岩田
実際に「DSのなかに“カノジョ”がいる」と感じられるほどの
レベルまでつくり込むのは大変ですよね。
どのくらい試行錯誤されていたんですか?
内田
じつは企画から完成まで数年かかりました。
本当にトライ&エラーで、最初のひらめきから
ビジョンに近づけるのがいちばん大変なところでした。
岩田
携帯機としてはかなりの長期戦ですね。
つくる方法をゼロから確立したわけですよね?
内田
はい。かわいさの演出には自信があっても、
それを表現する方法がなかなか進まなかったんです。
それでメンバーの気持ちもバラバラだったんですが、
全員の気持ちがガラッと変わったキッカケが、
声優さんにお芝居を入れてもらったことでした。
岩田
声優さんが命を吹き込んだんですね。
内田
そうです。声優さんが本当にいいお芝居をしてくれて、
「僕らのつくっているものは、このお芝居には全然足りない」
とスタッフが気づいてくれたんです。
そのときからチームが本格始動した感じがします。
岩田
求めているものの水準がハッキリしたんですね。
『ときメモ』とは違うので、
まとめ方もまったく変わるでしょうから。
内田
はい。エンディングがなく、まったりと遊ぶ携帯ゲームなので、
好きな時間に、盆栽のようにコツコツと遊ぶものだと思います。
岩田
盆栽のようにですか・・・すごいたとえですね(笑)。
普通、盆栽と“カノジョ”は、
人の脳のなかでつながっていませんけど。
内田
でも、恋愛は盆栽のようなものではないでしょうか。
岩田
あ、お義父さんの名言です(笑)。
「盆栽のような関係でDSのなかの“カノジョ”とつき合ってほしい」
ということがつくり手としての意識なんですね。
内田
はい。とはいえ1日5~10分遊んだら、
やることがなくなってしまうのもダメですから、
熱心な恋愛ゲームファンのお客さまが
短期間に情熱をガーッと注ぎ込めてさらに長く遊んでもらえる、
ハイブリッドな作品をめざしました。
岩田
でも、それは一見、二律背反ですよね。
内田
そこで考えたのが“スキップモード”でした。
通常は“RTC(リアルタイムクロック)”(※14)で
現実の時間とリンクしたイベントを楽しめるんですが、
“スキップモード”では、日にちは進まないまま、
カレンダーをスキップして好きなタイミングで楽しめます。
モードをRTCに切り替えれば、普通に時間が進みはじめるので、
ふたつの遊びを同時にできるようにしたんです。
岩田
現実にはない時間の進み方をするモードをつくることで、
情熱を注ぎ込みたいお客さんにも対応できるようにしたんですね。
内田
そういうモードを急きょ、途中から入れました。
岩田
でも、途中で変えたら現場が騒然となりませんでしたか?
内田
ええ、それはもう、大変でした。
スタッフに囲まれて大変な勢いでしたから。
「何言ってるんですか!」
「さんざん間に合わせてくれって言ったのに!」と言われて・・・。
ただ、なんとか途中までつくってはいたんですが、
発売が近くなってもまだ不十分な感じで、ずっと悩んでいたんです。
それで上司に進捗報告をするときに、ディレクターに相談もなく
「待ってください、すみません、やめます。
もう半年間つくり直します」と言ってしまったら、
となりで報告を聞いていたディレクターの顔が
仁王のように変わっていきまして・・・。
あとで1時間くらい説教されたんですが、
でも、どうしてもこのまま出すのはまずい気がしたんです。
岩田
そんなことがあったんですか。
内田
それで僕は、「ごめん、ちょっとこれでは自信が持てないんだ」
「このままだとちょっとまずい気がするんだ」
みたいに言ったんです。
それで最初はディレクターも怒っていたんですが、
3日ぐらい経ってから
「内田さん、僕もちょっと頭冷やして考えました。やりましょう!」
と言ってくれて、その後もずっとつき合ってくれたんです。
岩田
きっと、そのころには大きなポテンシャルを感じさせる手応えが
見えていたんでしょうね。
内田
ああ、ありました。でもディレクターが
バラバラになりかけたチームを説得して集めてくれたんです。
彼がいなかったら、空中分解していたかもしれないです。
岩田
いいチームだったんですね。
そうやって完成させた『ラブプラス』が
世に出たとき、何が見えましたか?
内田
まあ正直、最初の反応はあまりよくなかったんです。
でも発売後、ネットで話題が大爆発して。
岩田
『ラブプラス』は、ネットでグワッと人気が出た
近年の代表的な存在のような気がします。
言ってしまえば、
みんなが「“カノジョ”自慢」をはじめましたよね。
内田
予想外だったのは、最初に注目してくれたのが
『ときメモ』第一世代の30代くらいの方々だったことなんです。
そういう意味では、本当に『ときメモ』あっての
『ラブプラス』なんだなあと思います。
岩田
初期のお客さんが大声で手応えを発信してくれたおかげで、
『ラブプラス』が成長していくわけですね。
内田
「『ときメモ』のKONAMIは、
やっぱり面白いことを考えるね」
と言っていただけたのが、本当にうれしかったです。
岩田
1作目から2作目の『ラブプラス+』(※15)をつくるにあたっては、
どんなチャレンジをされたんですか?
内田
1作目は手探りで走ってきたこともあり、
予想外のところで反応されているところもたくさんあったんです。
ですから、2作目では一刻も早くそこを直して、
遊んでいただきたかったということがありましたね。
岩田
新しいゲームは出してみてはじめてわかることが大きいですから、
その意味では、お客さんに育ててもらったんですね。
内田
はい。『ラブプラス』は行間を活かしたゲームなので、
ものすごく想像がふくらむらしいんです。
岩田
内田さんの想定していたことの100倍くらい、
お客さんのなかに広がっている感じがします。
多分、内田さんが相当細かく考えられた
3人のキャラクター設定以上のディテールを、
個々の遊び手の方が・・・
これもあえて言いますが“妄想”して
その情熱で遊ばれている感じがします。
内田
たとえばAとBという台詞があって関連性がないんですが、
台詞の前に“カノジョ”とケンカしたり、
デートでキスしたりしていたら、
同じ会話パターンでも意味が違ってくるんです。
だからお客さん個人個人の体験として、
無限に積み重なっていくんです。
岩田
人間の脳は、一見、関係のないものに
意味を見いだそうとしますからね。
内田
そういう意味で、2作目でやりたかったことは、
バーチャル体験とリアル体験が混じり合って、
より深い個人体験として刻んでいただくことでした。
それで“熱海に旅行に行く”イベントをつくり、
実際にお客さんに熱海に行っていただくことで、
旅行期間中は1日中現実の時間とリンクして
ゲームが進むようにしました。
岩田
それは「何と非常識なことを考えるんだ」
というところとの戦いなんじゃないかと思います。
でも、人が“非常識”、“不可能に決まってる”と思っていることを
実現してしまうことこそが、娯楽のイノベーションですから。
その意味では、ありえないことが
そうやって起こっていくのを見るのは、
同じ娯楽を提供する立場として
じつに痛快でしたし、すごいと思っていました。
内田
ありがとうございます。