岩田
そのように開発がはじまって
しばらく出口から出られない状態が続いたわけですが、
そこから出られるようになったのは何がキッカケだったんですか?
村上
やっぱり英語ソフトですので、
「英語の要素をちゃんと取り込まないと」という気持ちが
ずっとひっかかっていたんです。
英語ソフトとしてちゃんと成立させないことには、
ゲームとしての面白さも生まれないと思っていたんですね。
ところが、幸か不幸かジュピターには
英語が得意なスタッフがひとりもいなかったんです。
そこで、考え方を吹っ切ることにしまして、
「たぶん英語の要素は後からついてくる。
われわれはゲーム屋なんだから、ゲームとしての面白さで勝負しよう」
と思うようにしたんです。
岩田
ああ、まさにその話は、「英語よりも、まず面白い物語を」
と言っていた、長野さんと同じ発想ですね。
村上
そうです。そのように考え方を変える転機になったのが、
「フルボイスでやりましょう」と決まったときなんです。
服部
原作の面白さや生の英語を表現するには
やっぱりフルボイスがいいんです。
岩田
それはいつから言い出したことなんですか?
服部
フルボイスにしようという話はわりと最初からありました。
でも、全部の声が入るかどうか不安なところがあったんです。
村上
でも、大きな容量のロムを使うことで、
なんとか納めることができることがわかったんです。
そこで、山上さんの紹介でアドベンチャーゲームの
得意なライターさんをご紹介いただいて、
その人といっしょにゲームのシステムをつくりました。
服部
そこで、英語のことはとりあえず置いておいて
日本語で遊んでも楽しめるアドベンチャーゲームにしようと。
それがひとつの転機になったと思います。
村上
それが2009年の夏くらいでした。
岩田
最初のプレゼンから、1年以上の期間を要したんですね。
そうして方針が決まって、突っ走るぞという状態になったときに、
次にどんなことがハードルになったんですか?
村上
今度はゲームとして面白さを追求したあまりに、
難易度が高くなってしまって、
初めてゲームに触れるお客さんにとっては・・・。
岩田
先に進めなくなってしまう。
村上
そうなんです。そこで難易度を下げると、
ゲームとしてのやり応えがなくなるので・・・。
岩田
作業になってしまうんですね。
村上
そうです。このバランスがものすごく難しかったんです。
さらに、ゲームオーバーにならないようにつくると、
選択肢を選んでも、リスクがなくなりますので、
遊んでいても緊張感が生まれなくなってしまったんです。
岩田
ただ総当たり的に選択肢を選べばいいので、
それ自体もまた作業になってしまうんですね。
そのような問題はどうやって解決したんですか?
村上
ゲームオーバー以外のリスクを設けて、
ドキドキ感を失わないような仕組みを入れました。
服部
それに、場当たり的に遊んでもメリットはあったんです。
アドベンチャーゲームですので、ちょっと迷ったりすると、
同じところを繰り返し聞くことになって、
それが逆に英語の学習になったりするんです。
岩田
ああ、なるほど。
迷うことで、かえって勉強になったりするんですね。
服部
ただ、そうは言ってもアドベンチャーゲームですので、
初心者の方も、ゲーム好きの方も遊べる
ちょうどいいバランスを見つけるために、
当初想定していたよりも2、3倍の時間のモニターをしました。
でも、先ほども言いましたように、最後の最後まで調整して、
その後に音声収録をする方針でつくっていたので、
音声の収録も後ろにずれてしまって、
結果的にスケジュールが苦しくなってしまったんです。
岩田
そのへんのしわ寄せが全部、石井さんのほうに行ったんですね。
服部
そう思います。
村上
台本が遅れて申し訳ございませんでした。
石井
いえいえ、とんでもないです(笑)。
岩田
でも、石井さん、勝手がすごく違ったでしょう?
実際に番組をつくることと、ゲームをつくることは
イコールではありませんからね。
石井
ぜんぜん違いました。
岩田
どんなところが違うと感じましたか?
石井
ひとつはゲームの制作期間がものすごく長いことです。
発売日はなんとなく決まっていると思うんですけど、
放送日は絶対にずらすことができませんので、
締切が確実に決まっているんです。
だから、みんなはそれに間に合わせるために
スタッフがぐわーっと動くんですけど・・・。
岩田
できなければ番組に穴があいてしまいますからね。
石井
そうなんです。ところがゲームだと
締切が決まっているようで決まっていないので・・・。
服部
やっぱり面白いものになるまでは・・・。
石井
面白くなるまでは、ということで、
どんどん中身も変わっていって、
それはもちろんいいほうに、なんですけど・・・。
岩田
中身がいいほうに変わるかもしれないですけど、
ずっと続けていると「この人たちはいつまでやるつもり?」
と思ったりしますよね。
石井
はい、その通りです(笑)。
それに、わたしたちもいろいろスタッフを抱えていますので、
どこまでその人たちを引っ張ればいいんだ、みたいな感じになるんです。
そのへんの案配をはかるのがなかなか大変でした。
鵜川
そもそもテレビ番組とゲームづくりはぜんぜん違っていて、
パソコンソフトに喩えると、テレビ番組のほうは「ワード」なんです。
番組の進行に合わせて、時系列に縦につながっているので、
ワードのように全体像を縦系列で考える習慣があるんです。
ところがゲームのほうはいわば「エクセル」で、
場合によってポンポンと横にも縦にも飛んでいくんですよね。
岩田
あははは(笑)。
この話をワードとエクセルで喩えるのは面白いですね。
鵜川
わたしたちの書類はワードで書くのが普通なんですけど、
ジュピターさんからはエクセルの書類が出てきたんです。
そこがぜんぜん違うんじゃないかなと。
岩田
カルチャーショックだったんですね。
石井
そうですね。しかも、セリフのひとつひとつに
番号が付いているのが、まずわからなかったというか。
岩田
コンピューターで動かすには
番号を付けることは避けて通れないんです(笑)。
石井
あと、「このエクセルはどこまで行けば、
いちばん下に届くんだろう?」と思うくらい、
めちゃくちゃ長くて。
岩田
(笑)
石井
横にもすごく長いですから、
監修してくださったネイティブの先生は
いつも「今回はどこまで下にあるの?」と言いながら、
英語のチェックをしてくださっていたんです。
岩田
そのエクセルの巨大な表とは
どのくらいの期間、闘っていたんでしょうか?
鵜川
確か、2010年の1月くらいに、
「台本がほぼできた」みたいな話になって、それの英訳もして、
すると服部さんが「4月中には全部録音を終わらせてほしい」と言うので、
収録のスケジューリングをしましょうという話になったんです。
岩田
えっ!? 「4月中には全部録音を終わらせてほしい」って、
いま聞くと恥ずかしくて穴があったら入りたいでしょう、
服部さん?
服部
・・・(黙ってうつむく)。
鵜川
ですので、そのタイミングくらいで、
純名さんに3月のスケジュールを空けてもらって・・・。
服部
ところが、収録は9月にずれこみましたので・・・。
岩田
あーーっ、そうか!
さっきちゃんと謝っておけばよかった!!
本当に申し訳ないことをしました。
一同
(笑)
鵜川
1月の時点で、
セリフはどのくらいの数があったんでしたっけ?
服部
1万くらい・・・そうですね。
鵜川
テレビ版の『リトル・チャロ』のセリフを数えると、
全部で4800くらいだったんです。
なので「テレビの倍くらいか」ということだったんです。
ところが、スケジュールがだんだん延びるのといっしょに、
セリフの数も「1万2000になりました」
「1万5000になりました」と、どんどん増えていって、
最後にはけっきょく・・・。
村上
1万8000くらいになりました。
岩田
ああ、まあ、数は自慢するものではないのですが(笑)、
ただゲームというのは、場面場面で
いろんな反応をしないといけませんし、
その中心にはいつもチャロが登場するわけですから、
純名さんのセリフもどんどん増えていくということなんですね。
村上
そうです。
岩田
それで、純名さんのセリフの収録をするために
どれくらいの期間がかかったのですか?
石井
12日間です。
岩田
うわー、やっぱりさっき謝っておけばよかった・・・!!
一同
(笑)