3. 2倍も5倍も楽しくなる

岩田

藤野さんがつくった“理詰めダンジョン”は
藤林さんの期待に応えられるものでしたか?

藤林

ええ、もちろん応えてくれてましたし、
期待以上の完成度でした。
藤野さんのエリアは2つ目なので、
わりと歯ごたえのあるものにしたほうが良かったんですが、
一方で、1つ目のエリアはデザイナー気質の人のほうが
絵的にもわかりやすいということで、
北川さんにお願いしたんです。

岩田

へえ〜、そんなふうに担当を決めているんですね。

藤林

はい。で、3つ目のエリアは
最も応用が試される場所ですので、
もともと「転移」の実験段階からかかわっている
竹村さんにお願いしました。

岩田

では、「転移」のことを熟知している竹村さん、
3つ目のエリアをつくるにあたって、
まずどんなことからはじめたんですか?

竹村

そもそも「転移」というシステムは、
応用できる範囲がとても広いんです。

岩田

さきほども「これで1本のソフトができる」と
言っていたくらいですからね。

竹村

そうです。
たとえば、叩けば「転移」する時空石を
もしリンクが持って移動できるとすれば・・・。

岩田

リンクの周辺だけが「転移」することになる、
ということですね。

竹村

はい。すると、周辺のいろいろなものが
過去に戻ったり、現在に逆戻りしますので、
そこで、どんどん新しい遊びのネタが生まれます。
当初から、そのようなアイデアがいっぱいありながらも、
1つ目、2つ目のエリアに入れきることができなかったんです。

藤林

逆に言うと、1つ目のエリアで
ものすごく面白いアイデアが出てきても、
「ここではちょっと・・・」
みたいなことがあったんです。

岩田

まぁ、いくら面白いことでも、
最初のステージから難易度の高いことを
やってもらうわけにはいきませんからね。

竹村

そうなんです。
当初から「転移」を使った
たくさんのバリエーションが生まれていたので、
「それを使わないのはもったいない」という話になって、
わたしが3つ目のエリアを担当したという経緯もあります。

藤林

使い切れてない、面白い「転移」ネタが
まだまだたくさん残っていて、
そういったネタを応用して、竹村さんに
面白さをどんどん拡げてもらいました。
なので、いちばん「転移らしく」遊べるのは
3つ目かもしれません。

竹村

わたしの担当したなかには、過去と現在の、
タイムパラドックス的なネタも入っていますしね。

藤林

だから、「転移」のシステムを最も活かした、
いちばん“ゼルダらしいエリア”と
言えるんじゃないかと思います。

岩田

そもそも「転移」という仕組み自体が
『ゼルダ』で初めて登場したものですから、
遊ぶ人はもちろん、つくる人たちにとっても
すごく新鮮だったということなんですね。

竹村

そうです。
つくるのはすごく新鮮だったんですけど、
実際に「転移」を実現しようとすると、
すべてのデータが“2個もち”になってしまいます。

岩田

ああ、確かにそうですね。
過去と現在のデータを、すべて2個ずつ
用意しないといけないんですね。

竹村

敵から地形まで、リンク以外のすべてのものを
2個ずつ、つくる必要が出てきます。

北川

なので、「砂漠」の3つのエリアをつくった僕たち3人は、
プログラマーさんにも、サウンドさんにも、
エフェクトさんにも、デザイナーさんにも、
それぞれ2個つくってもらわないといけないので、
その分、ものすごく楽しい企画を
考えることが求められたんです(笑)。

岩田

2倍つくって、1.5倍しか楽しくないと・・・。

北川

そうなんです。
みなさんを説得できませんから。
「ああ、それならぜひやりましょう!」と言ってもらえる、
そんな楽しい企画にしなければならない、
ということになってしまいました(笑)。

岩田

「2倍つくると、3倍どころか、5倍楽しくなるんです!」と
言えるような企画にしないと、スタッフのみなさんは
本当の意味でその気にならないんですね。

北川

「仕事だから・・・」と言ってつくってもらっても、
いいものにはならないですし。

藤林

でも、藤野さんはプログラマー出身ですし、
北川さんと竹村さんはデザイナー出身ですので、
彼らの苦労がわかったうえで、
うまくやりとりしてもらえたように思います。

北川

そうですね。
現場の気持ちがよくわかる3人が
プランニングを担当しましたので、
それが「砂漠」というステージを
すごく手ごたえのあるものにできたようにも思います。

岩田

・・・いまの話はけっこう面白いポイントで、
世の中にはいろんなゲームのつくり方があって、
会社の方針によっては、入社したときから
プランナーを担当するところもあるんですよね。

北川

はい。

岩田

でも、任天堂は新卒でのプランナー採用を行っていなくて、
開発部署に配属されると、デザインをしたり、
プログラムをしたり、音楽をつくったりして、
現場でモノをつくるというのはどういうことなのかを
学んだうえで、プランナーの仕事が任されるんですよね。
これは、任天堂の特徴のひとつでもあるんですけど。

北川

そうですね。
そういった制度だから、
プランナーの指示の出し方次第では
現場の人たちがどんな混乱におちいるかを知っている、
ということなんだと思います。

岩田

今回のように、敵から地形まで
2個つくらないといけない「転移システム」というのは、
もし間違った使い方をすると、
たくさんの人に迷惑がかかるわけですよね。

藤林

そうなんです。
せっかく2個つくってもらって、
「ボツになりました」とはなかなか言えないですし・・・。

岩田

“一粒で二度おいしい”どころか、
三度も五度もおいしいものにならないと、
わりが合わなくなってしまうわけなんですね。

北川

ああ、だから・・・3つのエリアをつくろう、
ということになったのかもしれません。

岩田

なるほど(笑)。
それと、3つつくるくらい
「転移」というネタにうまみがあったんでしょうね。

藤林

そうですね。

岩田

さて、その「転移」を使うこと以外に、
「砂漠」はほかのステージとはここが違う、
というところはありますか?

藤林

たとえば、Wiiモーションプラス(※7)を使って、
「森」「火山」とは違った遊びを用意しました。
あるものをひねってみたり、
あるものをさし込んでみたりと、
仕掛けを解くために「砂漠」専用の使い方もしています。

※7

Wiiモーションプラス=ジャイロセンサーを内蔵し、Wiiリモコンに取り付けることで細やかな動きを感知できるようになる周辺機器。

岩田

つまり、剣を自在に振ること以外にも、
Wiiモーションプラスを使った
別の遊びを用意したんですね。

藤林

そうです。あと、敵にも
クリアするための仕掛けを用意しました。
これまでの敵というと、倒してしまえば
それでおしまいでしたけど、
「砂漠」のステージでは剣で倒すだけではなく、
倒した敵を利用して、謎解きに使ったりもするんです。

岩田

「敵を利用する」というのはどういうことですか?

藤林

敵を倒しても、消えてなくなりません。
具体的に言うと、
→シャコマイト」という敵が出てきます。
シャコのようでもあるし、
アンモナイトのようでもある姿なんですけど。

岩田

だから、シャコマイトですか(笑)。

藤林

はい(笑)。もともとその敵を考えたときは、
「こういうことをしたい」という
遊びや機能についてのアイデアがあっただけで、
姿かたちはまったくイメージがなかったんです。
そこで、デザイナーさんも交えてミーティングをしたんですけど、
「それは生物なのか、機械なのか、いったい何なんでしょうね?」と
デザイナーさんに質問されて。

岩田

機能を先に考えるから、
デザインは後付けになるんですね。

藤林

そうです。
そこで、みんなでいっしょに考えて、
最終的にデザイナーさんが仕上げてくれたのが、
シャコマイトでした。

竹村

それに「砂漠」に出てくる敵は
昔の姿と現在の姿がぜんぜん違うものが
けっこう出てきますから、それを見ているだけでも
いろいろと楽しめるんじゃないかと思います。