5. “ちゃんと世界がここにある”

岩田

少し、設定上のお話をお訊きしたいんですが、
オフラインで遊んでいるお客さんが
地つづきでオンラインに入っていくために、
どういう設定をつくられたんですか?

堀井

まずオフラインのとき、
2人のキャラクターをつくってもらいます。
自分と、自分の姉妹、あるいは兄弟からはじめるんです。
最終的に、オンラインとオフラインの両方を
プレイできるようになります。

岩田

とりあえずネットワークにつなげなくても、
ある一定のボリュームが遊べるんですね。

堀井

いえ、まあ、そんなにボリュームはないですけど。

齊藤

そこに留まってもらうことが目的ではないので。
でも、期待感を盛り上げるシナリオで勢いをつけて、
オンラインへの背中を押してあげる導入としては、
成功してるんじゃないですかね。

堀井

うん、操作も覚えるからね。
多少、いままでと違う部分もあるんですけど、
感覚でうまく操作できるようにつくってあります。

岩田

『ドラゴンクエスト』の文法だけれども、
ちょっと違うところがあるんですか?

藤澤

ええ。とくにバトルが違います。
今回は→リアルタイムバトルなので、
オフラインではオンラインに入る前に、
まずは1人でゆっくり、バトルの練習をしてもらう
役割も果たしていると思います。

岩田

でも、ローカル部分をそれだけつくるのに、
手間とエネルギーがかかったでしょうね。

藤澤

はい。「もう少し軽くつくってもいいんじゃないか」と、
何度も堀井さんに提案しようと思ったんですが(笑)、
ゲームの間口を広げる役割をする部分だから、と
思いとどまりました。

堀井

でも、オフラインをつくるほうが大変だとは、
思わなかったよね。

岩田

それはどういう意味ですか?

堀井

もともとオンラインの仕様でつくっていたから、
オフラインでは途端に処理スピードが落ちてしまう、
という現象が起きたんですよ。

藤澤

単純に言うと、
もともとサーバーとクライアントで
分散して処理するつくりにしていたものを、
オフラインのときはサーバー側の処理も
クライアント(Wii本体)で動かさないといけないので、
処理が重くなってしまうんです。
それをどう解消するか、技術陣の腕の見せどころでしたけど、
最終的にはオンラインよりサクサク動くようにしてくれました。

堀井

普通、感覚的には、
「オンラインよりもオフラインのほうがサクサク動くだろう」
って思っちゃうんですけど、逆だったんで、
びっくりしました。

藤澤

堀井さんに見ていただいたときに、
「オフラインでこれだけ動いて、すごいでしょう!」
と言っても、堀井さん、ポカーンとしていて(笑)。

一同

(笑)

堀井

普通の人はやっぱり、オフラインのほうが大変とか、
そんなこと思わないですからね。

藤澤

はい。頑張ってもなかなか伝わりづらい部分を
頑張ったスタッフがいたということは、
ここでアピールさせてください(笑)。

齊藤

紙山(満)さん(※13)だよね。

藤澤

そうですね。彼がいなかったらできなかったと思います。

※13

紙山満(かみやまみつる)さん=株式会社スクウェア・エニックスのプログラマー。今作『ドラゴンクエストX』では、オフラインモードのプログラマーチーフを担当。そのほかの主な担当作品は、『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル リング・オブ・フェイト』『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル エコーズ・オブ・タイム』などがある。

堀井

あと、ちっちゃいところも、すごく凝ってるよね。
→スライムベスが寝てるとか、
アクションもすごくかわいいし。

藤澤

“ちゃんと世界がここにある”
そんなふうにつくりたかったんです。
誰も見ていない場所が1か所でもあると、
世界って死んじゃうので。
隅々まで人の意識を行き渡らせるようにしました。

岩田

いろんなところに工夫が散りばめられているからこそ、
世界が生き生きしているのであって、
「こんなところまで!」っていうのを発見したときは、
プレイヤー心理からすると
思わずニヤけてしまいますね。

藤澤

たとえば、大きな川の中洲にモンスターが眠っています。
そこはプレイヤーはどうやっても行けない場所なんですけど、
夜に活動するモンスターが昼間はそこで寝ているんですね。
ゲーム的には無意味かもしれないですが、
そういうものを一つひとつつくっていくことが
「この世界は生きているんだ」
という実感につながると思うんです。

岩田

その遊びがさまざまな想像力をかき立てて、
表現していないところまで、全部埋めてくれるんですね。

藤澤

はい。開発内では、2か月に一度は動くものをつくって、
スタッフ全員で触って、意見を出し合ってきました。
スライムベスが眠っている芸の細かさも、
そのうちのひとつです(笑)。

堀井

うん。モンスターがいろんな動きをしているんですよ。
草むらに隠れたりもしていて、かわいいです。

藤澤

そうですね。
今回、『ドラゴンクエスト』としては、初の内部開発なんですが、
「モーションなどをつくる能力の高さはすごいな」と、
逆に僕たちがスタッフの力にびっくりしたぐらいでした。

岩田

確かに、スクウェア・エニックスさんという会社ができて、
象徴的なものづくりという気がしますね。

齊藤

そもそもなぜこの体制にしたかというと、
お客さんのニーズに早く応えるには、
後々の運営を考えると、
「社内開発のほうがやりやすいだろう」
と思ったんです。

岩田

そうなると、はじめて『ドラゴンクエスト』を
つくる方もたくさんまざるわけですよね。

堀井

95%ぐらいは、はじめてかもしれないです。

齊藤

じつはわたしも『ドラゴンクエスト』本編は
はじめてなんです。携帯電話の『ドラゴンクエスト』コンテンツは、
事業部長という形で携わったことがあるんですけど、
95%の中の1人がわたしです。

藤澤

で、5%が僕です(笑)。

岩田

齊藤さんは『ドラクエ』本編をはじめてつくるうえで、
どんなおどろきと発見がありましたか?

齊藤

わたしは堀井さんと仕事をするだけで
モチベーションを保てて頑張れましたので、
大変というより「楽しく突っ走れたかな」と思います。

岩田

以前にネットワークゲームをつくっていた経験は、
今回、どれくらい役に立ちましたか?

齊藤

設計のノウハウは土台をつくるうえで
役立ちましたけど、遊びの質については
「堀井さんに一任しよう」
と決めていたので、わたしは
「縁の下の力持ちでいい」と思っていました。

岩田

逆に藤澤さんは、
オンラインゲームをつくるのははじめてだし、
オンラインゲームにくわしい人、くわしくない人、
『ドラクエ』をつくってきた人、つくってこなかった人を
ひとつのチームとして、どうまとめていったんですか?

藤澤

このプロジェクトの出発点まで
話がさかのぼりますけど、齊藤から
「『ドラゴンクエスト』のオンラインゲームをやらないか?」
という話をもらったとき、熟考した結果、
じつはお断りしたんです。

岩田

一度は断られたんですね。

藤澤

はい。当時はオンラインゲームってよくわからなくて、
「自分が面白さのわからないものをつくるのは苦しい」
と思ったんです。でも、
「一度オンラインゲームを遊んでみろ」としきりに言われて、
堀井さんともプレイしたんですけれども、
確かに面白かったんです。でも、
「面白さに到達するまで、なんて時間がかかるんだろう・・・」
ということも同時に実感しました。

堀井

藤澤くんも、オンラインゲームはソロプレイだったの?

藤澤

いえ、僕はパーティーでやっていました。
でも、「知り合いとは絶対に遊ばない」
というポリシーのもと、外国の方と遊んでいました(笑)。
それでオンラインゲームの面白さを理解したうえで、
「この面白さと『ドラクエ』の面白さを融合させたらこの方向かなぁ・・・」
というイメージが何となく見えたんです。
それで堀井さんと意識を共有しながら進めていきました。

堀井

でも『X』の面白さを実際に確信できたのは、
ベータテスト版をはじめたころだったと思います。

岩田

やっぱり、前例のないものをつくるということは、
手ごたえはそこまでわからないんですね。

藤澤

はい。『ドラゴンクエスト』自体に、
大きな舵取りを求めていない方も多いと思うんですが、
そういう方たちからも、
「いつもとは違うけど、やっぱり『ドラゴンクエスト』だ」
とベータテスト中に言われたときに、
やっとホッとしましたから。

齊藤

テスターさんの反響がよくて、
その夜「よかったね!」ってようやく確認し合えましたよね。
ベータテスト版初日は、堀井さんのまわりに
スタッフが集まって、大きなモニターを使ってログインしたんです。
「発売日でもないのに、なんでこんなにうれしいんだろう?」
っていうくらい、そのときの光景は
頭の中に焼きついています。