社長が訊く
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社長が訊く『Splatoon(スプラトゥーン)

社長が訊く『Splatoon(スプラトゥーン)』

目次

5. 「深みの底にたどり着けない」

岩田

話をがらっと変えましょう。
昨年のE3の時点では、一見すると
『スプラトゥーン』はすでに
できあがっているようにも見えたじゃないですか。

野上

はい。

岩田

それからおよそ10か月くらいかけて、
いまの形にまとまったわけですけど、
おそらく世の中には、E3の直後から
「早く遊ばせて」という人も
たくさんいてくださったと思うんです。
いったいこの10か月の間に、
みなさんはどんなことをしていたのか、
という話を訊かせてください。

阪口

E3の時点では、完成度は10パーセントだったんです。

天野

10パーセントの完成度というか、
やらなきゃいけないことが
90パーセントくらい残っていた、
ということです。

岩田

“強いちから”を手に入れて
柱はちゃんと立ったし、事実、遊べばおもしろい
手ごたえのあるものもできていましたけど、
完成度は、まだ10パーセントだったんですね。

阪口

はい。そもそもE3の時点では
「ブキ」は1個だけで、ステージもひとつだけでしたし、
張りぼてのシーケンス(※14)しかありませんでしたし、
それをどうやって商品として成り立つものにするか、
ということが、E3から戻ってきてからの
大きな課題だったんです。

※14
シーケンス=あらかじめ決められている順序や手続きのこと。ここでは、ゲームを進める手順を指す。

野上

このゲームのキモでもある、
「インクを塗るのが気持ちいい」
「それで陣取りをするとおもしろい」
そして「戦略が生まれる」という遊びのサイクルは
E3の時点でもできていたんですけど、
お客さんに遊び続けていただけるものには
なっていませんでした。
そこで、そのサイクルの外側に
もうひとつ大きなサイクルをつくらなければ、と考えて
実際にいろんなものをつくっていきました。

野上

かなり増やしました。
でも、だからといって、
やみくもに数だけを増やしたわけではないんです。
「地形」と「ブキ」の組み合わせで、
遊びのバリエーションがたくさん生まれるように、
1個1個、計算しながらつくっていきました。
ただ、「ブキ」が1個増えただけでも
調整するのが大変で・・・。

野上

岩田

必勝の「ブキ」ができるとつまらないですしね。

佐藤

そうなんです。1人用のゲームだったら、
最終的にお客さんが気持ちよく遊べるように
究極の「ブキ」があってもいいんですけど、
オンラインで対戦するゲームですので、
「ブキ」に一長一短の性能を持たせられるように
全体のバランスをとるような調整を
10か月かけてやっていました。

天野

あと、ステージも
マリオクラブ(※15)さんに協力してもらいながら、
検証の時間を長くとりました。

※15
マリオクラブ=マリオクラブ株式会社。任天堂の開発中ソフトのデバッグやテストプレイを行う。

佐藤

たとえばバランスの悪いステージだと、
どちらか一方のチームが
ほんのちょっと強いだけでも
ものすごい大差がついてしまって、
逆転のチャンスがなくなってしまうことがあるんです。

岩田

そうなってしまうと、
「オンライン対戦ゲームとしてどうなんだ?」
となりますよね。

佐藤

はい。やっぱり、
最後の最後まで気が抜けない
ハラハラドキドキのバトルを楽しんでほしいので、
そこはかなり時間をかけて調整しました。

野上

それに、何かを工夫して、成果が得られると
すごい達成感が生まれますが、
どんなに工夫しても、ぜんぜん成果がなければ
たぶんイヤになっちゃうと思うんです。

岩田

工夫をした努力は、報われたいですよね。

岩田

野上

はい。なので、それがちゃんと成立するように、
ステージや「ブキ」などを、一つひとつ
ていねいにつくっていきました。

天野

で、追加で「ブキ」が増えると
ステージも検証していく必要があったんです。

野上

ですから、かけ算だったんですね。
「ブキ」を1個増やしたら、
いろんなものとかけ算のように調整して、
それはゲームが完成する直前までやっていました。

阪口

あと、いままで
対戦もので遊んだことのないお客さんや、
いきなりオンライン対戦をすることに
尻込みしてしまう方のために用意したのが
1人用の「ヒーローモード」(※16)です。
このモードを遊んでいただければ、
ある程度、対戦時のテクニックが
習得できるようにもなっています。

※16
「ヒーローモード」=迫りくるタコ軍団(オクタリアン)に1人で挑む、本格的なシューティングアクションを楽しめるモード。

天野

テクニックを身につけてから、
オンライン対戦を遊んでもらえればいいですし、
1人用とオンラインを
交互に遊んでもらってもいいと思います。

阪口

それから、友達を誘って遊べるようにと、
オフラインで2人対戦ができるモード(※17)
用意しました。そのように、
ゲームが好きな人にも、そうでない人にも
届くような製品に仕上げるにはどうしたらいいのか、
ということを考えながら、
一つひとつていねいにつくっていく、
というような10か月でした。その結果、
「対戦はとことんフェアに」
「1人用はとことんもてなす」
というゲームにできたのではないかと思います。

※17
オフラインで2人対戦ができるモード=「バトルドージョー」のこと。1人はテレビ、1人はWii U GamePadの画面を見てプレイし、ステージにある風船を割った数を競いあうモード。

天野

そうやって、みんなで10か月間、
ゲームの深みをつくるために
がんばってきたんですけど、
ちょっと心配なこともありまして・・・。

岩田

どんな心配ですか?

天野

見た目がちょっとかわいいので、
このゲームが「初心者向けの浅いゲーム」だと
誤解される方もおられるのではと・・・。
初心者の方にも遊んでいただけることは
もちろん大切なことなんですが、
「このゲームってすごく軽そうだな」とか・・・。

野上

「子供向けじゃないの?」とかね。

天野

はい。見た目からすると
「このゲームに、深みがあるの?」
というようなことを思う人も
なかにはいらっしゃるかもしれませんが、大丈夫です。
深く遊んでも、すごく手ごたえが感じられる
ゲームになっていると思います。

阪口

実際、僕らが遊んでも
深みの底にたどり着いていないんです。
ずっとずっと潜っていくんですけど・・・
まだまだ底は遠い感じです。

岩田

つくった人たちでも、
まだ底が見えないくらいなんですね。

野上

はい。たとえば、インクを塗るという
アクションをひとつとっても、
スプレーのようにまばらにインクをとばしていて、
どこかに塗り残しができるようになっているので、
いつも同じように塗ることができないんです。
雑に塗る人もいれば、
塗り残しがないようにきれいに塗る人もいて、
人の性格によって行動が分かれるのが
おもしろいんです。

佐藤

いきなり敵陣にガーッと突撃する人もいれば、
地道に足場を固めながら進む人もいて、
人によってプレイスタイルが分かれるのが
おもしろいんですよね。

阪口

僕は、塗り残しを見ると、
がまんできない性格で(笑)。
ステージには、たくさんの段差があって、
段差を降りたあとに振り向くと、
塗られてないことが多いので、
「振り向いて塗る」というのが
自分のプレイスタイル
になっています。

佐藤

基本的にはチーム戦なんですが、
バトルの最後に誰がどれだけ塗ったかも
ランキング形式で発表されるので、
そういうマメな人が、
けっこう1位になったりするんですよね(笑)。

阪口

そう(笑)。
敵を倒すことが苦手なプレイヤーでも、
チームに貢献できる要素が
遊びのなかに入っていますので、
いろんな人にいろんなプレイスタイルで
楽しんでほしいと考えています。

佐藤

ちなみに、わたしも天野さんも、
オンラインゲームが大好きなんですけど、
そんな自分たちでも、いまだに
「おもしろいものができたよね」
とか言いながら、ずっと遊び続けていますし、
ほかのスタッフたちも、
「さて、デバッグでもやるかな」
とか言いながら、夢中で遊んでいるんです(笑)。
いままで対戦シューターを
遊んだことがなかったスタッフも一緒になって、
それぞれのプレイスタイルで夢中になってました(笑)。

野上

そうそう(笑)。
普段おとなしい女性スタッフも
得意の「ブキ」で暴れまわってたりとか(笑)。

佐藤

デバッグの仕事は
とっくに終わっているんですけどね(笑)。

佐藤

一同

(笑)