3. 大型一発ゲーとして

岩田

『うつす』は、ゲームというよりは
おもしろい動画をつくるツール
と言ったほうがいいかもしれないですね。

そうです。
ですから、変な写真を撮るためには、
どんな動作をしたらいいかみたいなところから
ゲーム部分を考えるようにしました。

岩田

ふつうのゲームのつくり方と
主客が完全に逆だったんですね。

たとえば首をぶるぶるふるとき、
人にはあんまり見られたくないですし、
自分でもそのときの表情は見る機会がないですよね。
そこで、首をふるゲームを考えたりとか。

岩田

そういうことは理詰めでつくれるんですか?
それともつくったものをいろんな人にさせて
それを観察していたんですか?

観察しました。
でも社内からどんどん人が減っていきますので・・・。

岩田

ワナをかけられる初心者が(笑)。

一同

(笑)

そんな厳しい状況のなかで、
初心者を見つけては、ちょっとやってもらって、
やりにくそうなところを観察して
何の説明がなくてもできるように調整しました。

岩田

ちなみに印象的な反応をした人はいますか?

1人、怒った人がいました、やったあとに。
最初は「なんだなんだ!?」とか言いながら、
遊んでくれてたんですけど、
最後に自分の顔が写っているのを見たときビックリしたみたいで、
「何だよバカヤロー!」と、
DSiに向かって怒ってたんです(笑)。

一同

(笑)

岩田

誰がですか?

竹内高さんです。

岩田

竹内高さんって、うちの?

はい。

岩田

『メイドインワリオ』や『リズム天国』の
キャラクターを描いた竹内高さん?

はい。
「こんなの聞いてないよー!」と叫んでました(笑)。
たぶん、純粋な人ほど怒ると思います。

岩田

熱いなあ、怒り方も(笑)。

一同

(笑)

岩田

これは人にやらせるのがおもしろいゲームなんでしょうね。
自分でやる以上に。

人がやってる姿を見ていて、
その人が最後に自分の表情を
見たときのリアクションがご褒美です(笑)。

岩田

ゲームの新しい構造ですね。
自分が費やした以上のものが返ってくるから
ゲームっておもしろいものだったのに
これはちょっと違う。

阿部

そういった面でも
手品に近いのかな、と思っています。

岩田

うん、なるほど。

阿部

ただ、怒らないまでも、
やっぱり撮られるのはイヤだ、という人も
出てくるかもしれないと思うんです。
そこで、次のゲームをはじめると
前に遊んだ映像はすべて消えるようにしました。

DSiのフタを閉じただけでも消えちゃうんです。
その場で笑って終わりにしようと。

岩田

たしかに写真が消えてしまえば、
あとからこっそり見られることもないですしね。
わたしみたいに(笑)。

一同

(笑)

阿部

それと、DSiのガイドラインのなかに
カメラで写真を撮るときは
必ず音を出さなきゃいけないという決まりがあるんですが、
今回の『うつす』では、ゲーム中に音が鳴りはじめると、
遊べなくなってしまいますよね。
そこで、撮影した映像や写真を消してしまうことで、
その問題に対応するようにしました。
さらに、もうひとつの仕様として、
ゲームが成功しないと
映像や写真は撮れないようにしています。

ですからたとえば、電車のなかとかで
隣に座った見知らぬ人を撮ろうとしても
ゲームが成功しないから
撮影は不可能なんです。

岩田

ただ、せっかく撮った楽しい映像を
残したいという人もいるでしょうね。

逆に残せないというところから、
次はもっとおもしろいのを撮ってやろうとか、
そんな気持ちにもなりますし、
今回はゲームの数は少ないんですけど、
逆に何回もトライしてみようという
モチベーションにつながるかなと。
映像や写真を残せなかったことが、
いい意味で一期一会感につながっていると思います。

岩田

阿部さんはDSiウェアで出すことについて
どう思いましたか?

阿部

もしDSiウェアがなかったら、
たぶん「社長が訊く」には呼ばれていないでしょう(笑)。
今回は、プレイ中の写真を撮るというアイデアから
開発が進展していったわけですけど、
1本のパッケージソフトにするとなると
出口がなかったでしょうね。

パッケージで出すには、
それなりのボリュームが必要ですしね。
でも今回は、DSiウェアで
500ポイントで配信されることが決まってましたので、
その価格に見合った満足感が得られるように、
ゲームの仕様を決めることができて
作り手としてもやりやすかったです。

岩田

わたしは、このソフトのことを
「大型一発ゲー」という言い方をするようにしたんですけど、
森さん、それを聞いてどう思いましたか?

DSiウェアの区分には
「ツール」か「ゲーム」だけだと聞いていたので、
びっくりしました。
コレだけ「大型一発ゲー」。
なんか特別な感じがしてうれしかったです。

岩田

それくらい「やられた!」と思ったんです。
別に恨んでいるわけじゃないですからね(笑)。
外出先でも新しい人に会うたびに
「すぐに終わるからやってみて。おもしろいし」と
言いたくなるソフトですよね。
まぁ、「おもしろい」の意味が違うんですけど。

おもしろいのは、やらせたほうなんですよね(笑)。

岩田

ちなみに、どんな人にやらせるのが楽しいんでしょうね。

わたしは、ふだんゲームをやらないような
例えばご年配の方々にもプレイしていただきたいですね。
たぶん、すごい画が撮れるんじゃないでしょうか(笑)。

岩田

わたしは、やらせていちばん楽しいのは
やっぱり会社の上司だと思いますよ。
ねえ、阿部さん(笑)。

阿部

・・・はい(笑)。

一同

(笑)

岩田

それにしても『メイドインワリオ』は
新しいハードが出ると必ず登場する
代名詞のようなソフトになりましたね。
さわって、おどって、今回はうつすと。
この商品をどんなふうにお客さんが使ってくださるのか、
わたしもとても楽しみです。
ただ・・・イタズラっ子のように
いちばんワクワクしているのは
これをつくった、ここにいる人たちでしょうね(笑)。
 
みなさん本当にお疲れ様でした。