岩田
坂本(賀勇)さんは、
要所要所で相談にのっていたんですか?
(任天堂)坂本
そうですね。
最初は佐藤さんにお任せしていましたけど。
岩田
佐藤さんは非常に好奇心が強い人で
自分でどんどん深く掘っていけるから、
じつはわたしも見守っていようと思っていました。
逆に、ひんぱんに干渉されなかったからこそ、
じっくり音を追求できたのかもしれないですね。
佐藤
はい。半年ぐらい掘りつづけて、
誰とも連絡をとらない時期もありました(笑)。
でもなんだか散漫になってしまったので、
坂本さんに相談したら、軸となることを
いろいろアドバイスしてもらえたんです。
「ノイズ君たちと耳の職人たち(ミミプロ)っていう
わかりやすい仕組みをつくったほうがいい」
と言われてから、バラバラだったピースが
ガシャンガシャンとはまったんです。
岩田
面白そうな材料はいっぱいあったんだけど、
どうまとめるべきかを悩んでいた時期があったんですね。
佐藤
ええ、だいぶ悩みました。
仕組みができた後も途中で煮詰まってしまって、
「どこか面白さが足りないです・・・」
ってまた坂本さんに相談したら、そのときも
いいアドバイスをもらって道をつくってくれました。
岩田
毎日このことを考えている役割の佐藤さんと、
ふだんは少し離れていて、
ときどき出てきたものを見たときに
お客さんとしての第一印象で
どう見えるかを考える坂本さんと、
きれいに分担できていた感じでしたね。
佐藤
はい。でも、そのときのアドバイスは衝撃だったんです。
「これはひとり用ゲームじゃなくて多人数用ゲームだと、
パッケージに書いたらどうだ?」っていう、
ものすごく思い切ったことを言われたので(笑)。
岩田
「ひとりでは遊べません」っていうことですね。
わたしも「そんな無茶な・・・」
と思ったのを覚えています(笑)。
佐藤
最初は冗談かと思いましたから。
でも、どこかで納得できる部分があって、
チームのみんなにも話してみたんです。
そうしたら・・・
ものすごくたたかれちゃいました(笑)。
岩田
まぁ、ゲームは普通、ひとりで楽しめないと
いけないことになってますからね。
佐藤
はい。ですから最終的には
もちろんひとりで遊べる仕様になっているんですが、
明らかにまわりに人がいたほうが楽しいんです。
なので、ゲームの最初にノイズ君が
「おおぜいで遊んでね」って言うようにしました。
まずは人を呼んできて、
みんなでやってもらうようにするところから徹底しよう、と
坂本さんが方向を示してくれたおかげで、
その後、僕もブレずにつくることができました。
岩田
「Wiiリモコンを持たなくてもいいから呼んできて」
というのは、このソフトの重要なポイントですよね。
(任天堂)坂本
そうですね。
やはり「みんなでやると楽しい」っていう部分の反面として、
参加していない人にとっては迷惑かもしれないですよね。
だから「これはいろんな人が参加する遊びなんだ」
ってあらかじめ認識してもらうよう、
ゲームデザインの中に盛り込むべきだと思ったんです。
佐藤
極論を言ってもらえたおかげで
割り切って考えられたので、
そこからは「みんなで楽しめる」要素を
さらに盛り込んでいきました。
岩田
それにしても・・・
佐藤さんは、ふたりのまったく違う
坂本さんのあいだでつくっていたわけですよね(笑)。
佐藤
はい(笑)。
任天堂の坂本さんもそうなんですが、
オトデザイナーズの坂本さんも、すごく情熱的な方でした。
「世の中はコミュニケーションがすごく大切です。
このゲームでは、耳を通じてコミュニケーション能力が
上がるとうたい文句にいれたいくらいなんです!」
っていつもおっしゃっていましたよね。
(オトデザイナーズ)坂本
まぁ、そう言い切ってしまうと
学術的に効果を証明するのは難しいので、
キャッチコピーにはできませんけど、
ゲームを遊んでいる方に、
「他者とのコミュニケーションに役立ててもらいたい」
という思いがあるんです。
人だけに限らず、自然や環境の中のあらゆるものとの
コミュニケーションに聴覚は重要ですから。
岩田
ああ、その話にはすごく共感できます。
コミュニケーションの力は、世の中では
“しゃべる力”や“プレゼンテーションする力”
と思われがちですが、わたしは、
“聞く力”が土台としてすごく大事だと思います。
それがあってこそ相手と適切なコミュニケーションができて、
そこではじめて相手に共感してもらえると思いますから、
結果的に相手にプレゼンテーションする能力が
高くなるんですよね。
(オトデザイナーズ)坂本
はい。一方で、やはりゲームですから
「勉強のような雰囲気はいやだなぁ」と思っていました。
だから、パッと音が流れたときに、
どこを向いていてもみんなが聞けて、
面白いと思ってもらえるようにできないか、
佐藤さんと随分話し合いました。
佐藤
ゲームにはノイズ君たち
5人のキャラクターが出てきますが、
5人それぞれ、普通の声から少し情報をなくしたり、
聞き取りづらくしたりしています。
じつは聞こえなかった部分は、
脳が勝手に補足して聞き取ろうとするんですが、
そのときに自分の語彙や経験などから補おうとします。
だから、相手の気持ちになって聞くことで、
すごく聞き取りやすくなるはずです。
たとえばノイズ君は小学生のキャラクターだから、
小学生が言いそうな話として聞くと、聞き取れるんです。
岩田
へぇー。
佐藤
たとえば「テストが・・・」って言うと、
後半は聞こえなくても小学生なら
「点数がよかった」「悪かった」って言うだろうなと
みんな想像していくんですね。
そういった部分は、心を込めて人の話を聞くための
材料になっているんじゃないかなと思います。