2. 歩数計から活動量計へ
岩田
ところで、
杉山さんたちが“遠足”に出かけて
見学させていただいたときには、
すでにパナソニックさんは
活動量計を商品化されていましたよね。
遠山
はい。初代のものを今日、持ってきました。
北堂
(活動量計を見せながら)これです。
メタボ健診(※10)が義務化されたことを受けて、
それに向けて開発したものです。
岩田
活動量計の研究は
どれくらい前からされていたんですか?
北堂
5~6年くらい前からでしょうか。
“ダイエット”や“メタボ”といった
キーワードが世の中に出てきたことが、
ひとつのきっかけだったと思います。
岩田
せっかくなので、
この記事を読んでくださっているみなさんに
歩数計と活動量計の違いを
少し説明していただけませんか?
北堂
はい。まず歩数計は、加速度センサー(※11)で
カラダの揺れを感知して歩数を計測し、
その「歩数」から1日の活動量を測定します。
一方、活動量計の場合は、
中に入っている加速度センサーは同じですが
歩行以外にも家事や仕事など、
日常のいろんな活動量を測定して
消費カロリーを計測することができます。
岩田
活動量計を使えば、よりくわしく
1日の活動量を測定することが可能なんですね。
北堂
そうなんです。
たとえば、歩数計だと歩く速さが変わっても
同じ歩数に対しては同じ消費カロリーしか出てきません。
でも、活動量計は従来の歩数ではなく
活動量METsという単位で運動の強弱を計るシステムなので、
より正確な1日の消費カロリーを出すことができるんです。
岩田
歩数計では計りきれない
歩行を伴わない家事や仕事のような消費カロリーの差も
計ることができるのが活動量計ということですが、
種類によって腰や腕などつける場所が違いますよね。
北堂
カロリーを精度よく計るには“体幹”、
つまりカラダの軸に近い場所の動きを
加速度センサーで追従させるのがいちばんなんです。
たとえば足につけると、カラダの重心から遠いので
正確には計れないということですね。
岩田
カラダの軸に近い場所につけるのがいいんですね。
ちなみに今回のフィットメーターは、
腰につけて計測しますが、
ポケットに入れると、精度は変わってしまうんですか?
北堂
歩行中はそれほど変化しませんが
カラダを動かしたときポケットだけ動いてしまうと
加速度センサーが反応して誤差が出てしまうんです。
カラダに密着したポケットだったら
基本的には大丈夫です。
岩田
原理としては、
中の加速度センサーが動作を常に感知して
動いた量で活動量を推定して消費カロリーを出す、
ということですか?
北堂
おっしゃるとおりです。
岩田
とても時間をかけてつくられたと思うのですが、
開発をしていくうえでどんなことが大変でしたか?
北堂
そうですね。
最初にプログラムを考えるんですが
その検証作業が、すごく大変でした。
遠山
まず、試作機から計算される消費カロリーの推定値と
別の方法で測定した消費カロリーをくらべて、
差が小さくなるように調整しながら
自分たちが考えた論法を完成に近づけていくのですが、
じつは実験そのものがけっこう大変なんです。
岩田
どんな実験を行うんですか?
遠山
呼気を計る特殊なマスクをつけて
短時間に二酸化炭素を出す量を計測したり、
ひたすらルームランナーの上で走ったり・・・。
たくさん人を集めて何回も実験をくり返します。
岩田
たしかに、
世代や性別で結果に違いがあるでしょうから
いろんな方を集めないといけないんですね。
遠山
そうなんです。
岩田
『Wii Fit』をつくっていたときに
「開発の部屋が汗臭くなっていた」
という社内の話をちょっと思い出しました。
でも、カラダを動かして計ることが日常となるので
「みなさん、開発をしながら健康になるのかな?」
とも思っていたんですが。
遠山・北堂
(顔を見合わせて)・・・。
岩田
無言(笑)。
北堂
あのー、実験を行う開発者も
高齢化してきておりまして・・・。
一同
(笑)
北堂
データの精度を求めるには
一定の強さの運動を一定時間しないとダメなんです。
でも、開発者が途中でバテたり
強い運動データがとれなかったりして
けっこう、苦労したところがあります(笑)。
岩田
ああ、一定の強さの運動を一定時間継続しないと
役に立つデータがとれないので、
「途中でバテて動きがにぶくなっているから
もう一度やり直し!」みたいになるんですね。
北堂
はい(笑)。