岩田
「社長が訊く」の第1回目のときに、
その「古代文明」の設定ができたことで
「この人はロボットにしよう」
という話もありましたよね。
北川
はい。それもこのステージの大きな特徴のひとつです。
「砂漠」にいるキャラクターや敵たちはロボットですし、
それらは電気仕掛けで動いたりしているんです。
藤林
でも、『ゼルダ』の世界で
そもそも「電気」と呼んでいいのだろうか?
という問題もあって(笑)。
岩田
ああ、確かにそうですね(笑)。
藤林
なので、そういった用語についても
いろいろ考えましたし、
ロボットのデザインに関しても、
あまりにもメカっぽいものは避けるようにしました。
岩田
藤野さんはどう思いましたか?
「古代文明」とか言いながら、
『ゼルダ』の世界にロボットを出すと聞いて。
藤野
「ホントにいいのかな・・・」と。
岩田
「『ゼルダ』にこんなものを出してもいいの?」
っていうことですか?
藤野
はい(笑)。
岩田
やっぱりメカニカルなものに、
みなさん、最初は戸惑うんですね。
北川
そうなんです。
岩田
でも一方で、動いている絵を見ると、
別にこの世界にいても変だとは思わないですね。
なんとなく・・・馴染んでいるんですよね。
藤林
そうですね。
そのあたりはやっぱりデザイナーさんの力だと思います。
「こういうことができるロボットがほしい」と
僕たちが機能的なポイントを伝えるだけで、
その世界に即したものをちゃんと生み出してくれたんです。
岩田
それが“デザイン力”と呼ばれるものだと思うんですけど、
どうやって馴染ませているんでしょうか。
デザイナー出身の北川さんはどう思いますか?
北川
担当したデザイナーさんは、
なんとか軟らかいイメージを出そうとしていました。
そこで、土偶や縄文土器などを参考にしながら、
それがロボットになったらどうなるんだろうか、
ということで設計していました。
岩田
なるほど。「古代文明」だから
そういうものをモチーフに選んだんですね。
ふつう、ロボットというと
金属っぽい硬いデザインになりそうですけど、
日本古来の土偶などを意識することで
軟らかいイメージを出すことができて、
しかも、この世界に違和感なく
溶け込ますことができたんでしょうね。
北川
そうだと思います。
岩田
ちなみに、「古代文明」という設定で、
ほかにはどんな遊びが生まれたんですか?
北川
たとえば「地図」がそうです。
わたしが担当した最初のエリアでいうと、
現在歩いているところでは、見えない謎があって、
どうしても解けなかったりするんです。
そうしてると、古代の地図が手に入って
昔の状態がわかるようになるんです。
それと現代の様子を重ねると・・・
といったネタをやっています。
藤林
実際、流砂のために先に進めないようなところでも、
じつはその下に遺跡が隠されているということが
古地図を見ると、わかったりするんです。
北川
なので、その古地図が
先に進むためのヒントになるんです。
岩田
へえ〜、まるで平安京の古地図を見ながら、
現在の京都を歩くみたいな話ですね。
では、2つ目のエリアについてお訊きします。
先ほど藤野さんが「砂漠が海になって船で進む」
なんて、ちょっと意味不明のことを言ってましたけど、
いったいどういうことなんですか?
藤林
まず最初に考えたのは、転移させた場合
「砂漠と対比して面白いものは何だろうか?」
ということでした。
岩田
それで、「海」ですか。
藤林
はい。で、海があるのなら、
船を浮かべないと、と思って。
岩田
欲張りですね(笑)。
藤林
はい(笑)。
そこで例によって
「海と船。しかも砂の上をはしる「砂上船」を出しましょう」と、
藤野さんに、振ってみたんです。
岩田
藤野さんは、それをどう受け取ったんですか?
その無茶振りに対して(笑)。
藤野
いえ、単純に面白いと思いました。
で、「船を浮かべたい」という話でしたので、
まず、船に関する資料を
片っ端から集めることからはじめました。
藤林
あの当時、藤野さんの机の上はすごかったんですよ。
船を輪切りにした本とか、船の設計図とか、
船に関する本が山積みになっていました。
岩田
でも、その山積みの資料をどうするんですか?
藤野
いろんな資料を片っ端から開きながら、
ひたすらネタを拾うようなことをしていました。
で、気になることがあると
どんどん箇条書きにしていって、
「これは使えそう・・・」
「これは使えなさそう・・・」というのを
頭のなかでグルグルと考えていきました。
岩田
ああ、そうなんですね。
まずはネタの要素をバラバラに分解して、
それらを頭のなかでグルグル回して、
「これとこれを組み合わせると面白い・・・」
「ここはうまくつながる・・・」みたいに
バラバラのピースを組み合わせるようなことをしたんですね。
藤野
そのとおりです。すると、
次第に形がぼんやりと見えてくるようになります。
でもやっぱり、どうしても足りないピースが2カ所、
あるいは3カ所くらい出てきたりするんです。
岩田
自分ひとりで考えるのは限界があるわけですね。
藤野
はい。で、そのくらいの段階に達したら、
みんなにプレゼンをしました。
すると、地形をつくるデザイナーさんとか、
プログラマーさんが、アイデアを足してくれるんです。
岩田
それは頭のなかで培養したアイデアが、
まだ完成には至っていないんだけど、
一定の形まで育っているので
「こうすれば着地するよ」といった感じで、
いろんな人が言ってくれるようになる、
ということですか。
藤野
そうなんです。
なのでずいぶん助けられました。
岩田
ちなみに、藤野さんのプランナー歴は
今回で何回目になるんですか?
藤野
DSの『夢幻の砂時計』(※5)までは
プログラマーをしていたんですけど、
次の『大地の汽笛』(※6)のときに
初めてプランナーを担当しましたので、
今回で2回目になります。
※5
『夢幻の砂時計』=『ゼルダの伝説 夢幻の砂時計』。『ゼルダ』シリーズ初のニンテンドーDS用タイトルとして、2007年6月に発売された、ペンアクションアドベンチャーゲーム。
※6
『大地の汽笛』=『ゼルダの伝説 大地の汽笛』。ニンテンドーDS用ソフトとして、2009年12月に発売されたペンアクションアドベンチャーゲーム。
藤林
僕は『大地の汽笛』のときは参加しなかったので
プレイヤーの立場で遊ぶことができたんですが、
ちょっと触っただけで、藤野さんがつくった
ダンジョンはわかるんです。
もう・・・独特のクセがあるものですから(笑)。
岩田
へぇ〜、それはどんなクセなんですか?
藤林
よく言えば・・・謎解きがメインの、
ものすごく『ゼルダ』っぽいダンジョンなんです。
悪く言うと・・・理屈っぽいというか。
岩田
ああ、プログラマーならではの理屈で、
理詰めで解かせるような感じじゃないですか?
藤林
そう、そうなんです!
まさに“理詰めダンジョン”なんです(笑)。
で、今回の『ゼルダ』の、とくに「砂漠」では、
そういうダンジョンをつくりたいと思っていたものですから、
まさに、彼が適任だと。
岩田
なるほど。で、任された藤野さんは、
「砂漠」の2つ目のエリアでは
どんな遊びを考えたんですか?
藤野
今回は「ダウジング」という仕組みがありますよね。
岩田
ゼルダを捜したりする仕組みですね。
藤野
で、ほかのステージの話を聞くと、
プレイヤーが僕のステージに到達するまでに、
リアルタイムで動くものを捜すといった遊びが
あまりなかったんです。
岩田
お目当てのものが固定されていたり、
あるいは立ち止まってることが多かったんですね。
藤野
はい。でも、僕が担当したステージでは、
すでにゲームの中盤に入っているということもあって、
ひとつ難易度を上げて
「移動しているものを捜す」
という遊びをつくりたかったんです。
そこで、大きな船が海をさまよっていて、
それを捜す、という遊びを考えました。
岩田
海をさまよっているから、
鬼ごっこのような遊びができるということですね。
藤野
そうです。
岩田
で、ここで藤野さんの
“理詰めダンジョン”が発揮されるんですね?
藤野
はい(笑)。船を見つけられたら、
みなさん、たっぷりと楽しんでいただけると思います(笑)。