社長が訊く
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社長が訊く『ペーパーマリオ スーパーシール』

社長が訊く『ペーパーマリオ スーパーシール』

目次

5. その場のノリで紙のネタ出し

岩田

先ほど「シールと紙ネタにこだわる」という
話がありましたけれど、
今回の紙ネタがどのようにつくられていったのか、
ちょっと興味があるんです。
これまではどちらかというと、
ペラペラの2D表現こそされていましたが、
ネタとして紙を全面的にフィーチャーするのは
今回がほぼ、はじめてだと思うんですよね。

田邊

そうですね、紙ネタに関してはおそらく
シリーズの中でいちばん極まっています。

工藤

田邊さんからは
「とにかく紙ネタを詰め込んでくれ」と
言われていたんです。
イズさんはある意味ずっと、
このシリーズでのこの世界観を
何作もつくり続けてきたので、
固定概念みたいなものがあったと思うんですけど、
僕は10数年ぶりだったので、
今回すごくフレッシュに、
アイデアを出すことができた気がします。

岩田

どんなふうにアイデアを出していったんですか?

工藤

バトルではやっぱり
「折る」とか、「ぬらす」とか、「燃やす」とか・・・
紙にどうやってダメージを与えるかを考えるんです。

岩田

ああ、紙が困ることを
ひたすら考え続けるわけですね。

工藤

はい(笑)。
それがどんどんエスカレーションしていくと、
「セロハンテープで貼り付けて一気にはがす」とか、
「画びょうでとめる」とか・・・。

田邊

想像すると、ほんまにひどい仕打ちやなあ(笑)。

岩田

ゲームというより、お笑いのネタを
つぎ込み続けてつくっている感じがしますね。

中嶋

フィールドの謎解きになると、もっとすごいです。
マップを見ながら打ち合わせの途中で、
「はい、ここでルーシー(※31)! なんて言う?」
とか、無茶ぶりが展開されるんです。

※31
ルーシー=シール星からやってきた、マリオとともに行動しいろいろなアドバイスをくれるキャラクター。

岩田

あははは(笑)。
まるで大喜利ですね。

工藤

去年(2011年)の春から夏にかけて、
エアコンが壊れた暑い会議室で、
半年くらいずっとそれをやっていたんですよね。
あれは濃かった・・・!

田邊

去年の春に宮本さんに「退屈やなあ~」と言われてから、
「これはあかんな」と思ったので、わたしも一緒に
現場にずっぽり入って、ネタ出しをしたんですよ。

岩田

それは具体的に、どんなことをやっていたんですか?

田邊

え~と、まず、ホワイトボードに
コースの基本的な地形を描いて
実際に遊んだプレイヤーが
どこでどんな気持ちを感じるかを想像しながら
「ここに、こんなネタ入れたら、びっくりするんちゃう?」とか
「ここは、みんな怪しいと思う頃やから
調べた人のためになんか仕込んどこうよ」とか、
具体的なアイデアをその場で
ガンガン詰め込めるだけ詰め込んでいきました。

中嶋

でもそのつくりかたって、イズのスタッフから見て、
すごく「目からウロコ」だったんです。
それまでは自分たちでつくるときは、
どうしても起承転結みたいなものを考えて
一本道に誘導していたので、とても新鮮でした。

岩田

まあ、ストーリーから先に考えたら
そういったつくりかたになりますよね。

田邊

最初はそんな感じで、わたしと工藤さんで
リードしていったんですが、
後半はイズさんもノッてこられて、
ほとんどお任せできるようになりました。
あの、ヤギの話とかすごく言いたいんやけど、
これはネタバレになるかなあ・・・?

工藤

僕もすごく言いたいんですけど、
発売前だとちょっとまずくないですか?

岩田

じゃあ、この先でちょっとだけ
ネタバレの話をしましょうか。
 
お読みいただいている読者のみなさん、
この先はネタバレを含んだ話になりますので、
読みたくない方は、ここから先の内容は飛ばして、
次の章に移動をお願いします。

工藤

えっ、そんなのアリですか。
“社長が訊く”はじまって以来じゃないですか!?

一同

(笑)

岩田

では工藤さん、どうぞ。

工藤

はい。モノシールになるモノのひとつとして、
“ヤギのフィギュア”が出てくるんですね。
「ヤギは紙を食べる」ということで、
紙にはもう絶対的な恐怖の対象なんですけど、
そのモノをフィールドで取るのに
ひとネタ仕込みたかったんです。

田邊

それで思いついたのが、
ヤギといえば“あのアニメ”じゃないですか。
ここではあえて名前は言いませんが。

岩田

はい(笑)。

井方

さらにそこに、工藤さんがかぶせてくるわけです。
「あのアニメなら、××××ですよ」って。そこから
「キャサリン(※32)が××××に乗って来て、
 ヤギのフィギュアを運んでくれる」
というネタが生まれてきたんです。

※32
キャサリン=『マリオ』シリーズに登場するピンクの恐竜キャラクター。

岩田

あははは(笑)。

井方

演出としての整合性はひとまず考えずに、
その場の全員がノリノリでネタをかぶせていったら、
いつの間にやら、なぜか突然照明が落ちて、
山にスポットライトが当たって・・・。

工藤

そこからは見てのお楽しみということで。

岩田

はい(笑)。

田邊

あと、もうひとつ紙ネタなんですが、
「なんかここで大がかりなものがひとつほしいなぁ」
という話があったんですね。
そこで井方さんが超巨大な仕掛けをね。
あれ、すごくつくるのがたいへんだったでしょう?

井方

そうですね。内容的にはただ、
“目の前にあるけど取れないマップピースを取る”
だけなんですけど、
単に橋をかけたりするだけでは芸がないので、
そのへんにある木を1本倒したら
それがいわゆるピタゴラスイッチ的(※33)に、
コース全体をめぐって「最終的に取れる」という
大がかりな仕掛けを提案したんです。

※33
ピタゴラスイッチ的=NHKのテレビ番組から転じて、ここではひとつの動きがほかの物体に影響を与え、それが連鎖して反応を起こして最終的に目的の行動を達成することを指す。

岩田

担当者は「急に何てことを言い出すんだ!?」
って思ったでしょうね。

井方

はい(笑)。それを言った瞬間、
同席していたそのコースの担当者の顔が
固まっていくのがわかりました。

田邊

でもやっぱり、
驚きがないとおもしろくないんですよね。

工藤

まあ、イベントは半分以上、
“出落ち”(※34)ですから。

※34

“出落ち”=登場した瞬間にオチがついていること。

田邊

まあ、そうかもやねえ(笑)。

工藤

僕はゲームの冒頭の部分で キノピオたちが
階段になるシーン
をはじめて見たとき、
「え~、何これ!?」って驚きましたよ。

田邊

あっ、そうそう。わたしは15年越しで
入れてもらった紙ネタがあるんです。
見た目、おんなじキノピオが並んでいるところに、
1人だけ紙の端が折れているキノピオがいて、
それを見分ける
っていうやつです。
これ、ずっと言っていたんですけど、
一度も入れてもらったことなかったんですね。

井方

今回は、ワールド1-1にちゃんと入りました。
地味なので、わかりにくいですけど。

一同

(笑)

岩田

はい、こういうノリが全編にわたって、
注ぎ込まれております(笑)。
本当はこういった映像を
ニンテンドーダイレクト(※35)などでお見せできれば
魅力もわかっていただけるとは思うんですが、
ゲームで体験する前に先に見てしまうと、
遊んだときの感動がうすくなってしまうんですよね。

※35
ニンテンドーダイレクト=任天堂のゲームに関する新しい情報を、社長の岩田が直接お届けするインターネット中継。くわしくは、「Nintendo Direct リンク集」を参照。

田邊

むずかしいですよねぇ、そこは。

碧山

動いてないと魅力がきっちり伝わらない
そういうシーンも多いんです。

岩田

でもそういうところでは、
ずいぶんたくさん詰め込まれてる感じはしますよ。

田邊

そうですね、もちろん、まだまだあります。
見てもらいたいシーンというのは
いっぱいあるんですけど、
プレイしたときのお楽しみに
とっておいてもらえればと、思います。