岩田
そもそもどうして服部さんが
『リトル・チャロ』の担当になったんですか?
服部
わたしはもともと英語が得意なわけじゃないんです。
「服部さんは犬が好きだから、これを担当して」と
山上さんから言われました。
岩田
ああ、それで、企画書を見たら
チャロのかわいさにひと目ぼれしてしまったんですね。
服部
そうなんです(笑)。
岩田
そのあとすぐにジュピターさんに相談したんですか?
服部
はい。もともとジュピターさんの
グラフィックセンスがすごく好きだったので、
チャロを表情豊かに、かわいらしくしてくれるに違いないと思って、
最初にお話をさせていただきました。
村上
ありがとうございます。
岩田
村上さん、『リトル・チャロ』の話が突然やってきて、
戸惑いませんでしたか? ゲーム屋さんとしては。
村上
実は僕、それまでにいくつかの学習ソフトの案件を
担当していましたので、最初はわりと
得意なジャンルだと思ってお受けしたんです。
岩田
でも、今回の『リトル・チャロ』は
いわゆるこれまでの学習ソフトではありませんよね。
村上
ええ。ですから、1回目の企画提案をさせてもらったとき、
「学習色が強すぎるからダメです」とNGが出たんです。
「そういうのではなくて、勉強をしたくないような人が
楽しめるソフトにしたいんです」と。
それがまず、ひとつ目の大きな壁でした。
岩田
「勉強をしたくないと思っている人が
できるようなソフトじゃないといけない」というのは、
第1部で長野さんが話してくれたコンセプトと
すごくかみ合っているんですけど、
服部さんは最初からそれをつかんでいたんですか?
服部
そうですね。というのも、いま放送中の
『リトル・チャロ2』のキャッチコピーに
「いい話を見るだけの英会話」というものがあります。
わたしはそれを聞いたとき、「夢のような話だなあ」と思いました。
つまり、いい話を見るだけで英語ができるようになるんだったら、
「そんなに素晴らしいことはないな」と思ったんです。
岩田
少なくとも英語への苦手意識や
嫌いな気持ちが減るという意味ではそうですよね、きっと。
服部
はい。なので、ゲームもそういう方向でいくべきなんだろうと。
もともとわたしには、英語への苦手意識がありますし、
プロデューサーの山上さんはその気持ちがなおさら強いのですが、
同じような想いをしている人はいっぱいいると思うんです。
岩田
たぶん、日本人の大多数はそっちですよね。
服部
ですよね。で、DSでも『えいご漬け』(※11)だったりとか、
英語系のソフトはいっぱい出ているんですけど、
やっぱりちょっと敷居が高かったりですとか・・・。
※11
『えいご漬け』=『英語が苦手な大人のDSトレーニング えいご漬け』。2006年1月に、DS用ソフトとして発売された英語トレーニングソフト。第2弾の『もっとえいご漬け』は、2007年3月発売。
岩田
『えいご漬け』は英語への学習意欲がある人に向いてますよね。
面白い要素はいろいろありますけど、
基本的にはストイックなソフトですから。
服部
でも、『リトル・チャロ』はそうではなくて、
まさに「いい話を見るだけの英会話」じゃないですけど、
「面白いゲームを遊ぶだけで、英語に親しむことができたら、
こんなに素晴らしい話はないよね」
という発想からはじまっていますので、
ジュピターさんが最初に企画を出してくださったときに
「こんな修業みたいなことはできません」と、
そういう話からはじまりました。
村上
そうでしたね。で、そのときに
もともとチャロが持っているかわいらしさをベースに、
「ゲームとしてとにかく面白いものをつくってください」
というお話をいただいたんです。
岩田
それで、チャロが冒険する
アドベンチャーの構造になったんでしょうか。
村上
その時点ではまだアドベンチャーではありませんでした。
ただ、そのときにもうひとつ言われたことがありまして、
「ゲームオーバーの仕組みを絶対に入れないでください」
ということがありました。
岩田
服部さん、
「ゲームオーバーを入れないで欲しい」という、
その心は何だったんですか?
服部
やっぱりゲームオーバーになるというのは、
自分をちょっと否定されているような、
そんな感じがあるように思ったんです。
岩田
自分が努力して、ようやくここまで来たのに、
「ゲームオーバー」と言われると
「わたしは何だったの?」と意欲がそがれてしまうということですか?
服部
そうです。シンプルなゲームだったら、
それはモチベーションにつながったりすると思うんですけど、
自分が英語を頑張ろうとしているのに、
そこで「ゲームオーバー」と言われてしまうと・・。
岩田
「ゲームオーバー」と「いい話を見るだけの英会話」は
相容れないというわけですね。
服部
はい。「見ているだけで、慣れ親しめるように」
というコンセプトからすると、
ゲームオーバーというのは違うんじゃないかという話を
最初からしていました。
岩田
ちなみに、村上さんはゲームオーバーのないゲームを
これまでにつくったことはありましたか?
村上
いや、全くありません。
岩田
じゃあ・・・どうしていいかわからないですよね。
村上
はい。ですから、けっこう悩みました。
岩田
そこからしばらく悩みの時期に入ったんですか。
村上
のちにハードルが高くなる原因にもなりましたし。
岩田
わたしが山上さんとの定例面談で、
「『リトル・チャロ』はどうなってますか?」と聞いたら、
「いや、あれはもうちょっと待ってください・・・」という感じで、
それ以上、詳しく聞こうとすれば
気まずくなるような雰囲気があったんです(笑)。
きっと、その時点では、先が読めてなかったんだと思います。
そんな期間がしばらく続いていたような記憶があるんですけど。
服部
1年くらいはそういう状態だったと思います。
村上
そうですね。
服部
最初の1年間は、
わたしたちとNHKエデュケーショナルさんの間でも、
ちょっと気まずい感じがあったんです。
まったく何も進みませんでしたから、
「どうなっているんだろう?」
と思われていたのではないかと思います。
岩田
鵜川さん、不安になりませんでしたか?
鵜川
不安というか、ほとんど連絡を取り合っていない状態でした。
数カ月経ってから「若干進んでいます」みたいな連絡があって、
「・・・じゃあ一応、企画は生きているんだな」と。
服部
(笑)
岩田
「この人たちは本気なんだろうか?」
とか思われませんでしたか?
鵜川
いやいや、本気だとは思っていました。
ただ、任天堂さんもいろんなソフトを何本も、
同時につくられているのはわかっていますから、
もしかしたら後回しになってるのかなと(笑)。
服部
ぜんぜん後回しになんかしてません(笑)。
ちゃんと全力でやってたんですけど・・・。
岩田
確かに、ある時期の服部さんは
『リトル・チャロ』にかかり切りになっていましたよね。
服部
はい、頑張っていたんですけど、
「進んでますよ」という連絡をしたいと思いつつも、
「ほとんど進んでいないから、とくに何も言うことないし・・・」
みたいな期間がずっと続いていたんです。
岩田
お互い、東京と京都とに離れているだけに、
余計に様子がわかりにくいところもあったんでしょうね。