社長が訊く
IWATA ASKS

社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

第23回:『レイトン教授VS逆転裁判』

目次

2. 反動から生まれた『逆転裁判』

岩田

『レイトン教授』のことは以前
日野さんにご登場いただいたとき、
お訊きできているのですが、
『逆転裁判』のことをお訊きするのは
今回がはじめてになりますから、
そのあたりも今日はお訊きしたいと思います。

はい、お願いします。

岩田

そもそも『逆転裁判』は
どういうきっかけから
はじまった企画だったんですか?

僕はもともとミステリーが好きで、
カプコンに入社したのも
探偵のゲームをつくりたかったからなんです。
ただ当然、入社してすぐできるわけはなく、
最初は当時の上司だった三上真司さん(※9)のもとで、
『ディノクライシス』(※10)という
ゲームをつくっていました。

※9
三上真司さん=元カプコン第4開発部部長。『バイオハザード』シリーズ4作目までのディレクター、プロデューサーを歴任。現在は、株式会社タンゴゲームワークス代表取締役。
※10
『ディノクライシス』=1999年7月にカプコンから発売された、恐竜たちとの戦いを描くサバイバルホラーシリーズ。

岩田

また、ぜんぜんちがうジャンルの
ゲームですね。

そうですね(笑)。
それで2000年に『2』を出したあと、
当時のカプコンが、若手を育てる目的で
「1年あげるから好きなものをつくっていいよ」という
社内プロジェクトが立ち上がったんです。
「これはチャンスだ」と思って、
それまであたためていた
『逆転裁判』の原型となる企画を考えたんです。

岩田

その企画はいまの形に近いんですか?

そのときはゲームシステム的な発想から
先に考えていたんですけど、
原案としてはほぼ生きていますね。
具体的に言うと、従来の探偵ゲームって
「A、B、Cの選択肢を選んで行動を決める」
というスタイルがほとんどだったんですが、
その謎を推理する過程のインターフェイスを
「新しいものにしたい」と考えていたんです。

岩田

選択肢を選ぶというのは、
いわゆるアドベンチャーゲームの
オーソドックスなスタイルですよね。
昔、堀井(雄二)さん(※11)もつくられていましたし。

※11
堀井雄二さん=『ドラゴンクエスト』シリーズの生みの親。ファミコン黎明期に推理アドベンチャーとして『ポートピア連続殺人事件』『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』などを手がけている。

そうですね。
「プレイヤーが考えている推理をどうすれば
 もっと具体的、かつ直感的に入力できるか」
という方向で詰めていきました。
そこで「ウソをみつける」という
一点にしぼりこめば、
「選択肢を選ぶよりも自然に推理と直結できる」
と考えたんです。

岩田

目の前に現れることに対して、
「あっ、ここがおかしい」と思ったら、
より論理的にピンポイントで反応できますね。

ルールも明快になるし、
そのための手段として、
たとえば証言が3つ、
そこにつきつける証拠品が5つあったら、
組み合わせて15個の選択肢があるのと
同じ構造になるんです。

岩田

「明快だけど、奥も深くなる」
ということですか?

はい。そのシステムが見えたあと、
主人公を弁護士という職業にしました。
探偵以外に何か新しいものがないかを探していて、
自分が弁護士となって裁判するゲームなら、
「それまでにない新しいものができる」
と思ったんです。

岩田

その最初の企画の、
まわりの反応はどうでしたか?

まあ、あまりよくなかったです(笑)。
“弁護士”“裁判”というキーワードに対して、
「法律は題材としてカタいし、難しそう」といった
イメージがあったんですね。
企画書を書いていたとき、
じつは夏休み中だったんですけど、
三上さんから「やめたほうがいいよ」って
自宅に電話がかかってきました。

一同

(笑)

けなげに休み中に仕事をしているというのに、
なんてことを言うんだと思いましたが(笑)、
その反動と勢いで企画書を書き上げたんです。
「裁判がテーマだけど堅苦しくない」
ということを強調する必要があったので、
強烈で個性的なキャラクターが出てきて、
「証言のムジュン(矛盾)を探して、証拠品をぶつける」
という方向性をそこで打ち出しました。

日野

ああ、その反動が、あのシステムを確立する
きっかけになったんですね。

岩田

あきらかにそうですよね。
結果的に『逆転裁判』というゲームの
フォーカスがしっかりしぼられている気がします。
まわりの人からの拒否反応を受けて、
「じゃあ共感できるものにしてやる!」と奮起して、
いまの内容に集約されていったということですね。

はい。とにかくわかりやすくしようと。
ゲームシステムに関しても、
最初は審理を一度ぜんぶ聞いてから
「この中からウソを探せ」という形式だったのを、
尋問をテーマごとに区切って、
一つひとつクリアして進んでいく感覚にしました。
「ムジュンを指摘して『どうだ!』って
 言い負かすのが気持ちいい」ゲームなので、
物語を短編形式にしてそのポイントを何度もつくって、
プレイヤーが推理する場面を増やしたんです。

岩田

なるほど。
「反対意見は悪いこととは限らない、
 むしろ、問題を解決するきっかけにさえなる」
という典型例ですね。

本当に、そうだと思います。

岩田

そういった工夫が『逆転裁判』でよく言われる
「“気持ちよさ”を生みだした」と思うんですが、
そこは最初から意識して
こだわってつくられたんですか?

正直、あまり意識していなかったと思います。
当時は7人だけの小規模なチームで
「自分たちがおもしろいと思うモノをつくろう」
というエネルギーだけでやっていた気がします。
「テンポよく遊べるものにしたい」ということは
最初から考えていたんですが、
当時の携帯ゲーム機で工夫できる演出は、
音を鳴らすタイミングやセリフ表示の間など、
限られていたので、
そこに集中してつくり込んだ結果、
「いまのような構成になった」
というところはあると思います。

岩田

システムの都合を優先すればするほど、
シナリオに制約が出てきて、
おもしろさが引き出せなくなってしまうことが
よくあると思うんですけど、
『逆転裁判』はなぜそこを解決できたんでしょう?

うーん。そこはおそらく、運がよかったのでは・・・。

岩田

ははは(笑)。

当時、僕も怖いモノ知らずの新人だったので、
細かい計算は後回しにして、
とにかく無我夢中でシナリオを書いていました。
たとえば第1作で言うと、
収録されている第2話は
最初、第1話として書いたんですけど、
いきなり重要な登場人物が
死ぬところからはじまっているんです。

岩田

はい(笑)。

そうしたら、
まわりから「いきなり過ぎる!」と言われたので、
いまの第1話を挿入して、
そのキャラクターをキチンと紹介してから
第2話につながる形にしたんです。
それが発売されてみたら、
「衝撃的な展開だ!」って言われて(笑)。
キチンと紹介されてから死んだことで、
より意外性が増したんですね。
そんな計算はしていなかったので、
その反響に、僕のほうも衝撃を受けました。

岩田

定石(じょうせき)(※12)を外したというよりも、
定石の概念がなかったんですね、きっと。
あともちろん、才能があったわけで。

※12
定石=物事を進めるときの最善手とされる方法・テクニックなど。

シナリオを書くのがはじめてだったので、
テクニックとかではないんですね。
発売されて、遊んだ方の声や反応から
いろいろ勉強させてもらって、
なるほどくんといっしょに
経験を積んでいった、という感じです。

日野

「非常によく考えられているな」と、
僕からは見えましたけどね。

おお、見えましたか。
それはよかったです(笑)。

一同

(笑)