6. 「僕らが想像したものを大事にしよう」

岩田

坂口さんは今回、最後まで
自分のなかで揺らぐことなく走りきれたと思いますか?

坂口

はい。本来、僕はウケたい気持ちが強いタイプなんですが
今回は肩の力をあえて抜くようにしていました。
気を抜くとウケる方向性へ戻ってしまう感じがして、
その気持ちをおさえるのがいちばん大変でした。

岩田

“ウケるための方程式”をあえて捨てて、
左右されないようにしていたんですね。

坂口

そうです。だからたった1体のオーガに鎖をつけるように、
自分たちがワクワクするようなことを
とにかくつめ込んでいったんです。
とはいえ、あとから加えていったので、
効率が悪かったと思いますが・・・。

岩田

でも、そうしないと生まれないものなんですよね。

松本

ええ。もっとも、最初は効率を重視してつくっていきました。
『ブルードラゴン』の反省を活かして
背景のつくり方、キャラのつくり方、着せ替え、
ダンジョンの制御の仕方などは、効率的につくれたと思います。
だからこそ、途中ギャザリングで煮詰まっても
何とかついていけたんだと思います。

坂口

ギャザリングをあれだけいじれたのも、
はじめに土台があったおかげだよね。

岩田

おふたりが昔、居酒屋で話していたことは
実現できたと思いますか?

坂口

はい、そう思います。

松本

ああいうプロジェクトのはじまり方はいいなあって思います。

坂口

でも、なかなかできないよね。
とくに同時にショックを受けたりしないと。

岩田

根っこで、共通する環境が必要ですよね。
何らかの出来事を同時に、当事者として味わってないと、
同じ方向を向いてつくるというのは難しいです。

松本

坂口さんと居酒屋で話したことをスタッフに話したら、
みんなそのとき同じように何かを感じていたようで
気持ちが通じやすかったんです。

岩田

おふたりの想いが響いたからこそ、
終わりなきマラソンで不安を持ちながらも
スタッフたちは走りきることができたんですね。

坂口

じつは具体的に目標のゲームがあったわけではなく、
動画共有サイトでいくつかの映像を見たときに
そこから僕らで勝手に想像したゲームがあったんです。
その想像したゲームの方向性こそ
“次世代ゲーム”じゃないかって思ったんですけど・・・。

松本

実際にはそういうゲームはなかったんですけどね。

坂口

ええ。だからその後もずっと言いつづけていたのは、
「あのとき動画だけを見て、僕らが想像したものを大事にしよう」
ということでした。

岩田

動画を見て、自分たちはすごく取り残されているような
気がしたけれど、現実にそういうものが
世のなかにあるわけではなかった。
そのとき自分たちを打ちのめした
想像上のゲームをつくろうと決意したんですね。

坂口

そうです。
ときどき、映画やアニメなどでも、
“打ちのめされるもの”と出会うことがありますよね。
今回、その動画と出会えたタイミングがよかったと思います。

岩田

では最後に、松本さんにおうかがいします。
坂口さんとごいっしょに仕事をされて、大変だったことと、
逆にものすごく手ごたえを感じたことはどんなことですか?

坂口

僕は席・・・はずしましょうか?(笑)

松本

・・・褒めるときは、いないほうがいいかな(笑)。
僕はね、坂口さんの仕上げに対する厳しさを
いちばんすごいなぁと思うんですよ。
自分はそこまでこだわれなくて、
『ブルードラゴン』のときも今回も
打ちのめされることが多かったんです。

岩田

自分と坂口さんのOKラインの差に、圧倒されるんですね。

松本

はい。「坂口さんだったらどう判断するだろう」
って僕はよく考えるんです。
そのときにいつも「あー、かなわないなぁ」って思います。
でも逆に、自分もまだ伸びる可能性があるんだと強く思うんです。
だから、つらかった部分は、
自分のダメさが浮き彫りになることで、
いい部分は「まだまだ自分も伸びる可能性があるぞ」
と思えてがんばれることですね。

坂口

いやあ、今日はぐっすりと眠れそうだよ(笑)。

岩田

(笑)。これが、7年半、坂口さんと
濃密におつきあいされた方の本音なんですよね。
「ものをつくる仕事は年齢を重ねるほど
エネルギーが失われる」と言う人がいるんですけど、
わたしはぜんぜんそう思いません。
そこはきわめて個人差が大きいと思うんです。
今回、坂口さんほどのつくり手が
3年前に動画を見て打ちのめされて答えがわからないなか、
ずっとエネルギーを燃やしつづけた結果、
『ラストストーリー』という渾身の1作が生まれているわけです。
そのエネルギーをお客さんにわかってもらうことが、
このタイトルに興味を持ってもらえるかどうかの
最大のポイントだと思います。
 
完成までもう少しです。
ありきたりな言葉ですが、お客さんにはもうしばらく、
楽しみにお待ちいただければと思いますね。
坂口さん、松本さん、本日はありがとうございました。

坂口・松本

ありがとうございました。