岩田
70個ものアイデアのなかから
豆腐のゲームが選ばれる決め手になったのは、
なんだったんですか?
天野
やっぱり、実際に遊べる試作があった、
というのがすごく大きかったと思います。
野上
試作の時点で4人対4人のネット対戦が
できるようになっていたんです。
岩田
最初から4人対4人ができたんですか・・・。
プログラマーはやっぱり強いですね(笑)。
佐藤
(うれしそうにうなずく)
岩田
新しい構造のものをつくるときは、
“プログラマー最強説”というのがあるんですよね。
佐藤
そうですよね(笑)。
岩田
わたしもプログラマー出身ですから
この手をよく使いました(笑)。
一同
(笑)
野上
しかも、佐藤さんのつくった試作には
遊びの基本構造がしっかり入っていたんです。
その時のものは、いまとは逆で、
マップをテレビ画面に、豆腐を動かす3D画面を
Wii U GamePadに表示していたんですけど、
ときどきマップを見て相手の行動を読みながら
豆腐からインクを放出し、
自分のナワバリを広げていく遊びが
とてもおもしろくて、
「これは遊びの核になるだろう」と思いました。
岩田
ちなみに、豆腐からは
どんなふうにインクが出ていたんですか?
佐藤
豆腐に鼻をちょこんとつけていたんです。
そうしないと、どっちが前なのか
わかりませんので(笑)。
岩田
たしかに豆腐には
前も後ろもありませんからね(笑)。
佐藤
で、その鼻のあたりから
インクがドバーッと(笑)。
一同
(笑)
岩田
佐藤さんは、この企画を考えたとき
どんなことがキモになると思いましたか?
佐藤
ひとつは“隠れる”ということです。
この時のマップ画面は、同じ3D空間を
真上から見ただけのものだったんですが、
自分が塗ったインクの上に豆腐が乗ると、
色がピッタリ重なって、見えなくなるという・・・。
岩田
保護色で見えなくなるんですね。
佐藤
そうなんです。
ただ、3D画面で見ると居場所が見えてしまうので、
“伏せる”という操作をあとから追加しました。
岩田
最終的には、イカになって
インクのなかに“潜る”ようになりましたけど、
最初は“隠れる”という発想がはじまりだったんですね。
佐藤
はい。
それに、いくらなんでも豆腐だと
商品にはなりにくいですから、キャラクターを
ヒト型に替えることにしました。
井上
その時は、とりあえず手足のついた
キャラクターをデザインしたのですが、
そうしたことで、このゲームが持つ
本来のおもしろさが損なわれるような
ところも出てきました。
阪口
たとえば、
豆腐だったときは、自分のインクの上にいると
真上から見たマップではまったく見えなかったのが、
ヒト型になるとキャラクターがいるのが
うっすら見えるようになったりとか・・・。
岩田
そうなると“隠れる”意味が
なくなってしまいますね。
阪口
そうなんです。
そもそも、インクのなかに隠れたときに、
まったく見えなくなるのと、
うっすらと見えてるのとでは、
このゲームの意味がまったく違ってくるんです。
野上
敵からまったく見えなくなることで、
“待ち伏せ”や“隠密行動”ができるんですね。
すると、敵のインクが塗られている場所に向かうとき、
「このあたりに敵が隠れているかもしれない」
と、警戒する必要がでてきて
ゲームとしての緊張感がすごく高まるんです。
阪口
なので、このゲームは全部消えないとダメなんです。
あと、地形もリッチにしようと
立体にしたのはよかったんですが、
そのことで、ほころびがちょっとずつ
生まれるようになりまして・・・。
野上
このゲームはマップを上から見て
インクを塗った面積の広さで
勝敗を決めるというルールですので、
地形を立体にしたことで
「壁を塗る意味は?」となってしまったんです。
岩田
なるほど。
壁を塗っても、真上からは見えないので、
ゲームのなかで「壁を塗る」という行為が
無駄なことになってしまったんですね。
佐藤
ですから、がんばって壁を塗っても
勝敗には関係がないということで
壁を塗れないようにした時期もありました。
阪口
でも、そうすると、
遊びの手ごたえがなくなってしまったんです。
だから、あの当時は、
「壁は塗るべきだ」「塗るべきじゃない」
という議論をずっと繰り返していましたよね。
野上
そうでしたね。
キャラクターをヒト型にし、地形を立体にすることで、
ほころびが、いろいろ出はじめて、
「これらをどう解決したらいいんだろう」と・・・。
天野
その時は、それらを解決する、しない
という以前に、単純にもがいていたと思います。
野上
豆腐に戻そうか
とかも話していたのですが・・・。
天野
でも「豆腐で何万本売れるの?」と考えると・・・。
岩田
さすがに、豆腐のままでは・・・。
一同
(笑)
野上
ちなみに、キャラクターをマリオにすることも
選択肢のひとつとしてはあったんです。
岩田
10年以上も前に
『マリオサンシャイン』(※11)というゲームがあって、
ポンプを使って水を放射するアクションが
あのゲームの特徴になっていましたけど、
そのことが念頭にあったからなんですか?
野上
それ、よく言われるんですけど・・・。
岩田
まったく関係ないんですか?
野上
忘れてました・・・。
一同
(笑)
野上
「ああ、そういえば、
『マリオサンシャイン』は水鉄砲だった・・・」
と、あとになってから思い出したくらいです。
任天堂の社員としては情けない話なんですけど(笑)。
岩田
でも、まあ、ゲームの構造がまったく違うわけですし、
そもそもこれは『マリオサンシャイン』の延長で生まれる
アイデアではないですよね。
野上
はい。ゼロから遊びの構造を考えて、
それに適したデザインをしようとしていましたので、
既存のキャラクターを借りてこようという考えは
あまりなかったんです。
岩田
それで、みんなでもがいた結果、
どんな活路を見いだせたのですか?
野上
ヒト型からウサギに
キャラクターを替えてみました。
岩田
どうしてウサギにしたんですか?
井上
もともとウサギは白いので、
インクを塗られたときに、わかりやすいですし、
長い耳がなびきますので
アクションも映えるようになり、
真上から見たときも、耳の方向で
どっちを向いているのかがわかりやすかったりと
デザイン上の利点がいっぱいあったんです。
野上
それに、
「新しいゲームのキャラを
ウサギと豆腐のどっちを選びますか?」
となったときに・・・。
岩田
間違いなくウサギでしょう(笑)。
野上
ですよね(笑)。
一同
(笑)