1. 『レイトン教授』の秘めたライバル
岩田
今日は、ニンテンドー3DSソフト
『レイトン教授VS逆転裁判』のお話をお訊きします。
レベルファイブさんの『レイトン教授』(※1)、
カプコンさんの『逆転裁判』(※2)という
一見まったく別の成り立ちを歩んできたシリーズが、
メーカーの枠を越え、ひとつになって登場するわけで、
「これはどう考えてもお訊きすべき」と思い、
それぞれの生みの親に、お越しいただきました。
日野さんは「社長が訊く」には
2度目の登場(※3)になりますね。
日野
はい、よろしくお願いします。
岩田
そして巧さん。
巧
はい、はじめまして。
岩田
はじめまして。
先日は「ニンテンドーダイレクト」の映像(※4)に
ご出演ありがとうございました。
巧
いえ、こちらこそ。
ちょっと緊張しています。
岩田
どうぞ、かたくならずに。
今日はよろしくお願いします。
巧
よろしくお願いします。
岩田
まずやはり最初に、この普通なら
ありえない企画がどのようにはじまったのか、
というところから、お訊きしたいのですが。
日野
はい。ちょっとさかのぼるんですが、
最初の『レイトン教授』をつくったとき、
『脳トレ』(※5)を意識したというのは
前回の「社長が訊く」でお話ししたとおりなのですが、
そのときじつはもうひとつ、
最大のライバルとして意識していたのが
『逆転裁判』だったんです。
「どうやったら打ち負かせるだろう?」と
かなり研究をしていたんです。
岩田
すぐとなりに生みの親がいるのに、
「打ち負かす」とまで言いますか?(笑)
巧
ははは(笑)。
日野
まあ、そのくらいの意気込みでした(笑)。
僕自身『逆転裁判』が大好きで、
ずっと遊ばせてもらっていたんです。
そのうえで『レイトン教授』をつくるときに、
改めてシリーズをプレイしなおして、
いいところと悪いところを検証して・・・。
巧
個人的には「悪いところ」が気になりますね。
一同
(笑)
岩田
まあ今日は『逆転裁判』の悪いところを
語る場ではありませんから(笑)。
でもそういう意味では、
以前に「社長が訊く」でお話しされていた、
「『脳トレ』の次のソフトをつくりたい」という思いと共に、
「『脳トレ』と『逆転裁判』がなかったら、
『レイトン教授』は生まれなかった」
とも言えるわけですね。
日野
そうなりますね。
その頃からつくり手の巧さんにも注目していて、
『レイトン教授』を発売したあとも、
「いつか『逆転裁判』とコラボできたら」と
ひそかに思っていたんです。
ただその前にはまず、
その提案がみとめてもらえるように、
『レイトン教授』をしっかり育てなきゃいけないわけで、
その思いはずっと胸に秘めていたんです。
岩田
それを具体的にカプコンさんに
お話しされたのはいつ頃だったんですか?
日野
いまから約3年前の、2010年の頭ですかね。
巧
じつはその1年くらい前、
日野さんがカプコンにいらっしゃったとき、
その席で僕は日野さんから、
構想を打ち明けられているんです。
僕はこのときのことを“お好み焼き屋事件”と
呼んでいるんですが(笑)。
日野
え? 事件になっていたんですか?(笑)
でも、たしかにお伝えしたのはそのときが最初で、
「『レイトン教授』と一緒にやりませんか?」って
直接、巧さんにお話ししたんですよね。
岩田
日野さんと巧さんは、
それまで面識はあったんですか?
日野
ちゃんとお会いしたのはそのときがはじめてでしたが、
以前から巧さんには
『レイトン教授』のソフトをお送りしていて、
お礼状をいただいたりしていたんですね。
1作ごとに「今回はこうでしたね」みたいな、
ていねいな感想をいただいていたんです。
岩田
面識はなくても、つながりはあったんですね。
日野
はい。ただ、そのとき巧さんに話したことは
まだ夢物語のようなレベルでしたので、
そこから形を整え、紆余曲折を経て、
正式な企画としてスタートするのは
2010年の1月頃になります。
岩田
そうしてはじまった企画は、
どのように巧さんとつながっていくんですか?
巧
僕はその当時『ゴーストトリック』(※6)という
ゲームをつくっていたので、
じつは最初の立ち上げには、かかわってないんです。
でも「はじまったらしい」とは聞いていて、
「へえ、どんなゲームになるのかな」と
一歩ひいて、見ていたんです。
それが(2010年)5月頃、プロデューサーに
焼き肉屋に呼び出されて・・・。
岩田
出ました、カプコンさんの伝統(※7)(笑)。
「上司がご飯をおごるときは要注意」
というやつですね。
巧
よくご存じですね(笑)。
そこではじめて具体的な状況を聞き、
「監修をしてほしい」と言われて
引き受けることになったんです。
岩田
まあ、『逆転裁判』の生みの親に
「監修してほしい」というお願いは、
ごく自然なことではありますよね。
巧
はい。ただ正直に言うと、その段階では
僕はちょっと、否定的だったんです。
僕の中で『逆転裁判』は、
「その世界だけで完結していてほしい」
という気持ちが強かったので。
岩田
ちょっと抵抗があったんですね。
その否定的な気持ちは、
いつ、どのように変わっていくんですか?
巧
きっかけという意味では
“魔女裁判”というキーワードが
僕の中に思い浮かんだときですね。
「魔法が実在する世界で、なるほどくん(※8)が
裁判をしたら一体どんなことになるんだろう?」
と考えついたところで、
イメージがふくらんでいきました。
岩田
そこに、いままでにない
新しいドラマが生まれる可能性を
見いだしたわけですか。
巧
はい。せっかくやるなら
『逆転裁判』本編ではできないことをやるべきだし、
そういった世界観と親和性の高い
『レイトン教授』のキャラクターが結びついたら、
「おもしろいことになるにちがいない」
と思ったんです。
岩田
否定的だからこその発想で、
逆に「これしかない」というアイデアを
思いついたんですね。
巧
僕の個人的な考えで
水をさすわけにはいきませんからね。
はじめてレベルファイブさんに
ごあいさつに行くことになったとき、
「何も手みやげなしでは失礼かな・・・」と思って、
そのアイデアをお話ししました。
岩田
その段階でそこまで用意するというのは、
気持ち的には完全に
乗り気に見えますけれどね(笑)。
日野
クリエーターとしての
本能みたいなものじゃないですかね。
何かを要求されたときに、
まだ乗り気ではないにしても
「自分ならこうするぞ」みたいな
心意気ってあると思うんですよ。
巧
たしかに、
「ニコニコ談笑するだけというわけにはいかないだろう」
というのはありましたね。
でもそのときは、それだけ提案したら
「じゃあ後はよろしくお願いします」って
帰ろうと思っていたんですよ。
ところがその話をしているうちに、
どうも自分がシナリオを
書くことになっているんですね。
「あれ、なんか変だぞ?」と思っていたんですが、
その場の空気にのまれて、
シナリオに参加することになっていました。
岩田
「監修だけだったはずなのに」と思いながら?(笑)
巧
はい。たぶんプロデューサーと
レベルファイブさんとの間で
密約があったんじゃないかと思っています。
日野
まあ・・・最初の作戦は成功でした。
一同
(笑)