岩田
なんとか、カメラで遊ぶ機能はまとまりました。
デザイン、機能、そして本体機能も含めて、
ニンテンドーDSiはこういうものだと
ようやくみんなが実感しはじめたわけです。
ところが、宮本さんが、
「なにかが足らない」って言うんですよ。
宮本
そうでしたっけ?
・・・・・・ああ、そうそう、そうでしたね。
岩田
「音楽」です。
宮本
ぼくはニンテンドーDSiの開発自体に
深く関わってたわけではないんですけど、
これについて、岩田さんといっしょに
かなり長いレンジで話し合ってきたので、
けっこう思い入れはあるんですね。
で、ずいぶん前のことですけど、岩田さんに、
「ニンテンドーDSiではこういうことをしたい」
っていうリストを書いて渡したことがあるんです。
いろんなことが書いてあって、
現実的な仕様に落とし込むなかで、
だんだんと絞り込まれていったんですが、
そのなかで、ぼくは残ってると思ったのに、
いつの間にかなくなってたものがあったんですね。
で、ある日、もう仕様が固まりかけてた時期に
それがないことに気づいて
「あれ? 音楽はどうなったの?」って言ったら、
「ああいうのは、あとからDSiショップ経由で
ダウンロードできますから」
って言われて、「えっ!」って(笑)。
岩田
もう、開発も終盤でしたねぇ(笑)。
Wiiの開発終盤に「似顔絵チャンネル」を
無理矢理、ねじ込んだことを思い出します。
宮本
だいぶ「発売後じゃダメですか?」
って言われましたけど(笑)。
やっぱり箱を開けたときに
入ってたほうがいいよなあって、
それだけなんですけどね。
岩田
それは確かに、そうなんですよね。
標準の本体機能として入ってるのと、
DSiショップ経由でダウンロードするのとでは
お客さん全員が触ってくれるかどうかという点で
ずいぶん違いますから。
ただ、当初、「DSiサウンド」を
本体機能に入れていなかったのは、
時間がなかったせいばかりではなく、
本体機能の制作をしていた人たちなりに
考えていた理由もあったんです。
まず、音楽プレーヤーというのは、
おそらくゲーム機で使いたい人と使いたくない人に
はっきりと別れるだろうということです。
だから、使いたい人だけがダウンロードする、
という形にしたほうがいいように思ったんです。
もうひとつは、音楽プレーヤーとして使うなら、
よくあるような音楽プレーヤーを
中途半端に入れても意味がないと思ってたんですね。
すると中途半端と言われないモノにするための
アイディアがいることになるんですけど、
それを考える時間は圧倒的に足りないわけです。
ところが、そういうときに宮本さんは、
「こんなアイデアがある」って言うわけです。
こう、音の高さと再生速度の十字の絵を描いて、
タッチペンで触ることによって、
音楽のスピードとピッチを
自由に変えられるようにするわけです。
その話を宮本さんから聞きまして、
「ああ、それはおもしろいですね」って
あっさり私も説得されまして、
今度は、人をひどい目に遭わせる側に回るんです(笑)。
それまでは「もう無理です」って、
守る側だったのに(笑)。
一同
(笑)
宮本
スピードとピッチを変えられるだけで、
かなり遊べますからね。
お母さんの声をおじさんの声にして遊ぶとか、
ギターのフレーズを「耳コピ」するのにもいいし、
英会話なんかをマスターするときにもすごくいい。
だから、昔、ぼくらがテープレコーダーで、
いろいろ遊んでいたようなことが簡単にできる。
それはつくってみたいなぁと。
岩田
そういうわけで、実際に、短期間で、
「DSiサウンド」をつくることになったのが
秋房さんです。まずは自己紹介をお願いします。
秋房
情報開発本部の制作部というところで、
入社以来、宮本さんの下で
ソフトづくりを続けてきました。
今回は「DSiサウンド」と呼ばれている、
音楽プレーヤーの制作担当として参加しました。
岩田
秋房さん、このプロジェクトは
どういうふうにはじまったんですか?
ぼくらの記憶は
都合よく解釈されている可能性があるので、
ぜひ、真実を話してください。
秋房
いや、あの、おおむねそのとおりだなと思います。
一同
(笑)
宮本
ひどい目に遭ったというよりは、
自分で「食いついてきた」よね?
秋房
はい、そのとおりです。
岩田
ほんとですか(笑)。
秋房
ほんとです(笑)。
これはやるべき仕事だと、パッと思ったんです。
というのも・・・・・・ちょっとさかのぼる話になりますが。
岩田
かまいませんよ、どうぞ。
秋房
以前、私はDSの『やわらかあたま塾』の
企画に参加したんです。
そのとき、『脳トレ』というソフトがある一方で、
切り口の違う『やわらかあたま塾』があることで、
多くの人にたのしんでいただけた、
という実感があったんですね。
そしてそのあとは
Wiiの発売時に『はじめてのWii』の
ディレクションに参加したんですが、
そのときは、もう一方に『Wii Sports』があって、
2本のソフトが両輪として回転することで
Wiiの魅力っていうものを理解してもらうために
すごく効果的に働いたと思ってるんです。
で、今回、宮本さんから
「音楽はニンテンドーDSiに必要だ」という
お話を聞いたときに、自分なりに解釈して、
一方に「カメラ」という強力な軸があるところに、
「音楽」というもうひとつの軸を設けることで、
ニンテンドーDSiの魅力が立体化する、
というふうにぼくは思ったんです。
岩田
ああ、そういう理解だったんですね。
秋房
そういうふうに感じました。
そして、「カメラ」と「音楽」という
ふたつの機能が、ニンテンドーDSiにおいて、
『Wii Sports』と『はじめてのWii』のような
魅力の幅を広げる役割を
果たせばいいんじゃないだろうかと。
岩田
なるほど。
秋房
なので、まずはニンテンドーDSiの中で
「音楽を再生させる」ということについての状況を
社内中を駆け回って取材して、
それを宮本さんにフィードバックして、
その一方で、宮本さんに
「音楽や音で遊ぶソフトに関するイメージ」
を聞いて、社内にばらまくという。
そういうことを勝手にはじめてしまったので、
宮本さんが「食いついた」と
表現されたんじゃないかなぁと。
岩田
うん。そういうのを
「食いついた」って言うんですよ。
一同
(笑)
秋房
ただ、実現させるとしたら、
「これは1日も猶予がないぞ」と思って。
宮本
(笑)
秋房
それで走り回っていたら、
いつの間にかプロジェクトが成立していたというか、
振り返ってみると、そんな感じですね。
岩田
でも、私は最初ね、
「本当に、いまからやるの?」って
心配そうに言ってたくせに、
途中で大きい仕様を1個、足しましたよね。
秋房
はい(笑)、いただきました。
岩田
それはね、あの、DSって
マイクがついてるんですよ(笑)。
マイクついてるのに、
録れないのはダメなんじゃないかって。
一同
(笑)
岩田
で、声で遊べるようにしてもらったんです。
宮本さんにうかがったら、
そういう考えはあったらしいんですが、
なにしろ、時期が時期ですから、
いくらなんでもそんな人でなしなことは
言えないと思ってたらしいんです。
宮本
はい。ぼくにはとても言えないですね!
一同
(爆笑)
宮本
まぁ、ぼくが言ったのは、
どうせ録音するんだったら、その声や音を
電源を入れて立ち上げたときの
起動音とかに使えないかっていうことで。
岩田
そしたら、そういうアイデアは
松島さんの仕事に飛び火するわけです(笑)。
宮本
残念ながら、そのアイデアは、
聞こえないふりをされたんですが・・・・・・。
松島
そ、そんなことないです(笑)。
岩田
ははははは。
松島
もう、スケジュールの都合で
どうしようもなかったんですよ。
できれば、DSiのメニューには、
ハードウェア自体の魅力と
中に詰まっているソフトウェアの魅力を
まんべんなく注ぎ込みたかったんですが、
なにしろ、タイミングが・・・・・・。
岩田
サウンドを入れることに決まったのが
かなり終盤でしたからね。
メニューの部分って、根幹のプログラムなので、
どこにどう影響するかわからないから、
終盤に変更できないんですよね。
アプリケーションなんかだと、
末端にあるプログラムなので
けっこう最後のほうまでさわれるんですけど。
宮本
あと、急に組み込んだことばっかり言うと、
情熱だけでばたばたと仕上げたように
思われるかもしれませんけど、そうじゃなくて、
もともと社内には、サウンドのチームがあって、
そこのメンバーが個々に圧縮とか編集の
いろんな実験をしているんですね。
秋房さんが動き回って形にしていったのは、
社内にあったサウンドの技術を集めて、
DSiサウンドのために結集させた、
というような背景があるんです。
いろんなチームが別々に取り組んでいた、
サウンドの技術を一気に持ち寄ったというか。
岩田
社内の全然別のチームが、音をつかって
こんな実験をしていたんだけど、
これ使わない? とかね。
宮本
うん。どっち使おうか、とかやりながら。
岩田さんから指示があって、
新しい要素が持ち込まれたり。
岩田
ああ、そうですね。
ぜんぜん違うチームが
音をつかった遊びをつくっていたりすると、
「その遊びはおもしろそうだから、
宮本さんのところに持って行け」って言ったんです。
宮本
こっちはこっちで「いただいちゃおう」みたいな。
岩田
きっと、秋房さんは、
いい意味で大混乱だったと思いますけど、
はじめるとなったら
私も、人でなしですから(笑)。
で、どんなものに仕上がったか、
説明してほしいんですけど、
ことばで説明するのは、難しいですね。
秋房
そうですね(笑)。
本当は、実際にさわってもらうのが
いちばん早いんですけど・・・・・・。
いちおう、音の遊びで言うと、
たとえば、なにかひと言録音すると、
音楽ファイルと同じように
音程やスピードを変えて、甲高い声とか、
あるいは、ボイスチェンジャーを通したような
声に変えることができます。
あとは、録音した音声の逆再生もできますし、
加工した音声を記録しておくこともできます。
岩田
当然、ふつうに音楽を聴く機能も
あるんですよね?
秋房
もちろんです。
音楽プレーヤーとしても
できるだけシンプルでわかりやすくなるように、
使い勝手を追求してあります。
あと、聞いている音楽を、
部分的にくり返すこともできますから、
楽器や歌の練習をするときにも便利ですし、
英会話のレッスンなんかにも最適だと思います。
岩田
特定の場所をリピートする機能は珍しくないですけど、
こういう機能は、タッチスクリーンが活きますね。
持ち歩くことを考えると、
けっこう重宝しそうですね。
秋房
はい。あとは曲自体にフィルターをかけて
たのしむこともできます。たとえば、
古いラジオから流れるような感じにしたり、
全体にエコーをかけたり、
ファミコン風の、8ビットサウンドに
無理矢理落とし込むこともできます。
あと、まぁ、遊びの部分なんですけど、
録音、加工した自分の声なんかを、
音楽の最中に合いの手を入れるように
再生することができます。
岩田
(笑)
秋房
ついでに言うと、
これは社内の別のチームからもらったアイディアなんですけど、
音楽に合わせてドラムを叩くこともできるんです。
Lボタンをバスドラに、
Rボタンをスネアに対応させられるので、
こう、音楽を聴きながら、
♪ズンタン、ズンタン、と。
岩田
時間がなかったとは思えない充実ぶりです(笑)。
ところで、映像をご覧になった方は、
「なんでサウンドの画面なのに
『スーパーマリオブラザーズ』が映ってるんだ?」
って疑問に思うんじゃないでしょうかね。
秋房
はい、こちらは、
コインが置かれている高低差が、
流れている音楽の音量をもとにして
生成されているんです。
岩田
あきれますねぇ(笑)。
秋房
しかも、
『スーパーマリオブラザーズ』だけでなく、
『エキサイトバイク』など、
14〜15種類ほどのビジュアライザーを
用意しています。
岩田
本当に時間がなかったんですか(笑)?
秋房
ああ、それはいい質問です。
どうしてこういうものが
短時間で実現できたかというと、
各分野の超ベテラン、エースというような
強力なスタッフの面々に
全面協力していただいたんです。
岩田
そのあたりは、
宮本さんの一声も利いてますね。
宮本
ま、スケジュール的に
無理なことを言い出したぶん、
最強のスタッフによる全面サポートで。
岩田
(笑)
秋房
ですから、つくるということに関しては、
ほぼ心配なかったですね。