岩田
内田さんがつくられた『ガールズサイド』は、
シリーズでいうと何作目にあたるものですか?
内田
初作です。1作目をどうつくるかというところでした。
岩田
では、すでに実績のある『ときメモ』の逆パターンを
つくる企画が、内田さんにまわってきたということですね。
内田
はい。でも、社内では「女性向けってどうだろう?」
という疑問符だらけのプロジェクトではありました。
なかなか自ら手を挙げにくい企画といいますか・・・。
岩田
ああ、なるほど。
正直、難しいタイトルで、いわば逆風が吹いているような
“火中の栗を拾う”プロジェクトだったんですね。
でも、上司に内田さんが「何でもやります」って
言ったから、それがまわってきたということですよね。
どんな大変なことがありましたか?
たとえば周囲の不理解とか、変なプレッシャーとか、
「どうせなら女の子が描きたい」というデザイナーがいるとか・・・。
内田
まさに、いまご想像のことは、すべてありました。
岩田
それは、かなりすごいですね(笑)。
内田
それからもうひとつ、つけ加えて言うと、
やる気はあるんですが、愛が深くて濃くて、
入れ込みすぎてしまう女性のプランナーがいて、
内容がすごく狭くなってしまうおそれがあったので、
軌道修正することからはじめました。
岩田
それ・・・ゲームデザインをして、はじめての仕事ですよね。
内田
そうです、はい。
岩田
大変じゃなかったですか?
内田
大変でした。
本当に、泣きそうな状態で・・・。
岩田
泣きそうな状態ですか(笑)。
内田
その女性と僕のふたりではじまったプロジェクトで、
しかも社内では
「女性向けの『ときめきメモリアル』なんて、ないない」
っていうような、逆風を感じていましたから。
「やりますっ!」と勢いで言っちゃったものの、
恋愛ゲームすらやったことのない自分が本当にできるのか、
不安もありましたし・・・。
でも、いろいろ恋愛ゲームを研究していくなかで、
男性向けの『ときメモ』は面白いと思えたんです。
岩田
では、最初に『ときメモ』にはまっている若い人たちを
お説教された内田さんが、実際にやってみたら
「面白い!」って思えたんですね。
内田
はい、徹夜でやっちゃいました。
岩田
あ、徹夜ですか(笑)。
内田
3年目の2月14日に詩織ちゃん(※10)が真っ赤な顔をして
手作りのチョコレートを持ってきてくれたときは、
もう、小躍りせんばかりでした(笑)。
岩田
わたしは、以前、『ときメモ』にはまっていた会社の後輩から、
「高校時代の、あの甘酸っぱい気持ちがよみがえるんですよ」と、
すごく訴えられたことがあります。
内田
本当にそうなんです。
それで僕自身、「面白い!」と思えたんだから、
気持ちをお客さんと共有できることを確信しました。
一方で、当時の女性向けの恋愛ゲームといえば、
ファンタジーっぽい世界観のものしかなかったんです。
でも残念ながら、僕には面白さが理解できなかったんですね。
だから、そこを後追いしても勝ち目がないと思いまして、
考え抜いたとき、高校時代に、
一時期少女漫画を読みあさった経験を思い出したんです。
岩田
それは具体的にはどんな作品ですか?
内田
くらもちふさこ先生(※11)の漫画で、すごく面白かったんです。
それから僕はわりと純文学が好きでしたので、
ファンタジーの世界ではなく、少女漫画や文学のような、
王道の展開ならできるんじゃないかと思いをめぐらせていたんです。
そこでふと気づいたのは、当時、ゲームの世界では
恋愛コンテンツは男性のもの、という印象が強かったんですが、
ドラマや映画や小説における恋愛コンテンツは、
じつは女性のほうが圧倒的に支持者が多いということだったんです。
岩田
映画やドラマは、まさにそうですよね。
内田
はい。それから
「女性向けソフトなのに男がつくれるはずがない」
と当時よく言われたんですが、
ゲームという枠をはずれて視野を広げてみれば、
女性向けのドラマも小説も映画も、
男性中心でつくっていたりしますよね。
岩田
ええ。多分、当時のゲーム業界には
そのように考えた方はいなかったんでしょうね。
だから内田さんはその世界で先駆者になったんですね。
内田
僕としては、自分のなかにあるものを
引っ張りだして並べるしか方法がなかったんです。
それで自分で信じるままにやってみようと思って、
キャラクターもシナリオも、全部自分で考えまして、
徹底的にやったものが『ガールズサイド』の1作目でした。
岩田
どのくらいの期間でつくられたんですか?
内田
方向性が固まるまで約半年で、
全部ふくめてまるまる1年半ぐらいです。
岩田
じゃあ、ソフトは1年でつくっているんですね。
内田
はい。幸い『ときメモ』のひな形はありましたので、
棚卸しのように仕様をひとつひとつ確認していったんです。
「女性向けにするにはどうしたらいいだろうか?」とか、
「難易度を変えたほうがいいのかな?」とか。
岩田
いや、それ、はじめてゲーム制作に携わる人の手口とは思えないです。
あっという間に大事なポイントを見つけていますから、
きっと“天職”だったんですよ(笑)。
企画者の大切なことは、
どう切り口を変えて考えるかという“発想力”と、
要素をどう分けて整理するかという“構成力”ですよね。
お話をうかがっていると、ものすごく理にかなっていて、
内田さんは企画者に向いていらっしゃったんですね。
内田
そうだといいんですが(笑)。
ひとつには、僕のまわりではみんな、
ゲームが大好きな青春時代を送っているのに、
僕はゲームをしないで過ごしてきたことに対する
劣等感があったんです。
だからこそ、お客さんが「どう思うのか?」と
よくよく調べないと怖くて仕方がなかったので、
そこが結果として、うまく作用したのかもしれないです。