岩田
これまでのところを読んで
読者の方にも十分伝わっているかと思いますが、
つんく♂さんのなかには
たんに「ゲームがつくりたい」という以上の熱意、
それこそ「日本人のリズム感をよくしたい」という
ものすごい情熱がありまして(笑)。
つんく♂
はい。もう、使命感みたいな(笑)。
岩田
その意味では、私たちにとっては、
ものすごい使命感を持った人が、
ある日、目の前に現れたともいえるわけで
形にする、商品にする立場からすると、
まずは途方に暮れるわけです。
つんく♂
(笑)
岩田
端的にいえば、なにをつくったら
つんく♂さんが「これだ!」っておっしゃるか、
わからないわけです。
だから、とにかく最初のうちには、
行って直接お話ししなさい、と。
なんでも、根本のところから話し合いましょうと。
つんく♂
なんだったら、
ダンスのレッスンも受けてきなさいと(笑)。
岩田
ああ、そうですね、ダンスレッスン(笑)。
ゲームボーイアドバンス版の『リズム天国』を
開発するにあたって、なぜかスタッフ数名が上京して
ダンスのレッスンを受けるという
任天堂的には前代未聞の事態になりました(笑)。
つんく♂
いろいろ話すうちに、
これは、1回、踊ってもらったほうが早いなと。
岩田
いや、スタッフから
「ダンスレッスンに行くんです」って聞いてですね、
正直、目が丸くなりましたよ。
仕事とはいえ、まとまった人数を東京に送り出して、
理由が「ダンスレッスン」ですから(笑)、
これはどう処理したものかなと。
でもまあ、おもしろそうだから
「行ってきてください」って(笑)。
つんく♂
実際、おもしろかったですよ。
かなり音楽にくわしくて、
実際に楽器をやられてる開発者の方も、
ダンスレッスンとなったら、
やっぱり、緊張されるんですよね。
岩田
いや、私はあとからビデオを見ましたけど、
もう、ガチガチでしたよ(笑)。
つんく♂
やっぱり、楽器もなにも持たずに、
いきなり音楽のなかに立たされると、
こう、精神的に丸裸になるんですよね(笑)。
「ああ、みんなここからはじまんねんなぁ」
と思いながら見てましたけど。
でも、1時間ちょいですかね、あのレッスン。
やっぱり、そのあいだに変わるんですよ。
岩田
変わるんですね。
つんく♂
はい。
岩田
そのように、躍って、話して、
いろんな形で共通認識を築きつつ、
いよいよゲームにとりかかるわけですけど、
当初、つんく♂さんは、
「基本は、リズムキープなんです」って
断言されてましたよね。
だから、極端にいうと、メトロノームがあって、
それに合わせてリズムを刻むだけでも
意味がある、というか。
つんく♂
だから、本当、最初のころは、
「いや、ぼくがやりたいのは、
ゲームじゃなくてもいいのかもしれない。
教育用ソフトとか、なんなら
小学生用の教科書でもいいのかもしれない」
って、正直に言ってたんです。
「ぼく、なにをつくりたいのか、
はっきりとはわかってないんです」って。
岩田
具体的な形やビジョンがあるわけじゃなくて、
リズム感を鍛えるメソッドを持っていて
これを広く知らせたいんだと。
そうすれば、町を歩く人たちの
ステップが変わるかもしれないという、
そういう感じだったんですよね。
つんく♂
はい、まさにそうです。
そういう気持ちで言ってたんですけど、
やっぱり、最初のころは開発の方も、
「じゃあ、百科事典みたいなソフトなんですかね」
みたいな感じで、落ち着く場所を探りつつ
話しているような感じで。
岩田
いちばん最初に決まったことって
たとえばどんなことだったんでしょう。
つんく♂
とにかく、複雑なものは避けよう、
ということでしょうね。
おじさんでも小学生でも
スイッチ入れたらはじまるようなゲームじゃないと
遊んでもらえないんじゃないかなと思って。
で、本質的には、ほんとうに
リズムをキープすることだけを軸にして。
だから、ぼくが思ってたことは、
すごくシンプルなんですよ。
岩田
ゲームらしくまとめることよりも、
むしろ不必要な飾りの要素を剥ぎ取っていって、
本質の部分だけで勝負することを
志向してらっしゃったんですね。
つんく♂
そうですね。
だから、もう、キャラクターなんか
なくてもいいんじゃないか、
くらいに思ってましたから。
最終的にゲームとしてまとまったときに
キャラクターが活きてはいったんですけどね。
当初はやっぱりそのあたりに食い違いがあって、
ぼくからすると、どうして開発の方は、
キャラクターとかシチュエーションばかりを
先に決めたがるのかな、なんて思ってたんです。
でも、ぼくといっしょにダンスレッスンしてからは
出てくるゲームがぜんぜん変わりましたけど。
岩田
やっぱりそのダンスレッスンが
ことば以上の刺激になったんですね。
つんく♂
なったんでしょうね。
そのあとに出てきたゲーム、
メチャメチャおもしろかったですからね。
ぼく、サンプルがあがってくるたびに
ニヤニヤしながらゲームやってましたから。
岩田
いや、この『リズム天国』シリーズは
とにかく、プレイしていると
顔がニヤけるんですよ(笑)。
つんく♂
(笑)
岩田
なんかね、いま人に見られたら
ちょっと恥ずかしいなと思うぐらい(笑)。
つんく♂
それは、うれしいですね。
ぼくらはやっぱり
「こうつくった」ということを
わかったうえでプレイしているから、
「ここはツボやなあ」みたいなことで
ニヤニヤしてしまうんですけど、
お客さんがほんとうにどこをどう
楽しんでくださっているのかというのは、
まだぼく、正直、謎なんです。
まわりの知り合いというか、
シャ乱Qのたいせいとか
モーニング娘。のメンバーとかは
発売されて、すぐに遊んでくれたんですけどね。
それでいちばんおもしろかったのは、
シャ乱Qのドラムのまことが
めっちゃ遊ぶのイヤがったことなんですよ。
岩田
(笑)
つんく♂
「おまえ、これやれや」言うたんですけど
「そんなん、絶対イヤや、オレ」って。
岩田
ドラマーがリズム感を試されるなんて、
ちょっとたまらないですよね(笑)。
つんく♂
そうそう(笑)。
そうかと思うと、スタジオミュージシャンの
ドラムの人とかパーカッションの人たちは、
もう、必死になって制覇しようとするんです。
全部パーフェクトにしようとしたりして。
「『リズム天国』買いましたよー」っていうのは
まあ、ふつうの報告だと思うんですけど、
「全部パーフェクトになりましたよー」って
言われることもけっこうありましたからね。
あ、こんな人もやってくれてんねやとか思いながら。
そういう意味でいうと、
ミュージシャンが待っていたゲームでも
あったんじゃないかなと思いましたね。