岩田
先ほどの密度の話に戻るんですが、
今回はコースをじっくり遊びこむことに対して、
かなりエネルギーが注がれている感があります。
そこはやっぱり、だいぶ意識されているんですか?
元倉
そうですね。今回の『3Dワールド』は、
4人のキャラクターを選んで遊べる
マルチプレイが大きな柱のひとつではありますが、
「1人で遊んでしっかりおもしろい」
ということがまず第一のコンセプトでした。
もちろんマルチプレイで、
お客さん同士のかけあいから生まれる
おもしろさというのは確実にあるんですが、
「1人プレイだとちょっとつまらないね」
というものにはしたくなかったんです。
林田
そこはスタッフ全員、かなり意識していますね。
わたしもテストプレイでは
かたくなに1人プレイを固持して、
エンディングまで6周か7周しているんですが、
まだぜんぜん、飽きる気がしないです。
岩田
「密度もボリュームもたっぷり」なところに、
「再挑戦性バツグン」という構造を
合わせ持っていることって、
けっこうめずらしいことなんじゃないですか。
林田
NOA(Nintendo of America)で評価してくれた方も、
「リプレイバリュー(再挑戦性)が高い」という
評価をしてくれています。
岩田
コースひとつ攻略するにしても
能力の異なる4人のキャラクター(※11)がいるので
それぞれでゲーム性も変わってきますし、
プレイヤーの遊びかたによって
本当に攻略のポイントがたくさんありそうです。
宮本
今回マルチプレイにすると決めた段階で、
そのためにばっさり切り捨てた仕様というのも、
実際いくつかあるんですね。
「マルチプレイを優先するから
このカメラはあきらめよう」とか、
それらを比較的早い時期に決めています。
とくに3Dマリオの歴史はカメラの歴史でもあるので
「カメラをどう使うか」ということについては
熟練したチームでもあるわけです。
そのおかげで、できるネタとできないネタが
早くから明確になった感はありますね。
岩田
ああ、なるほど。
だから最終的にはムダがなくて、
「ちゃぶ台返し」もない。
つくった分だけ、全部入ったわけですね。
宮本
はい。そのように収まっていったのは、
やっぱり早く仕組みがつくれるチームだからこそ、
という気はしていますね。
岩田
そう言われると、「社長が訊く」の歴史の中で
「3Dマリオ=カメラの歴史」という話は、
いままであまり出てないんじゃないですか。
宮本
まあ『ゼルダ』(※12)も同じことが言えるんですが(笑)。
3Dアクションゲームは、
つねにカメラとの戦いの歴史ですから。
岩田
小泉さんも宮本さんと一緒に
NINTENDO64の『マリオ64』(※13)や
『時のオカリナ』の頃からずっと、
カメラと戦い続けてきているわけですね。
小泉
そうですね。毎回新作をつくるたび
「こんなカメラがあれば遊びやすいだろう」と
いろんなトライをしていったんですけども、
前回の『3Dランド』からは、
けっこう明確な割り切りをして、
マリオの位置から一定方向に一定距離を保って移動する
並行カメラにしぼっているんです。
岩田
カメラが一定方向からの固定になって
回り込まなくなると、
コース内で迷うことがぐっと減りますよね。
小泉
その設計を一度通ったチームなので、
それがマルチになったときに
どういうカメラをつくったらいいか、
わりとすぐにピンときたみたいなんですね。
まず「分割画面はありえない」からはじまって、
ひとつの画面で遊ぶ理想的な形が
すぐにできたので「これはいける」と思いました。
元倉
ちなみに補足すると、
1人プレイの場合はジャイロカメラ(※14)を使って
プレイすることもできます。
小泉
臨場感を味わいたい、
上級者向けのカメラ操作です。
岩田
基本的にはカメラを駆使しなくても
コースはクリアできるけれど、
それがけっしてぬるいというわけではなくて、
もっと奥深いチャレンジングな遊びも、
用意していますよ、ということですね。
元倉
はい。
岩田
そういう意味でいうと、
毎回出てくる悩みだと思うんですが、
「誰でも遊べるようにしたい」ということと、
「上手な人から『ぬるい』と言われたくない」部分は
今回どうやってつくられているんですか?
林田
そこは『3Dランド』の時に
ある程度仕組みを確立したつもりなんですが、
ゴールにたどり着くのがひとつの目標だけれども、
そこからさらに遊びこめるように、
『3Dランド』でいうところのスターメダル(※15)を
探索して集めるというのが、
上級者への遊びになっていくんですね。
岩田
はい。
林田
今回はそのスターメダルを、
グリーンスターに置き換えました。
これはなぜかというと、グリーンスターというのは
『マリオ64』からやってきた
スターを集める遊びと一緒で、
何かのチャレンジをして、
それをクリアすることでもらえるような、
一歩進めた遊びにしてるんですね。
上級者の人の中でも
よりいろんな遊びかたが楽しめるというか、
より3Dマリオに近い感覚で
楽しめるものになったのではと思っています。
岩田
たしかに、E3でさわった方々もみんな、
とてもいい反応ではあったんですけど、
つくった側から見て
「ここをいちばん大事にしている」
というところはあるんですか?
元倉
そういう意味ではやっぱり、
最初に宮本さんと小泉さんから、
『マリオギャラクシー2』での共感という話を・・・。
岩田
してましたね、盛んに。宮本さんが
「やっとマリオらしいキャラクターの定義が言葉になった」
と言っていた時期ですね。
元倉
その“共感”をキーワードにして、
チーム全体で共有していったんですが、
自分的には今回“カワイイ”という
共感にこだわっていたので、
もう、みんなが聞き飽きるくらい、
「“カワイイ”とはどういうものか」を追求しました。
岩田
「“カワイイ”の共感」ですか。
元倉
はい。単純にデザインというよりは、
そこから受ける気持ちを整理して考えたほうが、
より共感につながると思ったんですね。
林田
元倉さんの「カワイイ話」は、
わたしは横でもう、何十回も聞きました(笑)。
元倉
チームに入る人には、
一人ひとり全員にゲームのコンセプトと、
「カワイイってどういうことなんだろう?」
という話をするんです。
「カワイイ」とひとことで言っても、
人によって感じていることは
ぜんぜんちがうことだったりするので。
岩田
まあ、日本文化における「カワイイ」は
概念としてすごくいろんな意味を
合わせ持った特別な言葉なわけですからね。
元倉
そういう感覚をつなげて、
すりあわせていく感じです。
岩田
ああ、そうか。「密度がすごい」という
言いかたをしましたけれど、
その一つひとつに共感して心が動かないと、
密度を感じられないわけですよね。
宮本
ちょっと言いかたを変えると、
流行とか情報に左右されない、
「生理的に心地よい」ことを軸にしてるんですね。
それが世界中に『マリオ』が通じる原点ですから。
岩田
たしかに『マリオ』のアクションそのものは、
ローカライズ不要でできてますからね。
宮本
そうですね。
「さわったらダメなものは、
とんがってるか燃えてるかにしてくれ。
そしたらもうどんな画でもいい」って
言っていますから(笑)。
岩田
さわったら「痛そう」「熱そう」って
生理的に感じるわけですね。
宮本
そういう定義をわりと初期の段階で
デザイナーと共有してみんなが理解できたので、
そういう意味で、NGは少なかったんです。