6. 「今回の“カノジョ”は、カレシを認識するんです」
岩田
いま、内田さんはニンテンドー3DS用ソフトとして
『Project ラブプラス for Nintendo 3DS(仮称)』(※16)を
制作されていますが、内田さんが
3DSをはじめて見たとき、どう思われましたか?
内田
“裸眼立体視”っていうお話をうかがったときに、
「え? どういうこと? 意味わかんない」ってはじめは思ったんですが、
実際のものを見せていただいたとき、ものすごく感動しました。
そうしたらその後、E3(※17)で3DSの一報を聞いたお客さんたちが、
「お義父さんは(3DSで)『ラブプラス』を当然考えているだろう」と(笑)。
岩田
お義父さんとしても考えざるを得ない、ということですね。
でも『ラブプラス』にとってひとつの悩みは、
立体視は横方向に画面を置かないと使えないので、
いわゆる“ラブプラス持ち”(※18)ができないんですよね。
内田
はい。立体視に関しては確かにそうですが、
3DS本体の“ジャイロセンサー”(※19)を使えば
横持ちと縦持ちの切り替えができますから、
立体視を補って余りある魅力が出るはずなんです。
立体で見たいときは横持ちで、
大きく見たいときには縦持ちで、と好き勝手にできるのも
ジャイロセンサーならではの特徴のひとつなんですよね。
いま開発の真っ最中ですが、ジャイロセンサーだと
ちょっとこう・・・ついのぞき込んでみたくなったりして、
楽しいんですよね(笑)。
岩田
“帰ってこられなくなる度”が増していますね(笑)。
内田
つまり、“ジャイロセンサー”と聞いて考えたときに
“カノジョ”はそこにいるんだから、「自分が動けばいいじゃない!」、
後ろ姿を見たいんだったら、「自分が回っちゃえ!」ということなんです(笑)。
いま、そういうのを試しているんですけど、本当に面白いんです。
岩田
それからAR(※20)技術に
面白そうな可能性が秘められていますね。
内田
3DSにカメラが搭載されているので、
『ラブプラス』の“カノジョ”とお客さんが
記念撮影をできるのは、本当にありがたいです。
それにしても立体写真の面白さは、本当に驚きますね。
岩田
立体視とAR技術が組み合わさった
何ともいえない存在感がありますよね。
内田
静止した3Dの世界に自分が入る奇妙さもありますよね。
まるで時間を止めるSFの空間に、
自分が紛れ込んだイメージがあると思うんです。
世界が静止していても、自分だけが動ける奇妙さというか・・・。
いわば、異次元空間をのぞき見てしまったような
怖さがあるように感じます。
岩田
ありえないものをのぞいているから、
不思議な感じになるんですかね。
内田
それから『nintendogs』(※21)でも、
ワンちゃんがパーッと走ってきてモニターに手をかけたとき、
「あっ、ここの空間にいるんだ」ってイメージが
端的に伝わってきたんです。
完全にディスプレイだったモニターが
あっちとこっちの世界を隔てるガラスになった感じがしました。
岩田
別の世界とこの窓がつながっている感じですよね。
その感覚を“どこでもドア”(※22)と表現された方がいるんですけど、
わたしも「ああ、なるほどなあ」と思いました。
ところで『ときめきメモリアル』の『ガールズサイド』をつくった内田さんは、
『ラブプラス』の『ガールズサイド』をつくらないんですか?
内田
えー・・・じつは、『ガールズサイド』のお客さんから、
ものすごく聞かれるんです(笑)。
どうしたらいいのか、ずっと考えていまして。
多分、単純に『ラブプラス』の性別を変えればいいわけではなく、
かといって、お客さんがおっしゃることを全部まとめても、
本当に望まれていることかといえばそうではない。
岩田
おそらく“驚かないと心は動かない”ですからね。
内田
「自分が望んでいたのは、こういうことだったんだ」
という発見を提供することができないと、意味がないですからね。
それをいま研究している最中なんですが、
自分のなかでちょっと答えが見えてきたところです。
岩田
おおっ、注目発言ですね。
いままでの流れからいうと、
内田さんはつくってしまうような気がします。
内田
『ラブプラス』も糧にした、
集大成としてつくることになると思います。
いままでわりとオーソドックスな恋愛ゲームを
つくってきたなか、3DSになったことで、
僕のなかでもパラダイム(概念)が大きく変わったんです。
岩田
そのキッカケは何でしたか?
内田
やはり、3DSのディスプレイのなかに
別の世界があるというリアリティを強烈に感じたことです。
それから、毎日いっしょに過ごしていくというところです。
この感覚を『ラブプラス』にも取り入れるつもりですので、
いままでとは全然違う作品を提供できそうな予感があります。
岩田
3DSでパワーアップした『ラブプラス』は、
いったい世の中にどんなインパクトを与えるのか。
ちょっと楽しみなような、でもやはり怖いような気持ちです(笑)。
内田
今回は、よりコミュニケーションも強化していまして、
たとえば『nintendogs』の“子犬が飼い主の顔を認識する”ように、
今回の“カノジョ”は、カレシを認識するんです。
だからカレシ以外の方が遊ぼうとしたら、
怪訝(けげん)な顔をして「どちらさまです?」みたいに言われて
プレイできないようになっています。
岩田
カレシじゃないと、さわらせてもらえないんですね。
内田
カレシ同士で、3DSを見せ合って
自分の“カノジョ”を紹介し合うこともできます。
岩田
内容を想像すると、結構シュールですが・・・(笑)。
内田
たとえば僕が「友だちの岩田くんです」と“カノジョ”に紹介すると、
次に会ったときに“カノジョ”が「あ、久しぶり!」と言います。
しばらくすると、“カノジョ”が「岩田くん、何してるかなぁ」と
自分に話題をふってくるんです。
岩田
ああー、それはすごいですね。
内田
そうしてコミュニティが広がっていけばいいなと思います。
岩田
リアルとバーチャルの境界がどんどん溶けていきますね。
ニンテンドー3DSはネットワークが強化されていますから、
通信でもどんどんコミュニティを広げていただきたいです。
3DSの『ラブプラス』後の世界は、どうなるんでしょうか(笑)。
完成を楽しみにしています。
今日はどうもありがとうございました。
内田
どうもありがとうございました。