
そういうことも含めて、これから先が
また、たのしみでもありますね。
つんく♂
ありがとうございます。