5. 気持ちのいいアクセント

岩田

ゲームのおおもとの部分が固まってからは、
つんく♂さんのおもな役割というのは、
音楽をつくることになるんでしょうか?

つんく♂

というよりも、役割として大きいのは、
曲の、ノリというか、アクセントの監修ですね。
それがうまくできてないと、けっきょく、
ほかの「音ゲー」と同じになっちゃいますから。

岩田

ああ、そうですね。
つんく♂さんは、ほかの「音ゲー」の
アクセントにフラストレーションを感じて、
ゲームをつくりたいと思われたわけですから。

つんく♂

そうなんです。
「遊んでいて気持ちのいいアクセント」というのは
絶対に譲れないポイントなので。

岩田

その、つんく♂さんのいう
「気持ちのいいアクセント」というのを
もう少しくわしく教えていただけませんか?

つんく♂

ええと、どういうんでしょうね。
ぼくが曲をつくって、渡すときに、
ぼくはそこに自分なりに追求した
アクセントをつけて渡してるつもりなんです。
だから、たとえば、
「ズンズンズンタン、ズンズンズンタン、
ズンズンズタ△、ズンズンズタ△、
ズンズタ△ズタ、△ズタ△ズタ」(△は休符)
っていうアクセントをつけた曲を渡してるのに、
できあがったゲームをプレイしてみると
そのアクセントを無視して、
小節の1拍目と3拍目に
入力ポイントが設定してあるんです。
絵とか、アニメーションはよくできてるんですけど、
遊ぶほうはずっと「1、3拍目」とか「2、4拍目」を
くり返すだけなんですよ。
だから、ぼくは、「ズンズンズタ△」の
「ここにアクセントを!」というのを
身振り手振りで細かく伝えていくという感じで。
それをやっていくとやっぱりゲームが変わるんです。

岩田

はい。いまの話はとてもよくわかります。
それは、開発のスタッフも言ってたんです。
つまり、試作をつんく♂さんにお送りすると、
これはよくないというご指摘を受けると。
でも、メールだとどこが悪いのかが
よくわからないんです、って彼らは言ってたんです。
で、直接、つんく♂さんに会いに行くと、
おそらくいまのように話してくださるから、
とってもよくわかる。私にもよくわかりましたし。

つんく♂

やっぱり、そういうところが
ゲームの善し悪しを分けると思うんですね。
ぼくが最初に「音ゲー」に
フラストレーションを感じたのもそこでしたから。
たとえば、ぼくの楽曲でいうと、松浦(亜弥)の、
『♡桃色片想い♡』という曲があるんですけど
ここで押すの? 『し』にアクセントないよ?
みたいなことになるんです。

岩田

ゲームをつくる立場から
「どうしてこんなところにアクセントがあるの?」
ということを解説させていただくと、
おそらく、難易度調整のためにそうなってるんです。
ようするに、ボタンを押す場所を増やして、
変なところで押させることによって
ゲームを難しくすることができますから。
とくに、ゲームの終盤などで、
プレイヤーに達成感を持たせるために
ゲームを難しくする必要があるときは、
もとの曲をつくった人のこだわりを無視して
アクセントを決めていくんじゃないかと思います。

つんく♂

ああ、なるほど、なるほど。

岩田

ところがつんく♂さんは、
本来のノリを絶対守るっていうところから
すべてがスタートしてるから、
アプローチがまったく違うんですよね。
だから、つんく♂さんの方法で
ゲームを難しくさせていくとなると、
曲そのものの、ノリを複雑にしないといけない。

つんく♂

そうです、そうです。
「こういうところで押してほしい」という
アクセントの曲をつくって渡すんです。

岩田

つくり方としては、そっちのほうが
難しいというか、たいへんで。

つんく♂

ただ、リズムをある程度理解できる人が、
後半のやや複雑な曲をやると
たまらないと思いますよ。
もう、体の気持ちいいところに
ズボズボ入っていくんです。
もう、「たまらん!」って感じですよ(笑)。
今回の『ゴールド』にはそういう部分が
かなり増えてるので、楽しいですよ。

岩田

『ゴールド』では、
入力がボタンじゃなくてタッチペンになりました。
そのあたりの感覚の違いを
つんく♂さんはどう感じられました?

つんく♂

やっぱり、別物として楽しいですね。
今回の『ゴールド』は、
全部ピッタリ押してパーフェクトを狙うというより、
全体的なクオリティを上げて、
ハードルを越えていく感じなんです。
タッチペンで、「触って、はじく」というのが
『ゴールド』の基本動作になるんですけど、
「♪ズン、シャン ♪ズン、シャン」っていう感じで
「触って、はじく」ことがかなり気持ちいいので
まずは、これを楽しんでほしいですね。

岩田

そのあたりの「気持ちよさの追求」というのは
つんく♂さんがいなければ
絶対にできなかったことでしょうね。
つんく♂さんは、このゲームに
多大なエネルギーをつぎ込んでくださって、
スタッフとも真剣に向き合ってくださった。
おそらく、世の中の多くの人たちは
このゲームがそういうつくり方をされたとは、
思ってないだろうな、と感じるんです。

つんく♂

まあ、そうでしょうね。
もっと、こう、だいたいゲームはできあがってて、
そこに、曲だけ書いています、みたいな(笑)。

岩田

ええ、でき上がってるゲームに、
「あ、いいんじゃない?」と言って終わり、
ぐらいに思われてないかなと(笑)。
でも、実際は、ぜんぜんそうじゃなくて、
企画の持ち込みから、プロジェクトの立ち上げ、
アドバンス版の『リズム天国』、
そして今回の『リズム天国ゴールド』に至るまで、
ものすごくエネルギーを注いでくださっている。
そのことを、これを読んでくださっているみなさんに
知っていただきたいと私は強く思うんです。
なにより、うちのスタッフたちが口々に言ってたのは、
「つんく♂さんに会うと元気になる」ということで。

つんく♂

(笑)

岩田

やっぱり、行ったことのない道ですから、
どうしても迷うんですよ。
だから、これでいいんだというのが確信できないと
だんだん前へ進めなくなるんです。
とくにこのゲームの場合は、飾りを削ぎ落として
いちばん大事なところだけを残していく、
みたいな構造になってますから、ごまかせませんし、
不安になると、ほんとうに先が見えなくなる。
確信がないとエネルギーが切れていくというか、
いわば、放電していくわけです。
そいうふうに放電して不安になった人たちが、
つんく♂さんのところに行って帰ってくると
「いやぁ、充電してきました」みたいな感じになって
ニコニコしながら帰ってくる。

つんく♂

そう言っていただけると、うれしいですね。

岩田

さっきのお話をうかがって、
私にはその理由がなんとなくわかったんです。
自分がゲームに確信できなくなったとき、
どんなことばよりも、さっきしてくださったように
「こうやってこの曲にノってほしいんだ」と
目の前でアピールしてもらうことのほうが
「こうつくればいいんだ!」という確信が得られて
エネルギーが湧くんですよね。
だから、つんく♂さんに会ったスタッフが
みんな元気になって帰ってくるというのも
すごくよくわかるなぁと。

つんく♂

もし、ぼくがそういうふうに役立ってたとしたら
すごくうれしいんですけど‥‥
ひょっとしたらその人たち、ぼくに会ったあと、
‥‥どっか、寄り道してたんちゃいます?

岩田

うわ(笑)!

一同

(笑)