岩田
いまお聞かせいただいたような
リズムについての考えは、
ミュージシャンの方、音楽の専門家どうしで
お話されたりすることはあるんですか。
つんく♂
たまにありますけど、
みんなあまり話を聞こうとしないです(笑)。
岩田
へぇー、そうなんですか。
つんく♂
たぶん「できない子を教える」っていう人が
あんまりいなんですよ。
たとえば、ある人が音楽家として
偉くなっていくと、その人のまわりには
どんどん「できる人」が集まってきますから。
とくに、「譜面のある世界」では、
その傾向がありますね。
小中高、と音楽の勉強をしてきたような生徒に
大学の教授がリズムを教えるようなことは
おそらく、ないでしょうし。
岩田
もともと、ある程度のリズム感がある人だけが
その道に進んでいるから‥‥。
つんく♂
それもありますし、教える教授たちも、
リズムをチェックされたことってないんですよ。
「キミは、うまくリズムにのれてないね」って
あまり言われたことがないと思うんです。
いざ、ダンスのレッスンを受けて、
「さあ、右から入ります」って言われたときに、
すっと足が動くかどうかは疑問ですね。
岩田
なるほど(笑)。
つんく♂
とくに、教育という現場においては、
音楽と、リズムとダンスは、
関係ないと思ってる人が多いんですよ。
「そこはつながってるんちゃうん?」と
ぼくは、思うんですけど。
岩田
教育の話というよりも
「大衆芸能の話」として
片づけられているのかもしれませんね。
つんく♂
はい。で、ロックの先輩たちがどうかというと、
やっぱり有名な人たちは、みんな、
自然に弾けて、自然に叩けて、
有名になってきた人たちなんですよね。
なので、やっぱりそれを
解釈したことがないんですよ。
岩田
ああ、悩む必要がないんですね。
当然、教えることもないし。
つんく♂
昔、ぼくが「太陽とシスコムーン」という
4人組のグループをつくったとき、
メンバーのひとりに
体操の元オリンピック選手がいたんですよ。
その子に歌や踊りの基礎を教えてるとき、
ぼくは彼女にこう言ったことがあるんです。
「たとえば何度も何度も反復練習して、
999回目までは、できなかったのに
1000回目でポーンと急に
できるようになることがあるやろ?
それと同じで、歌もリズムも、
何回も何回も練習してたら、
いつかできるようになるときがくる」と。
とくに彼女は厳しい練習をずっとやってきた
オリンピック選手でしたから、
「そういう経験、あったやろ?」と
ぼくは言ったんですけど、ぜんぜん通じなくて、
むしろ、ポカーンとしてるんですよ。
「あったやろ、体操とか、練習して、練習して、
やっとできるようになった技とか、
何回転宙返りみたいなこと、あったやろ?」
って言ったら、彼女は不思議そうに
「私、3、4回でできるんですよ」って言ったんです。
岩田
なるほど(笑)。
つんく♂
ああ、そうや、天才っていうのは
そういうことなんやなと思って。
ふつうの苦労とかないんやと思って。
もちろん、天才としてのジレンマとは
闘うとは思いますけど。
岩田
どうしてできるようになったかを
うまく説明できないわけですね。
つんく♂
そうなんです。
だから、人がやってるのを見るじゃないですか。
先輩とか世界のトップアスリートを見て、
イメージができたら、自分でやってみる。
で、何回かやってみたらできるんですって。
ああ、そうかぁって思うんですよね(笑)。
ほかの、苦労してきた女の子たちっていうのは、
ぼくの言ってることがわかるんです。
アイドルを目指してる子とか、
でも‥‥。
岩田
天才には教えられない(笑)。
つんく♂
そうなんです。
あと、教えるのもきっと苦手でしょうね。
「なんでできへんの?」
っていうことになりますから。
ぼくらは、できへんところから入って
うまくなっていこうという意識が強いから、
「まぁ、モーニング娘。くらいまでには
踊れるようになるよ」という気持ちなんですね。
シャ乱Qというのも、
天才がひとりもいないグループでしたから。
みんなヘタッピだからこそ、いっしょになって
リズム感なり、グルーヴ感なりを出していくのが
おもしろかったりするんですけど。
岩田
ちなみに、
これを読んでくださっている人のなかには、
ゲームに関しては明るいけど
音楽に関しては必ずしも明るくないという人が
いると思うんですけど、
「ノリ」とか「グルーヴ」ということばというのが、
たぶん、なかなかイメージがしきれないと思うんです。
つんく♂
ああ、なるほど。はい、はい。
岩田
それを、あえて言語化しようとしたら、
どういうことになるんでしょうかね。
つんく♂
うーん‥‥人間ってやっぱり、体内時計というか、
もって生まれたリズムというのがあると思うんです。
たとえば多くの人は、1分間に60回から70回くらい
脈打っているわけじゃないですか。
だから、思ってる以上に、正確なリズム感というか
ルーティンが、本来、備わってるんですね。
岩田
多少、揺らぎはあるにせよ、
ある程度正確なリズムがある。
つんく♂
そうなんです。
誰しも、ある程度のルーティンリズムというか、
同じ周期でずっとループしているリズムというのを
自分で持って生きているんです。
それをうまく活かしている人が「ノリ」のいい人で、
そこから外れる人がドンくさい人なんです。
ただ、ドンくささというのは、すごく味になるので、
一概に、こっちがよくてこっちがダメ、
という話ではない。
岩田
機械のように正確なら
いいってものでもないんですね。
つんく♂
はい。あまりにも正確すぎると、
今度は味気ないんですよね。
やっぱり、タメたり、突っ込んだりするからこそ、
味というか、陰翳(いんえい)というか抑揚というか、
その人の持ち味みたいなものが出てくるので、
そういうものは非常に大事なんです。
ただ、前提として、自分のなかに
ループする根本的なリズムがあるということを
知ってるか知ってないかで大きく違うんですよ。
人間には、ある程度、ぐるぐる回ってる
リズムがあるんだということを知ってる人は、
知らない人よりもリズムをつくりやすいんです。
機械的に刻まれるリズムのあいだを
上手にすり抜けていくこと。
それが、いまはできなくても、
あるんだな、ということがわかってさえいれば、
「ノリ」とか「グルーヴ」は出てくるんです。
岩田
その意味では、リズムというものに
みんなが意識を持ちさえすれば、
日本中の人のリズムに関する力がすごく変わってくる。
つんく♂さんはそう信じてらっしゃるんですよね。
つんく♂
そうですね。
どんどんよくなると思います。
岩田
ひいては、日本にかぎらず、
あらゆる国の人のリズム感が
このゲームを通してよくなる可能性がある、
というわけですね。
つんく♂
もちろん、そのとおりです。