岩田
宮本さんが今回の『ペーパーマリオ』で
ねばって、こだわっていたところというのは、
具体的にはどんなところだったんですか?
田邊
「これまでの世界観と大きく変えたものにしてほしい」
ということのほかに、宮本さんにプロジェクト当初から
言われてきたことは大きくは2つあって、
「ストーリーはなくていい、必要なのか?」ということと、
「可能な限り『マリオ』の世界のキャラだけで完結してほしい」
ということでした。
岩田
むずかしいお題ですね。
ある意味、ここ最近のシリーズの方向性とは、
まったく逆になってしまうわけで。
田邊
はい。ただストーリーに関していうと、
前作『スーパーペーパーマリオ』(※24)の
アンケートをクラブニンテンドー(※25)で調べたところ、
たしかに「ストーリーがおもしろい」という人は、
1%にも満たなかったんです。
「3Dと2Dを切り替える次元ワザ(※26)が
おもしろかった」という意見が多くて。
岩田
次元ワザのアイデアがあったからこそ
なりたった企画でしたからね。
「ストーリーはなくていい、必要なのか?」
というお題について、
シナリオを担当された工藤さんは、
どんなふうに考えられました?
工藤
僕はもともと
宮本さんの考えと近いところがあって、
個人的には、RPGなどでの
長大なストーリーは必ずしも必要だとは考えていなくて、
「ラスボスを倒す目的があればいいじゃん」って。
その代わりに、手軽に少しずつ遊ぶという携帯機の
特徴に合わせて、ちょっとしたエピソードや小ネタを
たくさん詰め込みました。
もともと小ネタを入れるのが好きなのもあって、
そこは逆に楽しくやらせてもらいました。
岩田
むしろ工藤さんの望むところだったわけですね。
工藤
はい。
岩田
一方、キャラクターに関してですけど、以前
社長が訊く『マリオギャラクシー』の回で
「マリオらしいデザインがはじめてことばになった」と
宮本さんが言っているんですよね。
田邊
はい、おっしゃってましたね。
岩田
「デザインが機能を表しているのが
“マリオらしいデザイン”だから、
そうじゃないものがまざっていくのが、
自分はなにかちがうと思っていた」
というふうに、話しているんです。
田邊
「トゲがあるから上から踏むと痛い」とか、
キャラクターのデザインからその存在が
納得できるようなもの、ということですよね。
岩田
そういう、なんとなく感じていたことが
ちゃんとロジックで説明できるようになると、
人ってやっぱり言いたくなるんですよね。
だからそのとき、きっと宮本さんは、
マリオらしいデザインについて語る
“マイブーム状態”だったのかもしれないですね(笑)。
田邊
ただ「新しいキャラが出せない」というのは
相当きびしい「しばり」なんです。
当然新しい敵キャラはつくれないわけですが
『マリオ』のキャラ、とくに味方側って、
実質、色ちがいのキノピオだけですし・・・。
工藤
でも、そこはまあ個人的に、
しばりがあるほど燃えた部分はありますね。
見た目はおんなじだけど、少しずつ性格もちがって、
「あっ、あなたはあのときのキノピオさん!?」とか
わかるように遊びも仕込んだりできましたし。
後半はもう完全に、自分の中に
キノピオが降りてきた感じでした(笑)。
田邊
性格悪いやつとか、忘れへんよね。
顔は同じやのに。
一同
(笑)
工藤
赤のほかに、青や緑といったキノピオが出てくるんですが、
赤以外のキノピオはとっておきで、どこで出すかを
本当に大事に熟考して、決めていったんです。
森にレンジャー(※27)を出すことが決まったときは、
「緑のキノピオ・・・おまえの出番だ!」とか、
変なテンションになったりもしました(笑)。
岩田
しばられることって、
クリエイティブにおいては
必ずしも悪いことではないですよね。
そこから新しい魅力が生まれることも多いですから。
田邊
そうですね。そういう意味では、
当初普通のRPGの構造で独自の仲間キャラなども
つくっていたんですが、
「ぜんぶシールでいこう」と決めたときに、
これまでのシリーズからの変化を明確にするために
それを含めて一度つくった構造システムを
捨てるところから再スタートした感じです。
岩田
RPGの基本的な構造を、意図的にやめたんですね。
田邊
はい。経験値やレベルの概念をやめて、
段階的に強力なシールを
手に入れられる構造にすることによって
より強い敵に対処していくかたちを取ることにしました。
じつはRPGの「経験値をなくしたい」とは
自分の中でずっと思っていて、
以前、工藤さんと一緒につくった『チンクル』(※28)でも
プレイヤーはまったく成長しないで、
ぜんぶお金で解決するシステムにしていたんですね。
それを今回は「ぜんぶシールでやろう」と。
「
バトルは攻撃コマンドの代わりに、
フィールドで集めたり、街で買ったシールを使って戦う」
そういうシステムにしたんです。
岩田
それで“シールバトルアドベンチャー”なんですね。
田邊
そうです。
シールごとにいろんな攻撃の特徴があるので、
敵との相性を考えて、組み合わせて使うことで
簡単に倒したりもできます。
岩田
なるほど。
中嶋
加えて、シールを自分でつくるという意味では、
イズ内の別グループで実験していた
プログラムがうまいこと使えたんですよね。
“ヤカン”とか“まねきねこ”とか。
岩田
“ヤカン”に“まねきねこ”ですか?
田邊
イズさんがもともとWiiで実験していた、
壁に3Dのオブジェクトを投げつけると、
ペタッと張りついてそのまま絵になるという
プログラムがあって、
それをこっちに使わせてもらったんです。
フィールドでみつけた3Dの“モノ”を
自分で壁にぶつけると強力な“モノシール”を
つくれるというシステム・・・だったんですが
これが最初、チームの大反対を受けて・・・。
岩田
それはなぜなんですか?
碧山
3Dの“モノ”をリアルなオブジェクトの表現にしたことです。
田邊さんからしきりに
「この違和感がいいんだよ!」と言われたんですが、
自分たちではどう扱っていいのやら、
最初まったくわからなかったんです。
“ヤカン”とか“まねきねこ”って
普通に考えたら『マリオ』の世界に
合わないじゃないですか。
工藤
そこはマジメなんですよねぇ(笑)。
田邊
でもわたしからすると
「リアルなヤカンの違和感が逆にフックになるはず」と
ある種の直感があったんです。
そもそも、『マリオ』の絵柄っぽいものをシールにしても、
あんまり変化ないですよね?
それで宮本さんのところに見せに行ったら
やっぱり「まあ、ええんちゃう」って
言ってくれました(笑)。
岩田
あははは(笑)。
でもやっぱりいろいろNGが出たあとだと、
どうしても臆病になりますよね。
碧山
そうですね。
「なんでヤカンなの?」って
最初は理解できなかったのが、
いまは「これだよね!」って感じですけれど(笑)。
田邊
世界観のチェックという意味では、
キャラクター制作グループ(※29)のハードルもすごく高くて、
砂漠の塔の壁画とか・・・。
これは井方さんから話してもらったほうがいいですかね。
井方
はい。えーとですね、ワールド2に、
砂漠の塔があるんですけど、
古代の遺跡感を出すために、
「
壁画を入れよう」という話になったんです。
そこでそれっぽくなるように、
いつもより頭身の多いキノピオや
ノコノコを描いてみたんです。
田邊
手足が長い人間みたいなノコノコが
よつんばいになって、
まあ、すごく気色悪いやつですよ。
井方
それをチェックに出したら、
やっぱり「気持ち悪いです」と言われて、
僕らは「やった!」と思ったんですけど・・・。
碧山
最初、それを「ほめ言葉だ」と
受け取ったんですが、残念ながら
言葉そのままの意味だったんですよね・・・。
一同
(笑)
井方
その後
いろいろパターンを出したんですけど、
マリオ寄りにすると遺跡感がなくなるし、
かといってリアルな方向に行くと
まったくの別ものになってしまうんです。
工藤
リアルにするとクリボーなんて、
ただの「しいたけ」ですからね。
井方
はい(笑)。
結局いろんなパターンをつくりつつも、
最終的には宮本さんに、
もともとの絵もお見せしたんです。
そうしたら
「もっと気持ち悪くてもいいんじゃないか?」と
逆によろこんでもらったみたいで・・・。
結果、最初のデザインでOKとなりました。
田邊
あれはちょっとビックリしましたよね。
「宮本さんだけは見せてみないとわからへんな」と。
そんなふうに、様子を探っていった感じです。
岩田
ああ、そうなんですね(笑)。
でもなんか田邊さん的には
わざとギリギリの球を投げて、
どこまで監修で許されるのかを
楽しんでいるようなところもあるんじゃないですか?
田邊
いやいや、宮本さんから
本気で怒られたときもありましたよ(笑)。
クッパの扱いかたとかで。
でもやっぱり、『マリオ』のゲームは宮本さんが
原作者として考える正統な系譜があるわけです。
その中で『ペーパーマリオ』は
守るべきところは守りつつ、
「新しいことや変わったことに挑戦するから意味がある」
そう思っています。