岩田
そうやってパナソニックさんで鍛えられた
アルゴリズム(※12)を提供いただいて
普通の活動量計にはないエッセンスが
足し算されていくのですが、
今回のフィットメーターは
どのように開発がはじまっていったのでしょうか?
杉山
まず、任天堂ならではの活動量計として
どういうものができるか考えていたんですけど、
やっぱり僕自身、「山登りで使いたい」
ってことがまずあって。
岩田
ああー。ということは、
最初は杉山さんの趣味からだったんですか?
杉山
まさに、そうです(笑)。
岩田
フィットメーターが
杉山さんの趣味からはじまったとは
思ってもいませんでした。
杉山
はい(笑)。
それで運動強度に注目したとき、
たとえば階段って、上ると
だいたい8METs(※13)くらいの
活動量があるんですよ。
ただ、普通の活動量計は
そこまで正確に対応してなくて。
岩田
そうですよね。
わたしも、昼ご飯の時は階段を使うようにしているんですが、
エレベーターを使わずに7階まで上るのは
相当きついですからね。
杉山
きついですよね、階段って。
じつは8METsって、かなりの運動に匹敵するんですよ。
あと僕、自転車に乗るときはいつも
「ハートレートモニター(心拍計)」を使って
スピードや回転数を計っているんですけど
気圧センサーがついていて高度変化も計れるんですね。
すると「あの坂が登れた!」
ってことがすごく励みになるんです。
だから松永さんと林さんのふたりに
「フィットメーターにぜひ気圧センサーを入れてくれ」
とお願いしました。
岩田
まさに、杉山さんの趣味がスタートですね。
気圧センサーを搭載してくれと
言われた松永さん、どうでしたか?
松永
実際に自転車に乗って高度変化が出たというグラフを
杉山さんが見せてくれたんですけど
正直・・・最初は「何が面白いんだろう」って。
一同
(笑)
岩田
はじめは、共感度ゼロだったんですか(笑)。
杉山
(松永さん、林さんを指しながら)
このふたり、何を隠そう
じつはあまり運動をしないんですよ。
岩田
運動をしない『Wii Fit U』ディレクター陣(笑)。
松永
僕自身、山登りとかほとんどしないので・・・。
(林さんをチラ見しながら)ど、どう?
林
いやー、山登りする人にとってはいいですけど、
あの時は、何が面白いのか、
まだつかめてなかったです、僕も。
松永
そういった半信半疑のなかで
パナソニックさんにお願いに行きました。
岩田
半信半疑の人が
お願いに行ってしまったんですね。
すみませんでした(笑)。
遠山
いえいえ(笑)。
理論的に気圧センサーは入れられると思ったんです。
ただ、山登り・・・は、
我々のターゲットにはなかったというか。
岩田
ふだん、メタボ健診を
受ける方などがターゲットなので、
山登りが趣味の方というのは
パナソニックさんの商品開発のうえで
たしかに距離的に遠いですよね。
遠山
ええ(笑)。
ただ問題は、その気圧センサーを入れた活動量計を
どうやって検証するかということで、
一定の長さと強度の運動を測定しないとダメなので、
ある高層ビルの階段を実験に使わせていただきました。
岩田
5分、10分と一定時間、
階段を上り続けないといけないんですね。
北堂
はい(苦笑)。
杉山
うわあ・・・、そうだったんですね。
岩田
測定する人は地獄ですね。
北堂
メトロノームを持ち込んで
たしかなリズムを刻みながら1歩ずつ階段を。
岩田
(頭をかかえながら)
メトロノームですか・・・。
北堂
でも、やっぱり途中でバテてしまう人がいて。
岩田
すると、そのデータは有効にはならないんですよね。
北堂
ダメです。やり直しです。
岩田
はあー。メトロノームのリズムに刻まれて
階段を上った人のおかげで、
いま正確なカロリーを計ることができるんですね。
きつい運動の測定の精度を担保するには
誰かがきつい運動を行って
データをとる必要があることがよくわかりました。
なんか・・・理屈じゃありませんね。
遠山・北堂
そうですね(笑)。
岩田
実際に高度変化とともに
消費カロリーが計れる活動量計ができて
どんな手ごたえを感じましたか?
北堂
階段の上り下りも、詳細にグラフに表示されるので
どこでどんな行動をしたかがよりわかりやすくなりました。
自分の行動パターンがよく見えますし、
より正確な消費カロリーがわかるところもいいと思います。
岩田
最初は半信半疑だった松永さん、林さんは?
松永
はい(笑)。
実際に自分で身につけて記録をグラフ化して
はじめて「あっ」って納得できたんですよ。
杉山さんのは、他人のグラフだったから、
きっとピンとこなかったんだと思います。
岩田
やっぱり自分のグラフを見てみると
説得力がぜんぜん違いますよね。
松永
すみません・・・(苦笑)。
自分の行動を振り返る面白さが
そこではじめてわかりました。
岩田
林さんは?
林
検証のときは高度変化を加味しないMETsと、
加味したMETsと両方見られる状態だったんですが、
やっぱり高度変化を加味したほうが
「こんなに運動していたんだ!」ってわかりましたね。
階段を上るといいってことは知っていましたけど。
岩田
日常生活のなかのちょっとした運動が
数値によって「見える化」されたことで、
自分へのご褒美になるんですね。
林
はい。
ですからますます階段を使ってみようかな、
というモチベーションにつながりました。
岩田
杉山さん、ニコニコと聞いていますが
期待どおりの反応ですか?
最初は納得してなかったふたりに、
「どお?」って言いたそうな表情ですね(笑)。
杉山
はい、まさに(笑)。
僕は実際に登山で検証して
手ごたえは予想していたので、
あとはちゃんと高度変化が出るかどうか
ということが課題でしたから。
その検証のために、
稲荷山(※14)にはだいぶ登りました。
岩田
稲荷山を何回も、ですか?
杉山
ええ。納得できる運動強度にするまで何回も登りました。
林
開発の終盤は1日に2回ぐらい行っていましたよね。
岩田
ちなみに高度変化以外で
パナソニックさんにお願いした
大きなポイントはありましたか?
松永
じつは、フィットメーターにのせる
ソフトウェアの開発もお願いしています。
もともとフィットメーターは
『ポケウォーカー』(※15)がベースなので、
液晶画面に何を表示するかを並行して考えていました。
岩田
それは任天堂で書いた仕様書をもとに、
つくっていただいたんですか?
林
そうです。僕がまとめた仕様書を
パナソニックさんにご説明したんですけど、
最初はどうまとめればいいのかわからなくて
ゲームの仕様書みたいにつくってしまって
ご迷惑をおかけしました・・・。
岩田
言ってみれば、このジャンルでは素人ですから
パナソニックさんの社内でつくられる仕様書とは
ぜんぜん違って戸惑われたのではないでしょうか?
北堂
そうですね。
ええと・・・・・・戸惑いました(笑)。
一同
(笑)
北堂
会社の文化の違いかもしれませんが、
我々は最初に仕様書をつくると
最後までほとんど変えないんです。
でも任天堂さんはなんというか、
開発を進めながら徐々に商品の仕様を
つくりあげていくイメージですよね。
松永・林
・・・はい。
岩田
そういう対応に慣れていないと、
変える前提でつくってないところを
「こう変えてください」とこられると
大変だったでしょうね。
北堂
はい。そのへんのやりとりは、
何度もさせていただきました。
松永・林
・・・・・・はい、すみません。
岩田
松永さんと林さんは、
さっきから苦笑いを浮かべて
静かにうなずいています(笑)。