岩田
“オンラインゲームでは常識”
と言われていたことをひとつずつ洗っていかないと、
みんなが遊べるオンラインには化けない気がするんです。
『X』では、そのプロセスにエネルギーを注がれたんですね。
堀井
そうですね。
たぶん「オンラインゲームを遊んだことがない方が
いっぱい入ってこられるだろう」と想定していたので、
そこにいちばん気をつかったよね。
藤澤
はい。僕がよく覚えているのは、
「4×2のメインコマンドのオンラインゲームなら、
ボクはできる気がするんだよなぁ」
と堀井さんがおっしゃっていたので、
「これはそうしなきゃいけないんだな」
って、プレッシャーを感じたことですね(笑)。
堀井
オフラインをやっているつもりでゲームをはじめたら、
「あ、なんだよ、オンラインにつながってたんだ」
と気づくようなものが理想的だと思ったんですよ。
岩田
だけど当然、ほかの人は
好き勝手に遊んでいるわけですから、
どうすればいいのか、かなり頭の痛い話ですよね。
堀井
でも、『ドラゴンクエスト』って長い歴史があるので、
ある意味、文法ができているんですね。
それを知っている人は説明書を読まなくても、
新しい『ドラゴンクエスト』がすぐ遊べるんです。
だからオンラインでもそうなるように、
みんなに頑張ってもらいました。
齊藤
ベータテスト版を遊んでいるお客さんの反応で、
「ここまで『ドラゴンクエスト』になっているとは思わなかった」
という声がすごく多いんですよね。
岩田
でも、『ドラゴンクエスト』の作法と、
オンラインゲームの常識をすり合わせるには、
一筋縄ではいかなかったはずですよね。
藤澤
そうですね。
僕は長年、『ドラゴンクエスト』の開発を担当してますけど、
「何が『ドラゴンクエスト』なのか?」ということや、
「どこに向けて、どうつくれば『ドラゴンクエスト』になるのか?」
ということって、ちゃんと言語化されていないんです。
堀井さん自身は自分の中で言語化されてますか?
堀井
なんか、感覚だよね。感覚(笑)。
藤澤
そうなんですよね。
僕も感覚で、ちゃんと言語化できていない部分が多いので、
人に説明するときにとても困るんです。
岩田
でも、もしそういったことが簡単にできるなら、
誰でもつくれるはずなのに、
多くのゲームが“『ドラゴンクエスト』のようなゲーム”を目指しても、
ひとつも『ドラゴンクエスト』にならなかったということは、
そういうアプローチではつくれないってことでしょうかね。
堀井
ルールじゃないんですよ、たぶん。
微妙な感覚なんだと思います。
齊藤
わたしは、堀井さんと打ち合わせをしていて、
「面白ければいいじゃん」という感覚的なものの積み重ねで
ちゃんと『ドラゴンクエスト』になっていくのが、
客観的に「すごいな」と思っていました。
堀井
面白さが浮かんだとき、それをわかりやすく伝える
“敷居の低さ”みたいな部分も大切なんです。
「このゲームは、この面白さを出したかったのかな」
と思うことがよくあるんですけど、そこまでたどり着けない、
“おしい”っていうゲームがけっこうあるような気がします。
プレイヤーが、面白さにたどり着ける前に、なにをどうしたらいいのか
わからない迷路に入り込んでしまうとか。
プレイヤーを不安にさせてしまうとか。
岩田
堀井さんは、普通の人が
怖がる部分へのセンサーが特別敏感で、
長い間、ゲームをつくりつづけていても
慣れることがないですよね。
堀井
自分自身がすごい怖がりなんだと思うんですよ。
だから人を安心させるために、
一生懸命やっちゃうんですよね。
藤澤
今回も、オンラインをはじめるときに
いくつか手続きがあるんですけど、
その説明の一言一句を、
堀井さんはとくにこだわられたんです。
それで圧倒的にわかりやすくなったんですが、
「ああ、ここをいちばん気にするんだなぁ」って、
思ったりしました。
堀井
プレイヤーはね、けっこう、
いろんなことが不安なんですよ。
岩田
オンラインゲームのつくり手は、
普通は深いところばかりをアピールしがちですけど、
「そういうところをアピールされても、不安に思うかもしれないよ」
というのが、堀井さんの視点なんですね。
そんな視点のオンラインゲーム作家は、
いないと思うんですよ。
藤澤
いないと思います。
齊藤
いないと思いますよ。
岩田
だから、オンラインゲームと無縁で生きてきた方が、
恐る恐る入ってみたら居心地がよかった、
ということが起こりうるのが、
今回の可能性という気がします。
堀井
あと、「入り込みすぎないように」っていう工夫もですね。
齊藤
そうですね。
藤澤
その葛藤は大きかったですね。
岩田
つくっている人が「入り込みすぎないように」(笑)。
そんなメッセージを出すオンラインゲームって、
聞いたことがないんですけど。
堀井
オンラインに入ってない時間もワクワクできて、
気持ちよくログアウトできるように、みたいなね(笑)。
藤澤
はい。わりと最近のカジュアルなゲームでは、
「毎日遊んでほしい」というメッセージを
ゲーム側が出しているものが多いと思うんですが、
『ドラゴンクエストX』は逆で、
「毎日、遊ばなくてもいいよ」というメッセージを出しています。
堀井
遊ばないと、ある程度、
得をすることもあるんだよね。
藤澤
はい。これは最初に堀井さんから、
「お客さんが、自分の生活を破綻させてまで
遊んでしまうゲームにだけはしないでほしい」
と言われまして、その答えとなるシステムをつくりました。
そのひとつめは「サポート仲間」です。
自分が遊んでいないときは、ほかのプレイヤーのお供として
自分のキャラを使ってもらって、
経験値やゴールドを稼ぐことができます。
岩田
自分が遊んでいない間もプレイしていたかのように、
自分のキャラが成長していくシステムですね。
藤澤
はい。ふたつめは「元気玉」です。
これはログインしていない時間をチャージできるシステムで、
一定時間がたまると、ひとつもらえるアイテムです。
これを使うと30分間、経験値とゴールドが2倍になるので、
週末しか遊べない人は元気玉がたまっているので、
ずっと2倍で遊べるわけです。
齊藤
遊んでいなくても置いてけぼりにならないので、
ゆっくり寝てください、と。
岩田
「寝る間を惜しまなくてもいいよ」ということですね。
うーん、これも聞いたことないです(笑)。
藤澤
最後は「サポートゴールド」で、
ゲーム進行上で特定の場所まで行ければ、
以降1週間ごとに、ゴールドが支給される仕組みです。
この3つは「毎日遊ばなくてもいいよ」という
メッセージを具体化したシステムなんです。
岩田
一方で、たくさん遊べる方もいるわけですけど、
そういう方と長時間遊ばない方とのバランスは、
どうやってとっているんですか?
藤澤
バランスをとるのではなくて、
究極的に言えば、
“人といっしょに遊ばなくてもいい”という提案に変えたことです。
岩田
え? 人と遊ばなくていいんですか?
藤澤
はい。けっきょく、なぜ人といっしょに遊べなくなるかといえば、
グループから1人だけ遅れてしまったときに、
孤独感や、疎外感を味わってしまうからだと思うんです。
だからそういう方でも遊べるように、
“1人でも遊べるオンラインゲーム”にしようということを
『X』では最初から言いつづけてきました。
堀井
ボクは人見知りだから、懇意になるのが苦手なんですよ(笑)。
だから『FFXI』も、ずっとソロでプレイしていました。
岩田
今度のベータテストでも、
堀井さんに話しかけると逃げるらしいって、ウワサがありますよね(笑)。
齊藤
それ、本当です(笑)。
堀井
でも、オンラインで感じられる、
人の存在は好きなんです。
だから『IX』(※8)のすれちがい通信(※9)みたいな
軽い人間関係が「いまどきでいいんじゃないかな」と思う。
※8
『IX』=『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』。2009年7月、DS用ソフトとして発売されたRPG。『ドラクエ』シリーズ9作目。
※9
すれちがい通信=電源を入れたまま本体を持ち歩くことで、すれちがった人とデータのやりとりができる通信機能。
岩田
じゃあ「何時に集合な」という関係になるのは、
重すぎるわけですね。
堀井
そう、束縛されちゃうからね。
齊藤
でも、たまにはいいんですよね。
堀井
うん、たまにはいい。
岩田
たまにはいいんですか(笑)。
齊藤
堀井さん、ベータテスト版でも、
テスターさんと待ち合わせしていましたよね。
わたしたちはそれを聞いてびっくりしましたもん。
堀井
そうそう、その人といっしょに、
あるクエストをクリアしたんですけど、
なんか相手にすごく感激されてね。
岩田
堀井さん・・・それは感激されますよ(笑)。
一同
(笑)