岩田
さて、いよいよ発売までもう少しですが、
長期間の開発を今振り返ってみて、
松本さんがいちばん大変だったことはどんなことでしたか?
松本
うーん・・・やはり新しいことをどんどん試してしまったので、
その尻ぬぐいが、ものすごく大変でしたね・・・。
坂口
あの・・・今だから言うけどさ、じつはスタッフの人たちが
「松本さんは、いつまで坂口さんの言うことを聞くつもりなんだ!」
って話しているのを・・・聞いちゃったんだよね(笑)。
オフィスのトイレの個室のなかで。
松本
え・・・?(笑)
でも、それは言いたくなったでしょうね。
終わりがない感じがした時期も、きっとあったでしょうし。
岩田
ゴールが見えないマラソンはつらいですからね。
ゴールまでの距離がわかれば、
「俺たちはあそこまで走ればいいんだ」って思えますが、
あと3キロなのか、それとも30キロなのかがわからないと
不安になりますから。
これほど何度も、長く修正を加えつづけたことは
はじめてなんですか?
松本
はい。さすがにいろんなところから怒られました(笑)。
全部動かしてはじめて気づくことも多かったので、
今回は最後まで調整しつづけましたから。
岩田
ああ、今の言葉で思い出しましたが、
はじめて宮本さんと仕事をしたとき、
「ゲームは2回つくると面白くなるんですよ」と言っていたんです。
ゲームはいちど全部動かしてみなければ
わからないことがどうしてもあるからです。
でも限られた時間のなかで、どれだけ最後まで
本当に直すべきことにエネルギーを注げるかってことですよね。
坂口
そう思います。いまや世界中でゲームをつくっていますから、
自分たちがつくり手としての価値を出すためには
苦しくても、その先にあるものを目指さないとダメだと思うんです。
それなら、それをやらせていただけるなら、
とことんやりたかったんです。
松本
今回、最後までやらせてもらえた、というところは大きいですよね。
本来はもう少し早い発売予定で、
当初の締め切りを守ることも大事だったんですが・・・。
坂口
それが今回、時間をプラスしていただけて、
本当にありがたかったです。
岩田
進捗状況の報告を任天堂の担当者から受けながら
「坂口さんの挑戦を活かすためにはどうするべきか」と考えて、
当初の締め切りよりも大事なことだと確信したんです。
ただ、ゴールの見えないマラソンをつづけるなかでも、
スタッフ全体のテンションが落ちていないんですよね。
それはなぜなんでしょうか?
坂口
まず、松本さんが怖いからですね(笑)。
それからプログラマーが、非常に楽しんでやっているんです。
たとえば、オーガという魔物が1匹だけ
鎖につながれているんですが、そのたった1匹だけのために、
どう考えてもトゥーマッチな鎖のプログラムを組んでいる。
そういうのをつくるときが、いちばん楽しいそうなんです。
松本
それはね、坂口さんのレスポンスがいいからですよ。
そういうのをちょっと入れて渡すと、
すぐ気づいて「いいねえ!」って言ってくれるから・・・。
坂口
スケジュールの心配はありつつも、
そこはやっぱりノリが大事ですから、
「すっごくいいよ、このオーガ!」って。
松本
すると、「よーしウケた!次もやるぞ!」となるんです(笑)。
岩田
そういうものの積み重ねで、全体の印象は変わりますよね。
松本
スタッフにとって、それがある種のガス抜きみたいでした。
そこが、最後までモチベーションを保てた理由だったんでしょう。
坂口
モノになるガス抜きは大歓迎です。
あと、松本さんはもともとプログラマー出身なので、
彼らとのパイプが強いんです。
一方で僕は企画出身ですから、松本さんとの相性もよかった。
でも、あえてここで言うけど、ときどき・・・
ムカッとは来たけどね(笑)。
松本
あの・・・全作業が終わってからのほうがいいんですけど・・・(笑)。
坂口
いや、終わってからだと忘れちゃうんですよ。
すべてがうまくいったように思えちゃって。
だから今のうちに言っておかないと(笑)。
岩田
そういえば、坂口さんはハワイと日本を行き来されていますが、
松本さんとのやりとりは主にメールなんですか?
松本
そうです。とにかく、坂口さんのメールが早い早い!
ハワイとの時差がわからないときがあります。
岩田
ハワイにいらっしゃるときの仕事時間は
どういうサイクルなんですか?
坂口
日本の夜9時から深夜3時くらいまでは寝ています。
あとはフル活動。ハワイはね、娯楽がないんですよ(笑)。
だからパソコンの前に座っているのがいちばん楽しいです。
岩田
なるほど(笑)。それが、時差がわからない秘密ですね。
「ハワイに娯楽がない」なんて、
本当に住んでいないと言えないですね。
他に制作秘話があれば教えてもらえますか?
松本
そうですね、たとえば僕が最初につくった本格的なダンジョンが、
じつは本編の最後のダンジョンで使われています。
礼拝堂のダンジョンなんですが、じつは僕が
個人的に礼拝堂やお城の構造が大好きなんです。
坂口
昔、仕事でイギリスに1年くらい行ってたんだよね?
松本
はい。イギリスに駐在しながら、
週末にはお城や修道院めぐりをくり返していました。
そのとき趣味で集めた修道院などのパンフレットが
『ラストストーリー』のステージデザインに役立っています。
岩田
へえ〜、何が縁になるかわからないですね。
松本
本当です。自分好みでつくった礼拝堂のダンジョンが
まさか本編で使われるとは思っていませんでしたから。
坂口
じつはそのダンジョン、本編には入れない予定だったんですよ。
サブクエストなどでは使うつもりだったんですが、
結局使うことになりました。しかもすごく重要な場所です。
テストプレイであそこに入ると、なつかしさがよみがえるよね。
松本
はい。はじめてつくったのが、3年前ですから・・・。
坂口
でも、今思うと、実験的なニオイが残っているダンジョンだよね。
左右にわかれている道をどちらに進むか選択するんです。
実際どちらに進んでもあまり変わらない・・・。
松本
確かに(笑)。当初つくったときは
単に敵が出るタイミングや演出が違うということで、
左右のルートをつくっていたんですが、その名残ですね。
坂口
だから何と言うか・・・全体のなかでいちばん、
あまり意味のない選択肢になってる(笑)。
松本
でも、そこがむしろ『ラストストーリー』らしいですよ。
無駄をはぶいてしまえば、なくなるものはたくさんある。
でも、それらを大切にする方針だったからこそ、
一見、無駄と思えるものが仕様として残っているわけで・・・。
そこにノリというか、独特のライブ感があるんだと思います。