いちばん最初に小田部さんが描いてくれた動画は
確かルイージがくるくると回るものだったんです。
ところがそんなにコマ数が使えないので、
ゲームじゃ使えないんですよ。

そう、当時は使えない絵ばっかり描いていたよね。

ところが「これは絶対に小田部さんに頼むべきや」と
思った機会がやってきたんです。
フジテレビさんといっしょにやった・・・。

『夢工場ドキドキパニック』^（※12）？

はいはい。

じゅうたんの動きをなめらかにしようと。

あーあれを（笑）。

本物のじゅうたんみたいに動かしたかったんです。
これは小田部さんにお願いしようと思って。
小田部さんにですよ、この大先生に
「じゅうたんを描いてください」と（笑）。

ひどい（笑）。

（笑）

それでなめらかな動きのじゅうたんを描いたら、
「枚数が多すぎます」と言われちゃったんだよね。

元絵は１０数コマのじゅうたんだったんです。
それを切り刻んで、同じのを使い回して、
コマ数は少ないけどなめらかに動くと。

確か３枚を逆に使いながら。

それが小田部さんにお願いした
いちばん最初のゲームの仕事でした。

小田部さんには、マリオのイラストも
いろいろお願いしたんですよね。

マリオはドット絵じゃないですか。
だから唯一の手がかりは、
『スーパーマリオブラザーズ』の
パッケージイラストしかなかったんです。

そうです。
それを今のマリオの絵にまとめあげて下さったんです。
もともと、マリオのイラストは
『ドンキーコング』^（※13）をつくっていた頃から、
僕がえんぴつで描いたラフを
外部のイラストレーターの方に渡して
仕上げてもらうことが多かったんですね。
ところが『スーパーマリオブラザーズ』を出すときに
プロのマンガ家や著名イラストレーターに
お願いするようなことも考えたんですけど
時間切れになってしまったので、
自分でパッケージイラストの原画を描くことにしたんです。

だから、マリオの絵を描こうにも
手がかりはそのパッケージイラスト１枚だけ。
それで、宮本さんが原作者だと言うから、
「こんな顔？」「こんなヤツ？」とか
しつこく聞きながら描いたんだよね。

そうです。いろいろ聞いてくれるんです。
これがすごいところで、香西さんもそうでしたし、
小田部さんもそうでしたけど、明らかにうまいわけですよ。

自分より圧倒的に絵がうまい人から、
「どう描いたらいいの？」と聞かれたんですよね。
たまらないな、これは（笑）。

（笑）

ピーチなんか見違えるようになりましたよね。
僕はいろいろ好きなことを言うわけですよ。
目はちょっとキツめのほうがいいとか。

あと、聞かん気のタイプだとか。

聞かん気だけど、
ちょっとかわいいほうがいいとか（笑）。
クッパも大きく変わりましたね。
マリオは長い間描いていたので、
比較的こうしてほしいというのがあったんですけど、
クッパはそれほど描いてなくって、
線がまとまってなかったんですよ。
僕、「西遊記」^（※14）の頃の東映動画が好きで、
そのとき出てきた牛が・・・。

ああ、そんなこと言ってましたね。

僕、あの牛が好きなんですよと言いながら。

牛魔王ですね。
宮本さんはその牛が好きで
クッパをイメージしていたんですね。
パッケージを見ると、確かに牛っぽいし。
でもその後、手塚（卓志）さんから・・・。

「これ、カメなんです」と。

「ああ、カメだったのか」と。

（笑）

カメの体に牛の首がついているような、
わけのわからないものを描いていて（笑）。
でも、そういう会話を重ねながら
まとまっていったんですね。
同じカメ族だから
ノコノコとクッパの絵に共通のラインが出てきて、
僕らはそれを一生懸命にマネをして、
次のイラストを描くわけですよ。
で、「だいぶかっこよく描けるようになった」とか
自画自賛したりして（笑）。

小田部さんが描いてくれた線を、
自分のものにしていって、それをゲームに取り込むと
ぐぐんと良くなっていったんですね。
その後、ゲームが３Ｄになっていくじゃないですか。
小田部さんの力が僕らにとって
ますます重要になりましたね。

『スーパーマリオ６４』^（※15）をつくってたときは、
開発チームが集まって会議ばかりやっていましたね。

『マリオ６４』の話が出てきたところで、
ここから小泉さんにも参加してもらいましょう。
ホントは『うごくメモ帳』からのつもりだったけど。

はい。

そもそも小泉さんと小田部さんの出会いは？

わたし、入社していちばん最初に、
いっしょにお仕事をしたのが小田部さんなんです。

実は、そもそも小泉さんを採用するかどうかを
小田部さんに相談したくらいだったんです（笑）。

そうだったんですか（笑）!?

面接してくれたのはお２人だったんですよね。

小泉さんは卒業制作でつくった
アニメーションを持ってきていて、
それを僕は見ていましてね。
ちゃんと作品をつくっている人なんですよ。
そこで、なぜか僕が面接をすることになって、
しつこくイジワルな質問を小泉さんにしたんです。
「アニメーションがこんなによくできているのに、
なんでゲームの世界に来たいの？」とか。

そこで僕も、アニメーション論をぶって、
さらにゲーム論もぶったんです。

小田部さんの前でアニメーション論をぶち、
宮本さんの前でゲーム論をぶつなんて、
すごい学生だ（笑）。

（笑）

そのとき、まさか目の前に
小田部さんと宮本さんがいるなんて
知らなかったんです。
名前は知っていても、顔までは知らなかったんですね。
しかも、学生ですし緊張してるじゃないですか。
ここは勢いでいくしかないなというので、持論をぶって・・・、
いま考えると恐ろしいことをしました（笑）。

で、小泉さんは
キャラクターのイラストを描く仕事を
ずっと続ける予定だったんですね。
宮本さんからそう言われていましたし。

育ててほしいと言ったんです。

えっ、知らなかった・・・。

その時代によく覚えているのが『マリオカート』^（※16）ね。
東映動画で教わったことなんですけど、
「本物を見たほうがいいよ」と。
無理やり予算も取ってもらって。

それで、ロケハンしに行ってきたんですけど、
初めてカートにも乗って、
カートの構造もしっかり観察しました。

やっぱり写真を見たり、インターネットで
資料を検索するだけではダメなんですよ。
本物を見て、自分のなかに全部を取り込まないと。
その経験は『マリオカート』にも活きてたよね、ちゃんと。

はい。おかげさまで。

そうこうしているうちに、
ゲーム開発のほうの人が足りなくなって、
小泉さんがひっぱり出されることになったんだよね。

宮本さんが「育ててくれ」とお願いしたのに
やっぱり返してくれと（笑）。

だから僕は
２１年も任天堂にいるハメになったんです。

（笑）